地球の選択
アランが汽車と出会うきっかけとなった地震。その範囲は広く、アラン達の村から遠く離れた別の村でも揺れが起きていた。
天空にそびえ立った山々の上に位置する村。旧時代よりもはるか昔の遺跡が残るこの村では、根強い当主制で成り立っている。文化水準はアラン達の村と同等である。村の当主シモンズは、20代前半という当主として前例のない若さであったが、頭脳明晰な好青年であることから村人達に信頼されていた。
地震の起きる前夜、シモンズは高床式の館で重役達と、村の主食である芋の不作について話し合いをしていた。数時間の会議が終わると館から重役達が去っていき、シモンズは一人で晩酌を始める。すると義妹のハンナが恐る恐る部屋を覗いてきた。「会議は終わりましたか。」と優しげでありながらも、力強さを感じる声で語りかけるハンナ。シモンズは「何だ、ハンナですか」と物優しげに話しかけ、「そんなところにいず、こちらに来てください。」とハンナを部屋に招き入れる。ハンナはゆっくりと部屋に入り、シモンズの隣に座る。「兄様、お疲れ様です。」と静かに話しかけるハンナ。「今日は疲れました。倉庫から食べ物を持ってきてくれませんか」と微笑みながらハンナにお願いをするシモンズ。ハンナはゆっくりと頷き、隣の部屋へと食べ物を取りに行く。
ハンナとシモンズは、子供時代の思い出や最近の出来事などを話し、一時間ほど談笑を楽しんだ。その後、ハンナが帰り一人寝床に着くシモンズ。しばらく目を瞑り眠りにつこうとしていた。すると大きな揺れが起こり、部屋にある棚や蝋燭台が倒れ始める。揺れが大きく、立ち上がることも困難な状況で、シモンズは床にしがみつく。
地震が収まると、村人達は家から出て、お互いの無事を確認し合う。ハンナはシモンズの無事が気になり、館を見に行く。館に着くとハンナは、目の前の光景に衝撃を受け、呆然と立ち尽くす。シモンズの住まいである館は、倒壊していたのだ。それだけではなく、館を分断するように地面に亀裂が入っていた。
頬に落ちた水滴の冷たさで目を覚ますシモンズ。驚いて周囲を確認する。辺りは薄暗く、地面には丸石が詰まっていた。シモンズが倒れていた位置は河原のようであり、落ちた先が水面であったために無傷であることを悟るシモンズ。
地震でできた裂け目から、太陽の光が差し込んでいる。また、水辺には、芋などの食料が詰まったタルや袋が散乱している。明かりも食料もあり、少し安堵するシモンズ。しかし、余震は続いており、小さな揺れが度々起こる。シモンズは「余震が治るまで救助は来そうにありませんね。」と独り言を呟く。食料を確保し、周囲の散策を始めるシモンズ。岩壁に沿って歩いていると岩壁の一部に不自然な箇所を見つける。「扉か?どうしてこんなところに、」とシモンズは呟く。シモンズは好奇心から、鉄製の扉を力強く引き開ける。扉の先には、複数の本棚が設置された20畳ほどの部屋が存在していた。シモンズは部屋の奥にボートがあることに気がつく。「なんだこの変なボートは」と呟き、シモンズは部屋へと引き込まれていく。
シモンズは3日ほど部屋にある資料を読み漁りながら救助を待った。資料には、部屋にあるボートや電池についての記述が載っていた。資料によると電池は旧時代に作られたもので、莫大なエネルギーを秘めているらしい。大きな衝撃を与えても爆破せず、少しづつエネルギーが放出されるという画期的な発明品であったようだ。資料には、部屋にあるボートについても書かれており、ボートは電池を動力として動くと記載されていた。どうやら、ボートには電池のエネルギー放出量をリアルタイムで調整できる装置が備わっているらしい。
シモンズは一通り資料を読み終えると、資料と共に部屋にあった電池を持ち、ボートに駆け寄った。「ここが電池の装着口で、加速と減速はペダルで操作するのか、、、」と興味津々でボートをいじくる。
シモンズが落ちてから5日たった頃、地上に繋がる裂け目から太いロープが数本降ってくる。余震が収まったことで村人達が救助活動を始めたのだ。
村人達が次々とロープを伝ってシモンズの方へと降りてくる。その中にハンナもおり、シモンズを見つけたハンナは涙目になりながらシモンズに駆け寄る。