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パンドラ

滑らかな斜面を、颯爽と駆け下る汽車。

「むさ苦しいな……」

貨車や客車はついておらず、狭苦しい空間であることを嘆くカート。

アランはスパナを持ち、隅で汚れた顔を拭ている。

「あんたも手伝ってくれ」

カートに視線を送るアラン。

「ちゃんと指示を出してますよ!」

カートは不貞腐れた声で返す。


そんな二人をよそに、

タケルは窓から身を乗り出し、

外の世界に目を輝かせていた。

周囲は灰色の岩肌。

後方には雪山、進行方向には荒野と湖が広がっている。

「アランも見ろよ!」

楽しそうに叫ぶタケル。

「作業がひと段落したらな!」

アランは微笑みながらそう返した。

タケルは外の美しさを共有したくてたまらなく、次々と話しかける。

アランも相槌を打ちながら、同じように外へ目を向けた。

青い空の下に広がる大地。

湿った風が2人を撫でた。

遠くに目を向けるアラン。

視線の先に“緑色の何か”が映る。

それが、ゆっくりと動いていることに気がつくと、

アランは、驚き、目を見開いた。

「何だあれ……」



「ショクブツの集まりだ」

カートの声が冷たく響く。

「マジかよ……いや、ちょっと待てよ……」

タケルが声を漏らす。

アランも驚き、顔色を失った。

「あぁ、俺たちの向かってる先って……」

そう言って線路を見つめるアラン。

線路は、ショクブツの蔓延る大地へと伸びていた。


「このまま山を下ったら、俺たちショクブツの餌食だぞ!」

アランが緊迫した声でカートを問い詰める。

「そうならないために汽車に乗ってるし、銃も持ってるんでしょ!」

カートは甲高い声で返した。

「嘘だろ……」

タケルは言葉を失う。


山岳を降り、大地を走る汽車。

ショクブツは遠くに見えるが、近づいてはこない。

「なんか拍子抜けだな」

タケルがアランに話しかける。

「ショクブツ達は、高速で動く俺たちを認識できていないからね!」

カートが当然のように言う。

「それを早く言え!」

アランとタケルが同時に騒ぎ立てた。

カートは苦笑しながら続ける。

「まぁ、食料や電池の補給は必要だから、危険がないわけじゃないよ」

古びた地図を広げ、カートは一箇所を指差した。

「補給できそうな場所の目星はついている」

アランはその地図の中央に描かれた“塔”に目を奪われる。

そんなアランの顔を見つめるカート。

「気になるか」

カートが穏やかに声をかける。

「この塔こそ、人類の希望と絶望が詰まったパンドラの中枢だ」

カートが強く言い放つとタケルは難しそうな顔で2人を見つめる。


「要するに、ここが目的地ってことか?」

そう尋ねるタケル。

アランは強く頷いた。



山を下り、荒野を駆けて半日。

「ちょっと、外の見張りを頼めるか?」

カートがタケルに外の様子を確認するよう指示する。

「分かったよ」

タケルは眉間にシワを寄せながら周囲を見渡す。

「よく見えねーな。」

そうタケルが言うと、カートは何やら筒状のものを取り出した。

「いいもん貸してやるよ!」

カートは望遠鏡を投げ渡す。

「これって、確か……」

ぎこちなく使いこなし、望遠鏡を覗き込むタケル。

「これはいいな、遠くが見やすいくて助かる」

そう言いながら、辺りを確認するタケル。


すると、遠く2時の方向に、群れをなして這いずり回る、ショクブツ達を発見した。

「おい!カート!斜め前にショクブツがいるぞ!」

慌てて叫ぶタケル。

タケルの容姿に相反して、冷静な様子のカート。

「その位置なら問題ない」

カートは淡々と告げた。

「このまま順調に行けば、明日の朝には補給地に着く。危険は少ないはずだ」

アランもタケルから望遠鏡を受け取り、周囲を見渡す。


灰色の岩肌が途切れ、乾いた大地が広がり、ところどころに黒い影が落ちている。

アランは線路から少し外れた方向へゆっくりと視線を移した。

「何だ、あれは……」

地形の影とは違う、細く不自然な影が横たわっている。

アランは望遠鏡の焦点を合わせ、影の輪郭を追う。

「……まさか」

低く漏れた声と同時に、像がはっきりした。

望遠鏡の先に写っているそれは人影であった。

少女が地面に倒れている。

風に揺れる髪、動かない肩、周囲には誰もいない。

その姿を見た瞬間、雪の上で倒れていた母の姿が脳裏に重なる。

胸が一度だけ強く跳ね、アランは無言で望遠鏡を下ろした。


「助けないと、」

即座にカートへ報告し、銃を腰に携えて外へ出ようとするアラン。

「今行けばショクブツの餌食だ!」

カートが制止する。

「ここで見捨てたら、村を出た意味がない。」

アランは力強く言い放つ。

「必ず戻る」

そう言いタケルの肩を叩くアラン。

「ちょっ、待てよ!」

タケルとカートの静止を振り切り、アランは汽車から飛び降りた。


カートは仕方なく汽車を急停止させ、銃を構える。

アランは荒野を駆け、少女のもとへかけ出す。

少女の元へ辿り着くアラン。

意識のない少女の脈を確認し、すぐさま抱えて走り出す。


「アラン!後ろ!」

突然、タケルの声が響き渡る。

アランが後ろを振り向くと、

ショクブツの群れがアランに向かって、迫っていた。

逃げながら、後方に向かって銃を連射するアラン。

数が多く、群れの勢いは止まらない。

ショクブツから伸びたツルがアランの体に絡みつく。

「しまった!」

アランは少女を庇いつつ、ショクブツへ向かって発砲しようとする。


次の瞬間、ツルが突然爆発した。

続けて、周囲のショクブツが次々と爆散する。

汽車を見ると、カートがスナイパーライフルを構えていた。

「タケル!レバーを!」

カートはタケルに汽車を発進させるように叫ンダ。

タケルは戸惑いながらも汽車を動かす。

「今のうちだ!早く乗れ!」

タケルが叫ぶ。

アランは動き出した汽車へ飛び乗る。

間一髪で少女の救出に成功した。

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