月下
切り立った谷底で、黄色い機体を見つめるアラン。
夕暮れの光が谷を斜めに流れていた。
「行くのか?」
低い声で問いかけるベック。
「あぁ」
そう呟き、アランは機体へ歩み寄る。
岩肌の影が長く伸び、足元をゆっくりと飲み込んでいく。
アランはコックピットの縁に手をかける。
「セレーネを連れ戻してくる」
ベックの方へ振り返り、
アランは短く笑った。
巨鎧は谷を抜け、
夕暮れの空へと出た。
地平線に陽が沈む。
塔に近づくにつれ、地面に黒い影が現れる。
ショクブツの群れが、地表を這うように広がっていた。
アランは速度を上げ、地面に着地する。
衝撃が装甲を低く鳴らす。
そのまま速度を保ち、地面を滑るように移動していくアランの機体。
影が前へ流れ、
ショクブツの蔓が、地表から跳ね上がった。
アランは照準を向け、短く光線を放つ。
光が走り、ショクブツの破片が地面に散る。
塔の方角から、さらに数体が地表を滑るように近づいてくる。
アランの機体は前へ出た。
速度を上げ、影が後ろへと流れていく。
影の端が、わずかに揺れた。
視界の隅を白い光が通り過ぎる。
星空の下で宙を漂う機体。
光線を乱射し、ショクブツの蔓がその周囲で跳ねている。
「タケル……」
アランは呟き、出力を上げる。
地面を蹴り、空に跳び上がるアランの機体。
「アラン!」
呼応するように叫ぶタケル。
アランは機体を急上昇させ、タケルの正面へ出た。
タケルは照準を向け、光線を撃つ。
二機がすれ違いざまに一撃を交わす。
装甲がかすれ、火花が散る。
高速で移動しながら、交差と衝突を繰り返す両者。
空に軌跡が走り、流星のように駆けていく。
「行かせないつもりか。お前はいつも……」
タケルは出力を上げる。
背部のスラスターが光を帯びた。
「ここで決着をつける」
その瞬間、
上空から青い影が落ちてきた。
光線が二機の装甲を焼き、
衝撃で雲が裂ける。
翡色の巨鎧が、
二人の間を一瞬で埋めた。
「待っていたぜ、アラン!」
夜空のもとで、ネモの叫びが鳴り響く。
「ネモ!今更戦って何になる!」
アランはネモの攻撃を受けながら叫ぶ。
「全部ぶっ壊してやる、俺が憎むべき相手、全て!」
ネモは憎むような、笑うような声でアランに襲いかかる。
「そんなことして何になる!」
「黙れ!俺はお前を倒す。名すら与えられなかったこの俺が……真の覚醒者を超えてみせる!」
さらに力強くアランへ攻撃するネモ。
腕部が唸り、空気が押し潰されるように歪む。
アランは反転し、ギリギリでその一撃をかわした。
衝撃が背後の空を裂き、光の残滓が散る。
ネモは間髪入れず、距離を詰め、光の刃を叩き込む。
アランの装甲が軋み、内部まで震えが走る。
二機の軌跡が絡み合い、火花が散った。
アランは急降下し、地面すれすれで反転する。
ネモはその背後へ滑り込み、光線を撃つ。
光が尾を引き、アランの肩装甲を削り取った。
機体の熱が、薄く積もっている雪を溶かす。
二機の影が空を縫うように走り、
交差のたびに衝突音が短く響く。
ネモの攻撃が徐々に強くなっていく。
「くそ!こんなところで!」
アランの速度が落ち、逃げ場がなくなったその瞬間、
突如、上空から鋭い声が響く。
「アランさん、下がって!」
その叫びと同時に、眩しい閃光が走った。
ネモもアランも、寸前で回避する。
光線が空気を裂き、衝撃で夜空が揺れる。
光線が放たれた位置へ目を向けるアランとネモ。
その視線の先には、
漆黒の機体が一機、宙に浮いていた。
鎧とは異なり、より機械的な外観の機体。
両手で銃を構え、ネモに照準を向けている。
「あの機体は……アトランティスの……」
ネモが低く呟き、漆黒の機体を睨みつける。
その機体の中には、アルが乗っていた。
薄い光が差し込む牢屋。
「アルが塔に向かいました」
タツが短く告げると、
シモンズは、ゆっくりと息を吐いた。
「記憶を取り戻しましたか。」
「おそらく、今回の騒動で……」
タツの声は低い。
シモンズはタツを見た。
「アルを見つけた時、あなたは言いましたね。
今を幸せに生きているのなら、それでいいと」
タツは静かに頷く。
「俺たちと出会う前の悲惨な過去を、無理に思い出させる必要はないと思い……
けれど結局あいつは……」
そう言いながらタツは拳を強く握った。
二人の影が床で静かに揺れている。
「今の内に塔へ!」
アルの声を聞き、
アランはスラスターを吹かした。
タケルを追うように塔へ向かうアラン。
「待ちやがれ!」
ネモが吠え、アランに向けて攻撃をしようとする。
だが、その目の前を塞ぐように、
強力な光線が放たれた。
突風が吹き、空気が揺れる。
「行かせないよ」
アルの声が静かに響く。
「邪魔をするなぁぁ!」
ネモは怒号を上げ、アルへ迫る。
二機の影が夜空で交差し、
衝突の火花が散った。
塔に近づくアラン。
ショクブツの幹が、地表から波のように押し寄せてくる。
逃げ場を削るように、前方を覆い尽くした。
「避けきれないか」
アランは機体ごと塔へ突っ込んだ。
外壁が砕け、破片が散る。
コックピットから飛び降りるアラン。
足元に粉塵が舞い、視界が薄く揺れる。
「俺は、あの時とは違う。
もう、誰も犠牲になんかさせない。」
アランは銃に電池を込め、
薄暗い塔の中を突き進む。
廊下の壁にはショクブツの根が所々に張り付いている。
アランは暫く走り、
リエムの書斎にたどり着く。
研究資料や電子機器は、まるっきりなくなっているが、
古びた机や椅子、アンティーク調の食器などはそのまま残されていた。
タンスを開き、ネックレスを手に取るアラン。
「世界も、セレーネも、必ず救う。」
アランはネックレスを首につけ、静かに呟く。
深く沈んだ色の石が、アランの胸元で 静かに光を吸った。
「しつけーんだよ!」
アルの機体から放たれ続ける高出力の光線を、
逃げるようにかわすネモ。
ネモの機体は関節部がわずかに遅れ、踏み込みのたびに金属音が濁った。
推進剤の噴射が途切れ、軌道が微妙にずれる。
「ちっ」
反応速度が半拍遅れ、若干の乱れが出た。
「今だ!」
アルは出力を上げ、至近距離で光線を撃った。
衝撃で装甲が裂け、ネモの機体は制御を失い落下する。
「あとは頼んだよ、兄貴!」
墜落した機体から、ネモが這い出る。
装甲はひび割れ、光が漏れている。
頭を抑えながら顔を上げるネモ。
その目の前には、刀を携えたベックの姿があった。




