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「Star Yellow X'mas」

墜落した機体から、ネモが這い出る。

装甲はひび割れ、光が漏れている。

頭を抑えながら顔を上げるネモ。

その目の前には、刀を携えたベックの姿があった。

「お前……」

ネモはベックを睨みつける。

「よう。久しぶりだな」

ベックは少し笑いながらネモを見つめた。

雪が静かに落ち始め、

白い粒が二人の間に積もっていく。

「悪いが、アランの邪魔はさせないぜ」

ベックは刀の切先をネモへ向けた。


「……ハッ」

ネモは笑った。

割れた装甲の奥で光が揺れる。

「いいねぇ」

サーベルに電池を挿入する。

「俺を楽しませてくれよ」

叫びながら、ネモは雪を蹴って飛び掛かった。

ベックは咄嗟に一撃を受け止める。

衝撃が腕に走る。

ネモを押し返し、すぐに反撃へ転じる。

刀が弧を描く。

だがネモは軌道を読むように回避していく。

雪煙だけが斬られた。


「っち。どうなってやがる」

苛立ちが滲む。

ベックは刀を構え直し、雷撃を放った。

青白い閃光が雪原を裂き、あたり一面を照らし出す。

その光の中で、ネモの姿がふっと薄れた。

地を滑るように消えたかと思うと、

次の瞬間には、ベックの懐にいた。

刃が衝突し、乾いた音を立てて折れる。

折れた切先が空を舞い、白い地面に刺さる。

切先に反射するベックの姿。

その姿は徐々に、形を変えていった。

黒い翼が、裂けた布のように広がり、

赤い装甲が、焼けた血のように光を返す。


ネモが笑う。

「やっと本気を出したか」

右腰のホルダーに電池を押し込むネモ。

背中に光の羽が生え、雪原を照らした。

ベックの刀は、血のようにドス黒く赤い装甲で覆われる。

二人の翼の影が雪の白さで濃く浮かび上がる。

睨み合う両者。

ネモの手から、一滴の血が滴り落ちた。

その瞬間、二人は空へ跳ね上がる。

ぶつかり合う二人。

衝突のたびに空気が震え、地面が抉れた。


「気づいてるんだろベック!。その姿になる度に——いや、あの時からだ。お前は戦いに飢えたモンスターになる運命だと」

「俺は、俺だ。力に溺れるほど弱くわねぇよ」

ネモはサーベルの出力を上げる。

「強がるな。リプロダクションの血を取り込んじまったんだ。お前も化け物だ」

「うるせぇ。俺が受けたのはカートの血だ」

空が裂けるような衝突。

ベックが一瞬、優勢になる。

だが赤黒い装甲の奥で、鋭い痛みが走る。

呼吸が乱れ、動きが鈍る。

その隙を逃さず、ネモが腹に一撃を入れる。


「っぐ……」

異形が解け、ベックは落下する。

体勢を立て直し、ゆっくりと地面に着地し膝をついた。

雪が肩に積もる。

「つまらないな」

ネモはベックを見下ろす。

「異世界への道が閉ざされた今、俺が唯一復讐できるのは、やはり……」

光の羽が揺れた。

サーベルが振り下ろされる直前、

「兄貴!」

アルが武器を投げ、その武器が二人の間に割って入る。

ベックはすかさず受け取り、引き金を引いた。

高出力の閃光が雪原を裂く。

ネモの胸を、一直線に貫いた。



「勝負あったな」

荒い息のまま、ベックが呟く。

胸の奥で痛みが燻っていた。

「そうだな。だが——」

そう言い、ネモは最後の電池を腰のホルダーに押し込む。

光の羽が強く揺れ、雪原を照らした。

そのまま塔へ向けて飛び立つネモ。

白い粒が後方へ流れた。

「クソ……待ちやがれ!」

ベックは立ち上がろうとする。

だが力が入らず、膝が雪を掻いた。

視界が揺れる。

その揺れた視界の端に、

上空を通過するシライ部隊が映った。

「まずいな……兄貴、乗って!」

アルの声が雪原に響く。


塔の内部。

ツタだらけの通路。

壁に沿って一筋の閃光が走る。

ツタが反応するより早い。

一本目が斜めに裂け、黒い破片が遅れて落ちた。

二本目が天井から伸びる。

アランの影が一瞬だけ横に跳ねる。

ツタが空を切り、石壁に叩きつけられる。

三本目が足元から迫るも、

アランはすでに5メートル先へ抜けていた。

残像だけがツタの前に残る。

通路に、断ち切られたツタが

“時間差”で落ちてくる。

アランはさらに加速した。

光の線が2、3本だけ残り、

本人の姿はほとんど見えない。


一時的に、周囲からショクブツがいなくなると、

アランは動きを止めた。

息が荒い。

胸が上下し、足元がふらつく。

「俺は、もう2度と……」

ペンダントを握りしめるアラン。

深く沈んだ宝石が掌に食い込む。


アランは思い出す。

塔でのあの日、

血を流しながらも必死に手を伸ばした自分。

ペンダントが、自身の力に共鳴したあの時を。

『その力の代償は大きすぎる』

『俺は間違っていたのか』

エレクトラとリエムの言葉が静かに胸の奥で揺れる。

「それでも俺は……」

そう言って前を見据えるアラン。

その瞬間、別の声が重なる。

『行ってきな! 世界を変えにさ』

『お前自身が……したいことを……

 成し遂げなきゃいけないと思ったことを……

 ……進め、アラン』

ジェスミーとカートの声が心の中で響く。

「あぁ、分かってるよ。」

アランは再び走り出そうと、

足に力を込めた。

すると突如、大きな衝撃が走り、足場が揺れる。


石壁が軋み、天井から砂が降った。

通路の床が崩れ、アランの足元が消える。

視界が反転し、冷たい空気が頬を切る。

下の階へと叩きつけられるアラン。

木製の机の上に落ち、乾いた音を立てて割れる机。

砂埃が一気に舞い上がる。

アランは咳をしながら身を起こした。

肩に積もった砂を払い、周囲を見渡す。

ふと胸元に違和感を覚えるアラン。

「……ペンダントが無い」

机の破片、瓦礫、散乱した紙片。

どこを探しても、ペンダントは見当たらなかった。

「ペンダントを探しているのか?」

低い声が響く。

アランは顔を上げた。

煙の向こうに、タケルが立っていた。


巨鎧の影が、割れた机と瓦礫を覆う。

「攻撃は三日後だったはずだが……」

アランが息を整えながら問いかける。

「あぁ、俺もそう聞いていたが……」

タケルはゆっくりとアランに歩み寄る。

「俺たちが動いたことで、早めたんだろう」

次の瞬間、タケルはアランの腹に拳をめり込む。

「——っな!?」

アランは床に倒れ込んだ。

「キーを渡してもらおうか」

タケルはアランの服からキーを取り出す。

腹を抑え、うずくまっているアラン。

キーを見つめるタケル。

その表情は淡々としていた。

「確かにあのペンダントには、セレーネを救える力があるかもしれない。

だが塔の技術でも解明できなかった」

タケルは短く息を吐く。

「未知の力に頼るのもいいが……

時間がない。俺がやる」

背を向け、歩き出すタケル。

「タケル……待ってくれ」

アランは震える腕で手を伸ばした。



タケルは幹のある部屋に足を踏み入れた。

部屋の中央にある端末へ向かう。

キーを使いシステムのロックを解除するタケル。

金属音が短く響き、複数の配線が起動した。

配線のつながった椅子に腰を下ろすと、

天井のアームが降り、無機質なヘルメットが頭部を覆う。

タケルの神経がショクブツの幹へとつながった。


セレーネを分離させようとするタケル。

すると、幹が拒絶反応を示し、ツタをを伸ばして暴れ回る。

「やはり抵抗するか……」

意識が持っていかれそうになるタケル。

思考が薄くなり、音が遠ざかる。

「俺にも僅かだが、ショクブツやネモの細胞が含まれている」

低く呟き、全身に力を込める。

タケルの指先がわずかに震えていた。


ふらつきながら、部屋に入るアラン。

部屋の中ではツタが暴れ回っていた。

機械に繋がり、苦しんでいるタケル。

ヘルメットの内側で、意識が削られていた。

「タケル!」

アランは、足を引きずりながらタケルの元へと進んでいく。

激しくのたうち回るツタ。

ツタがアランの頬をかすり、血が流れる。

肩、足、腹部と、ツタの攻撃がアランを掠める。

しかしアランは表情を変えず、

視線もぶらさず、

タケルへと歩み寄る。

苦しそうなタケル。

その目の前に辿り着くと、

アランはタケルの腕を握りしめた。

「諦めるな……!」

アランの声が室内に響いた。

アランの内側から、不思議な光が放たれる。

その光はアランの腕からタケルへと伝わり、

二人を纏う。

幹の抵抗がさらに激しくなり、

ツタが二人を襲う。

「まずい!」

アランが目を伏せたその瞬間——

ツタが切り刻まれて、床に落ちた。

「こっちは俺に任せて集中してな!」

聞き馴染みのある声。

「ベック!」

二人を守るように、刀を構えるベック。

その背中は傷だらけで、血が滲んでいた。

「お前、その傷……」

「ウオォー!」

アランの言葉を掻き消すように、叫び声が響く。

雄叫びを上げながら幹に突っ込んでいくネモ。

自身の手のひらに傷をつけ、

幹に手をかざし、血を吸収させる。

幹は苦しむように悶え始める。

「今だ! やれ!」

ベックの声が響く。

アランとタケルは強く、意志を重ねる。

幹へ向けて、二人の力が流れ込む。

「セレーネを離せ!」

二人は叫び、思いを叩きつける。

その声が幹の中心に届いた瞬間——

幹の内部で、

ひとつの光が震えた。

それは、

押し込められたまま、

長い時間、呼吸すら許されなかった光。

幹の表面が波打つ。

表皮が裂け、亀裂が走る。

亀裂の奥から、白い光が漏れた。

ツタが一斉に硬直し崩れていく。

「離れろ!!」

タケルの声と同時に、幹が破裂した。

緑色の肉片が飛び散り、

光が噴き出す。

その光の中から、

セレーネが落ちてきた。

ゆっくりと、

重力に従うように。

しかし、どこか現実の速度ではない。

髪が光をまとい、

衣服が淡く揺れ、

目は閉じている。

幹の破片が周囲に散り、

塔全体が軋み始める。

セレーネは、

崩れゆく塔の中心で、

静かに空気を切り裂きながら落下した。

アランが手を伸ばす。

タケルも同時に身を乗り出す。

光が収束し、

セレーネの身体が二人の方へ傾く。

塔は巨大な木のように倒れ始めた。

その崩落の中で、

セレーネは、二人の元へと戻ってきた。


数週間後

大量の報告書に目を通しているシモンズ。

「各地のショクブツも活動を止めたそうです。」

ふと、窓から外を見ると、大勢が復旧作業に勤しんでいた。

「憎しみからか、人々がショクブツに火をつけているのが気になりますが……」

そう言いながらシモンズは視線を戻した。

ジェスミーは肩をすくめる。

「それでいい。灰は土を耕す」

シモンズが眉をひそめる。

「そんなことをしたら、温暖化がさらに進んでしまうのでは?」

「過度な焼畑はね。だが、ここグリーンハウスの土地は痩せ細ってしまった。

計画的にやればいい。」

ジェスミーは淡々と言った。

シモンズはため息をつく。

「簡単に言いますね」

静かな空気が流れる。

「……結局残ったのは私だけですか。

自由な人たちだ」

シモンズは少し寂しそうに呟いた。


ネモの墓前で手を合わせるセレーネ。

その墓には名がしっかりと記されていた。

風が弱く吹き、土の匂いが漂う。

遠くからタケルの声が響く。

「おーい、そろそろ行くぞ」

セレーネはゆっくり立ち上がり歩き出す。

その足元には、

色とりどりの草花が広がっていた。


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