再会
湿った空気が立ち込める荒野。荒れ狂うショクブツ達を背に、灰色のバイクが砂を巻き上げて疾走する。
ネモが拳を握りしめ、遠くのアランを見つめていた。
「……やはりカートは本当に」
血管が浮き、拳が僅かに震えた。
「これで……あいつらを追うすべはなくなった」
焦げた風が、ネモの呟きをかき消した。
灰色のバイクは砂を巻き上げ、崩れた外壁へ一直線に走った。
アランはアクセルを限界まで開き、裂け目へ突っ込む。
視界が開ける。内部は戦場だった。
変異したショクブツが地面を這い、構造物を引き裂き、人々が応戦している。
アランはバイクを操りながら戦場を駆け抜けた。
蔓が横から伸びるたびに身を傾け、破片を避ける。
青白い光が断続的に視界を染めた。
「ベック?」
ショクブツを切り倒す姿が見えた瞬間、ツタがバイクに絡みつく。
「しまった」
バイクが跳ね、アランは地面へ倒れ込んだ。
「……ッ」
頭を抑えながら周囲を見渡す。
負傷者の間をマコが走り回っている。
「久しぶりだな」
喧騒が一瞬だけ遠のく。
目の前で、ベックが手を差し伸べていた。
アランは肩をわずかに緩め、ベックの手を取る。
「そうか、俺がいない間にそんなことが……」 アランはそう言って短く息を吐く。
「ハンナを亡くしてから、シモンズは変わっちまった。」
わずかに疲れの滲むベック。
アランはキーを取り出す。
「……それが、あのシステムの鍵か。」
「あぁ」
乾いた風が、テントの布をわずかに揺らした。
「今のシモンズは危ねえ。あいつに渡したら、人を犠牲にしてでも実験を進める。」
険しい顔をするベック。
「あのシステムは軍事兵器として作られたものらしい……そのロックを解除して、本当にいいのか」
そう言いながら、アランはキーをしまう。
ベックは何か言いたげな表情をする。
ショクブツの残骸が風に揺れ、 テントの布が、ひらひらと舞う。
「お前に言わなきゃいけないことがある。」
ゆっくりと口を開くベック。
「実はタケ……」
ベックがそう言いかけた瞬間、激しい音が響いた。
テントの外で低い轟音。 砂を巻き上げながら、一機の小型機が着陸していく。
プロペラが止まり、静寂が戻る。
ベックとアランが外を見ると、機体から一人の男が降りてきた。
迷いのない足取りで、テントへ向かってくる。
その姿を見た瞬間、アランは固まった。
息が止まったように、ただ立ち尽くす。
ベックはアランの横顔を見て、わずかに眉を寄せた。
男は一歩近づく。
アランの口から、かすれた声が漏れた。
「……タケル……生きていたのか……」 タケルはその言葉を遮るように、冷たく言った。
「キーを渡せ。セレーネを救うには、それが必要だ。時間がない」
アランの肩が僅かに沈んだ。
「アラン!」
ベックが声を張った。
その一声で、アランはハッと目を見開く。
乱れた呼吸を整え、タケルを見つめるアラン。
「何があった」
アランがそう問いかけると、 タケルは面倒くさそうに息を吐く。
「セレーネが幹に取り込まれた」
ベックが息を呑む。
アランは一瞬だけ目を伏せ、すぐに顔を上げた。
「……あのシステムを使うのか」
「あぁ」
「あのシステムは未完成だ。装着者は確実に……」
「一定時間でショクブツに吸収され、死んでしまう。そんなことは知っているさ」
アランに被せるように呟くタケル。
アランはタケルを睨みつける。
「じゃあどうして」
「確かに、各地のショクブツを止める前に装着者は死ぬ。 だがセレーネを分離する指示ならば……」
そう言い、空を見上げるタケル。
「セレーネを救うために誰かを犠牲にするのか」
そう言ってタケルに駆け寄るアラン。
「状況が分かっているのか。セレーネだけじゃない。 ショクブツの変異を止めるためでもあるんだ」
タケルの言葉を聞き、胸ぐらを掴むアラン。 「だったら、各地の村人をショクブツが及ばない地域に避難させて、それから対策を考えれば」
「確かに標高二千メートル以上は、変異したショクブツでも追ってはこない。 だが、セレーネはどうなる」
「助けるさ。誰も犠牲にしない方法で。」
アランはタケルを見つめ、力強く言い切った。
その言葉を聞き、苛立ちを露わにするタケル。
「そうやって綺麗事を言いやがって。お前はいつもそうだ。 だが、肝心なところでいつも何もできない」
タケルはアランの腕を、軽く振り解いた。 「……あれから数年待った。その結果がこのザマだ。 時が経てば経つほど事態は悪化していく」 タケルは低く続ける。
「渡す気がないなら力づくで……」
そう言いかけたが、ベック達を見て、わずかに息を吐き引き下がる。
「またすぐに来る。その時は渡してもらう。 もし断れば──アンタ達を潰す」
タケルはテントを後にし、小型機で飛び立っていった。
塔の内部。
幹が激しく光を発している。
「なんだ、これは……」
幹から無数のツタが生え、塔の内部を侵食している。
シモンズはその光景を目にし、呆気に取られている。
「シモンズさん、早く脱出を。巨鎧の準備はできています!」
タツの叫び声が響く。
ショクブツの幹から伸びるツタは、這うようにして塔へ絡みついていく。
次第に、塔は太いツタに覆われ、巨大な幹へと変化していく。
巨大な幹のてっぺんには、ピンク色の蕾が一つ形成されていた。




