外界
使い込まれた机と椅子が並ぶ、静かな一室。
「背、伸びたか?」
ベックはアルを見つめ呟く。
「ガキ扱いするなよ」
アルは少し照れくさそうに笑う。
「いやいやまだガキだろ」
揶揄うように言うタツ。
アルは、タツを嫌みたらしく睨みつける。
「タツは少し老けたか?」
「な……生意気を言うようになったじゃねーか」
そんな二人の様子を見て、微笑むベック。
するとそこへ、マコが叫びながら走り寄ってきた。
「兄貴〜!」
そう言いながら、ベックへ飛びつくマコ。
「おい!やめろ」
ベックは息苦しそうにしながら、マコを押し返す。
「相変わらず仲がいいね」
マコに遅れて、カートが苦笑いをしながらやってくる。
ベックはマコを引き剥がしながら、低い声で尋ねる。
「……あいつの様子どうだった」
カートは静かに首を振り困ったように眉を寄せる。
「アランのやつ、相変わらず顔も見せやしない」
マコが寂しそうに暗い顔をして呟く。
言葉が途切れ、短い静けさが場に残る。
植物の残骸が散らかる。薄暗い研究室。
その中央には、
わずかな光に照らされた巨大な脈動体が、静かに揺れている。
切り株のような太い茎を見つめるハンナ。
「これが、ショクブツの大元……核」
シモンズは、静かに呟くハンナを見つめ、短く息を吐く。
「兄様、これを破壊すればショクブツ達は……」
ハンナに尋ねられるも、険しい顔で研究資料を見続けるシモンズ。
「そんな単純な話ではありません。
ですが、ショクブツ達を制御する方法はあるようです」
シモンズは研究資料を握りつぶし、深く息を吐いた。
個室で落ち込んでいるアラン。
暗い部屋の中、椅子に座ったまま動かない。
「タケル….セレーネ….」
指先だけが微かに震えている。
すると突然、扉の外から声がかかる。
「アランさん……少しお話ししたいことがありまして、」
ハンナが声をかけるが、
返事は返ってこない。
扉を見つめるハンナ。
その場を離れようとしたその時
「俺が、塔を目指しさえしなければ、タケルは……」
かぼそいアランの声が聞こえてきた。
ハンナは振り返り
ノックをしようとして躊躇う。
すると、ベックが早歩きで、こちらに向かってくる。
「いい加減にしろよ!」
ベックは蹴るように、片足を扉にのせた。
「タケルにセレーネを任されたんだろ!」
ベックの叫びを聞き
アランは思わず奥歯を噛み締めた。
衝動的に立ち上がり、扉を勢いよく開ける。
「あんたがネモと一緒に殺したようなものだろ!」
ベックに向かって叫ぶアラン。
ベックは扉に額をぶつけ、後退りする。
「テメェ」
ベックが睨みを効かせる。
「兄貴!落ちつてください!」
タツが二人を止めに間へ入る。
その様子を、
カートは壁に寄りかかりながら静かに眺めていた。
腕を組んだまま、微動だにしないカート。
「セレーネは生きているさ。おそらくネモも」
カートは淡々と言い放った。
「何を根拠に!」
アランがカートへ駆け寄る。
胸ぐらを掴むが、カートは表情を変えない。
静かな眼差しでアランを見つめるカート。
「お前はどうして、塔を目指してきた?」
低い声で、ゆっくりと言葉を落とす。
「塔に、希望がある確証はないにも関わらず……
それでもお前は、わずかな可能性を信じて
旅をしてきたんだろ!」
その言葉に、アランの手が止まる。
掴んだ指先が、わずかに震える。
ハッとしたように、アランは息を呑んだ。
「皆さん。言いたいことは言い終えましたか」
背後から、冷えた声が落ちる。
シモンズが現れ、アラン達を見渡す。
その目には、怒りも同情もなかった。
荒れ果てた食堂で椅子に腰をかけ
シモンズの説明を受ける一同。
その中にはアランの姿もあった。
「おいおい、マジかよ」
シモンズの説明を聞き、マコは驚いて声をもらした。
「ショクブツは軍事兵器だったってことかよ」
アルは額に汗を滲ませ唾を飲み込みながら呟いた。
「いや、正確には、軍事兵器に応用しようとしていたのだろう。」
そう言ってカートはライターを取り出し、タバコに火をつける。
「つまり、その神経シンクロ技術とやらを使えば、一時的にショクブツ達に命令ができると……」
ベックは頭を抱えながら呟く。
「ええ、ですが、神経シンクロ技術の研究は失敗したみたいでして、
一時的な命令は可能ですが
一定時間でシンクロしている人間が取り込まれてしまいます。」
シモンズがそう言い終えると
ハンナは、俯いてしまう。
「……確かに理論上は、それを使えばショクブツ達を自滅させられる」
ゆっくりと煙を吐くカート。
「ええ、
ただしシステムにはロックがかかっていまして
ロックをかけた者以外、解除できないようです」
シモンズは淡々と、話を進めていく。
「……心当たりがある」
そう呟くとカートはタバコの火を消し、立ち上がる。
「やはり、そうですか」
カートを見つめるシモンズ。
カートはアランの前に立ち、ゆっくりと、笑顔を見せる。
「アラン。俺と来い。
まだ世界を救う気があるならな」
そう言ってアランの肩を優しく叩いた。
数日後。
低く唸りながら、雲の切れ間を滑っていく飛行機。
操縦席でシライがぼやく。
「やっと着地できる場所見つけた思うたら、いきなり乗せてけなんて……」
「ごめん、ごめん」
カートは軽く手を上げる。
その背後には、アランが
「こんなギョーさんな電池……どこまで行く気ですか?」
カートは窓の外を見ながら短く答える。
「温室の外さ……」
二人のやり取りを聞き流しながら、アランは外の景色に目を向けていた。
灰色の雲の下、
ひび割れた大地がどこまでも続く。
ところどころに、緑色をしたショクブツの群れが見える。
アランの指先が、膝の上でわずかに動いた。
やがて飛行機が減速し、砂煙を上げながら着地する。
シライの飛行機を降りるカートとアラン。
乾いた風が二人の服を揺らす。
「なんや、よう分からんけど、きいつけてな!」
シライが手を振る。
「あぁ、ありがとう。塔にいる奴らには、お前のこと話しといたから」
カートが軽く返す。
「ほな、またな!」
シライの飛行機は砂を巻き上げながら引き返していった。
残されたのは、広い空と、風の音だけ。
「さぁ、行こうか!」
カートが明るく声をかける。
アランは黙ったまま頷き、カートの後ろについて歩き出す。
長々と続く、ひび割れた舗装路を、
二人はただひたすらに歩いていく。
倒れた鉄骨。
色あせた看板。
風に揺れる砂埃。
アランは俯き、思い詰めたように歩いている。
すると、遠くから
ざわめきのような音が少しずつ近づいてきた。
アランは歩みを緩めるが
カートは、気にする様子がない。
しばらく歩いていくと、
アランは目の前に広がる光景に驚き、足を止める。
風車がゆっくりと回り、
砂と油の匂いが混ざった風が吹き抜ける。
遠くには、崩れ落ちたビルの骨組みが
黒い影のように立っていた。
瓦屋根の影に、
即席の露店が広がっていた。
古い布の上に、
錆びた工具、半壊したドローンの羽、
金属片や乾燥肉などが置かれている。
「ほらほら!見てくだけ見ていきな!
この部品、まだ動くよ!たぶん!」
元気の良い中年の女性が、
若い男に声をかけている。
砂に焼けた腕を振り回し、
客を捕まえようとするが、
通りかかった若い男は、
手をひらひら振ってかわす。
「いらねぇってば、おばちゃん。」
雑踏の中、
カートは人々をかき分け、
まっすぐ村の奥へと歩いていく。
振り返り、アランに向かって微笑むカート。
「とりあえず、飯にするか」
アランはわずかに顔を上げ
カートの元へ駆けていった。




