欺瞞
18話と20話、シーン追加とシーン変更しました。
鉄の匂いが残る、荒れ果てた廊下。
壁の配管は錆びつき、ところどころ天井板が剥がれ落ちている。
照明はほとんど死んでいて、わずかな光だけが床の格子を鈍く照らしていた。
「ネモ達とはぐれちまった……」
タケルは荒い呼吸のまま、廊下を駆け抜ける。
「早く、兄貴をちゃんと手当しないと……」
タツは腹を押さえ、心配そうにベックを見つめた。
ベックは意識がなく、タケルに背負われている。
その少し後ろで、セレーネがサソリと一定の距離を取り、ショットガンで応戦していた。
(このままだと、二人の体力が持たない)
セレーネはタケル達に視線を送り、険しい顔をする。
額に滲んだ汗が、首筋まで滴り落ちていた。
「どうすれば……」
その時、聞き慣れた声が響いた。
「お嬢さん。ちょっと下がってな!」
声を聞いた瞬間、セレーネは手榴弾を投げ、タケル達の元へと走り出す。
激しい爆発が起き、あたり一面に煙が立ち込める。
威嚇音を響かせながら、煙をかき分けて現れるサソリ。
「何回やってもおんなじか……」
悔しそうに呟くタツ。
だがタケルは、なぜか嬉しそうな顔をしていた。
「?」
タツは戸惑い、振り返る。
灰色の煙がゆっくり引いていく。
その中から、一人の男の影が現れた。
「カート!」
タケルが嬉しそうに叫ぶ。
「待たせたね!」
明るく、少し気の抜けた声。
「感動の再会と行きたいところだが……そうも言ってられないか」
カートを前に、サソリは動きを止め、固まっている。
カートは静かに、軽く息を吐き、サソリへ鋭い眼光を向けた。
「失せろ」
低く、静かな声。
周囲の空気が張り詰め、緊張が一気に駆け巡る。
サソリは怯えるように後退りし、カート達の前から去っていった。
「カートさん。お久しぶりです」
ハンナが挨拶すると、
カートはハンナの手元を見て目を細めた。
「相変わらず物騒な武器を使ってるね」
砕けた口調で話すカート。
「兄様も心配していましたよ」
ハンナがそう言うと、
カートは軽く微笑み、ハンナを見つめた。
「カート! お前今までどこで何してたんだよ!」
タケルが嬉しそうに駆け寄ってくる。
カートは苦笑し、何かを言いかけたそのとき、
朗らかな空気を裂くように、タツの叫び声が響いた。
「兄貴、しっかりしろ!」
ベックの呼吸が荒くなり、
短く、鋭い息が漏れている。
「まずい……」
ハンナが駆け寄り、必死で応急処置を施す。
だが、ベックの呼吸は、もう形を保てていなかった。
「ベックさん……!」
ハンナの声は震えていた。
泣き崩れるタツ。
戸惑い、動揺するタケル。
その場の空気が、音もなく張りつめていった。
「変わってくれ」
カートは低く言い、
ハンナの肩にそっと手を置く。
カートは優しくハンナをどかし、
自分の左腕をベックの顔の上へと持っていく。
もう片方の腕にナイフを持ち、
静かに瞳を閉じた。
すると突然、カートの前に紫の瞳の男が現れた。
「その男に恨みでもあるのか」
紫の瞳の男が問いかける。
「俺はあんたとは違う」
カートの呼吸が、わずかに深くなった。
「カート?」
タケル達は、
誰かと話しているようなカートの様子を
不思議そうに見つめた。
カートは紫瞳の男の幻覚に視線を向けず、
ナイフで自分の腕に傷をつける。
「自ら化け物を産むつもりか?」
紫瞳の男が問うが、
カートは黙って自身の血をベックに飲ませた。
滴り落ちる紅の血が口元に入ると、
ベックの呼吸は戻り、瞳に光が宿る。
「適合者か。珍しい……」
紫瞳の男が興味深そうにベックへ顔を近づける。
カートはその顔を振り払った。
男は煙のように消える。
しかし幻は再び現れ、
カートの耳元に口を寄せる。
「見込み通りに行ったようだな。
……だが、異なる地獄を見せるだけだ」
そう呟き、幻は静かに消えていった。
カートはゆっくりと腰を上げ、ベックを見つめる。
「俺は、もう、あんたの思い通りにはならない」
力強く呟き、どこか遠くを見据えるカート。
その瞳は、かすかに光を滲ませていた。
塔の奥底で低い駆動音が響き始める。
眩しく照明が灯る無機質な部屋にいるリエムとアラン
「……エレクトラ……」
アランの腕の先で、
一人の女性の影がゆっくりと鮮明になっていく。
「あぁ……やっと君に……」
リエムは両手を広げ、わずかに目を潤ませた。
女性の顔が見えそうになった、そのとき
影がかすかに揺れた。
「……やめて……もういいよ……」
柔らかな声が滲むように聞こえてきた。
その直後、
ショクブツのツタがアランへ向かって伸びてくる。
「何?!」
リエムはアランの元へ駆け寄った。
アランはツタに吹き飛ばされ、壁へと叩きつけられる。
「う・・・」
ゴーグルが外れぐったりとしている。
「そんな……待ってくれ!」
リエムは動揺し、叫ぶが、
影は霧のようにほどけ、跡形もなく消えていった。
「貴様!」
リエムは憎悪のこもった視線をツタの先へと向ける。
そこにいたのは、
アランに向けて手を掲げるセレーネであった。
どこか大人びた雰囲気を纏っているセレーネ。
その片目は桜色に淡く輝いていた。
アランをを見つめゆっくりと口を開くセレーネ。
「……この力の代償は大きすぎる……」
その呟きは、悲しげでありつつ、どこか力強かった。
リエムはセレーネの襟を掴み、キツく睨みつける。
セレーネは、リエムの苦しげな表情を見て、
一瞬困った顔をするが、
不意に優しく微笑む。
「私はもういいよ……
あなたと会えて……幸せだから」
セレーネがそう言い終えるとリエムは、
全身の力が抜けるように、後退りして座り込む。
「エレクトラ……、?」
かすれた声でセレーネに尋ねるリエム。
セレーネは悲しそうにリエムを見つめた後、そっと背を向ける。
「……ありがとう」
そう呟くと
桜色の光がゆっくりと消え、瞳が元の色へと戻っていく。
セレーネはつきものが落ちたように、その場に倒れ込んだ。
「おい!なんかすごい音しなかったか?」
ハンナに介抱されているタツが、
激しい衝撃音に気がつき、周囲を警戒し始める。
「近いな……ハンナ、二人を頼む!」
そう言いながら武器を携え立ち上がるカート。
タケルも慌てて、武器を準備し、カートの後を追いかけていく。
「何が起きたんだ……」
頭を抑えながら、立ちあがろうとするアラン。
リエムは焦燥し切った顔で壁に寄りかかっている。
アランは辺りを見回し、倒れ込んでいるセレーネを見つける。
「セレーネ……」
そう言って、セレーネに歩み寄ろうとするアラン。
すると突然、ドアの開く音が鳴り響く。
「ざまーねーな、リエム」
不敵な笑みを浮かべ、ネモはリエムの目の前で立ち止まる。
リエムは鼻で笑い、ネモの顔を見つめる。
「君の計画も失敗だろ? もう少し早くきていればよかったものを……」
「いいや、計画は順調だ」
ネモは満足げな表情をし、腕のアーマーを眺める。
すると再び扉が開いた。
「そういうことか……」
二人の会話を遮るように、カートが歩きながら部屋に入ってくる。
「あんたも随分遅かったじゃねーか。カートさんよ」
ネモがカートに話しかけると、リエムの表情が一気に固まる。
「どうして……お前がここに……」
カートの姿を見て、リエムは動揺する。
12話少し書き直します。




