旅立ち
牢屋で一晩過ごしたアラン。斜め向かいにいる男のことと、自宅の奥で見つけた汽車の安否が気になり一睡もできなかった。中年の村人二人が粗末な朝食を持ってくると、アランは寝たふりをした。村人は朝食を牢屋内に置きながら、雑談を始めた。村人二人はアランを心配しつつ、埋まっていた本でも見て旧時代に関することを知ってしまったのだろうと話している。それならばなぜ、素直にそうと言わないのか、正直に言えば咎められることなどないはずなのにと、村人は不思議そうにアランを見つめる。するとカートの牢屋から物音がし、村人はかったるそうにカートに朝食を差し出した。カートは身振り手振りで感謝を伝え、美味しそうにパンを食べ始める。村人は、「なんでこんなやつ拾ってきたんですかね」と話はじめた。「一時の情に流されたのだろう、旧時代の衣服を身につけているが、幸い口がきけない」「いくら、旧時代を忌み嫌っていても俺ら村人に殺しはできないからな」そう話し終えるや否や、カードが「でも、俺ら2人を川に流して追い出すんだろ?」と呟く。村人は驚いた表情で「お前が喋ったのか⁉︎」と慌てふためく。カートは、朝食が乗っていたプレートを投げつけた。プレートは、見事に鉄格子を潜り抜け、村人二人の頭にぶつかった。
倒れた村人から鍵を取ろうと、鉄格子越しに手を伸ばすカート。アランは「演技だけじゃなく、曲芸もできるのか?」と小馬鹿にするように話しかける。「まぁね」と明るく呟きながら、カートは自身の足枷を外す。牢屋を出たカートはアランに向かって鍵を投げ捨てる。「お前は、これからどうする?」と真剣な口調で、アランに問いかける。アランは眉間に皺を寄せ、目を潤わせながら「バカだよな、親を亡くした俺の面倒見てくれたのに、、、」と独り言を呟く。アランは、そっと手を伸ばし、力強く鍵を握りしめ「けど、あんな者見ちゃったら、どうしようもないだろ。」と少し嬉しそうに笑いながら呟く。「お前、汽車って知ってるか?」とアランは尋ねる。カートは当然のように知っていると返す。アランは挑発するように「俺は汽車で逃げるが、お前はどうする?」と問いかける。カートは、ほんの一瞬驚くも、「逃げる?どこへ?」とニヤつく。「アラン、いいこと教えてやるよ。」とカートは楽しそうに話し始める。カートの話によると、温暖化の影響で、この村にショクブツの大群が押し寄せてくるのも時間の問題らしい。「この村は何もしなければ壊滅する」カートがそう言い終えると、アランが「何もしなければ?」と尋ねる。そんな、問答をしていると、牢屋の外から悲鳴が聞こえてくる。
足枷を外し、牢屋から飛び出すアランとカート。村人が逃げ惑う先には、二匹のショクブツが歩いていた。ショクブツは村人を捕食しようとツタを伸ばすが、村人達はそれをギリギリで躱わしていく。パニック状態の村を見つめ、アランは何かを決心したかのように自宅へ駆け出していく。
自宅に着いたアランは、汽車が佇む隠し部屋から、銃と電池をかっさらい、外に戻ろうとする。扉の前で待ち構えていたカートが、「そんな物騒な物を持ってどこに行くきだ?」と微笑みながら尋ねる。ショクブツを倒しに行くとアランは即答する。使い方は分かるのかとカートに聞かれ、面倒くさそうに知っていると答える。するとカートは真面目な表情で、仕組みではなく実践での使い方を知っているのかと問う。余計なお世話だと言い放ち、アランは自宅から飛び出して行った。
アランは銃に電池を詰めながらショクブツ目がけて突っ込んでいく。ショクブツと二メートルほどの距離感で対時アランは、両手で銃を構えショクブツに向かって引き金を引く。すると銃内の電池が発光し、アランは眩しさで目をつぶる、次の瞬間には発砲の反動で三メートルほど吹き飛ばされていた。アランは起き上がりショクブツを確認すると、ショクブツは体の半分を失いながらも機敏に動き回っていた。アランめがけて猛スピードで迫るショクブツ。アランは腕で顔を覆い、身の守りに徹しようとした。するとカートがアランの背後に現れ、手慣れた手つきで電池を入れ替える。片手で銃を構え「出力調整も知らないのか?」と言い放ち、三発の光線をショクブツに打ち込む。ショクブツの肉片は蒸発し跡形もなく消えていった。
放心状態のアランに対し、ドヤ顔を決めるカート。そんな二人を見つめる村人たち。「二人を捕えろ!」と複数人の村人が叫ぶ。アランは村を守ったのは自分だと主張するが、村人たちは農具を構え、ジリジリと二人に近づく。「そろそろ、温まったかな、、、」とカートがつぶやくと、アランの自宅から汽車が飛び出し、こちらに向かってくる。カートはアランに「あの汽車の行き着く先に、人類の希望と絶望が眠っている」と言い、目指してみるかと尋ねる。アランはカートの顔を見つめ「目指すしかないだろ」と言い放った。アランの返答を聞いたカートは汽車に向かって走り出した。汽車に飛び乗ると、すぐさまブレーキをかけた。あっけに取られている村人たちを潜り抜け、汽車に乗り込むアラン。その後を必死で追いかけ、汽車に乗りこむタケル。アランは驚き「お前、どうして」と問いかける。タケルは「お前たちについていけば、この村を救えるかもしれないんだろ。そこのおっさんが話していた話が本当なら、この村どころか、世界を救えるかもしれない。」と、走り疲れた表情で話す。「おっさんじゃなくてお兄さんね」とカートが不服そうに話を遮る。タケルは「こんな怪しいおっさんとお前だけじゃ頼りないからな!」と笑いながらカートの肩を叩く。そんな二人を微笑ましく見つめた後、険しい顔で「もう後戻りはできないぜ、覚悟はあんだろな。」とカートが問いかける。二人は同時に「ああ、構わない。」と力強く述べる。カートは燃え盛る火室に電池を三つ投げ入れ、汽車を走らせる。