↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/33

引き合わせ

処女作です。

切り立った岩壁が果てしなく続く、乾いた山岳地帯。

風だけが吹く中で、黄色い機体が倒れ込んでいる。

外装は剥がれ、肩の装甲は半分ほど欠けている。

関節部の油は乾き、内部の配線が風に晒されていた。

胸部のパネルは砕け、駆動核が黒く焦げている。

機体は動かない。

土煙が吹き抜けるたびに、音がどこかへ吸い込まれていく。

その胸部の裂け目から、ひとりの男が飛び出した。

「まずいな」

長いコートを翻す、金髪の男。

小さなペンダントが胸元で揺れていた。

揺れるそれは、深く沈んだ色をしている。


「……こんなところにも出るようになったか」

背後から、複数の影が追ってくる。

それは人の形をしていない。

動物のように動き、植物のように蠢く何かが、

ツタを伸ばして男の足元へ絡みつこうとしていた。

「しつこい!」

男は短く呟き、手にした銃でツタを撃ち抜く。

光弾を受けたショクブツが悲鳴のような音を上げ、怯んだ。

「キリがない」

そう言いながら、男は銃の電池を交換する。

岩肌を蹴り、さらに高く跳ぶ。崖から崖へ、風を切って渡っていく。

大きく跳び、次の足場に着地しようとした瞬間、

足首にツタが絡みついた。

「しまった……」

体勢を崩した男は、そのまま谷底へと落ちていった。



雪がちらつく山の奥。

若者たちが川魚相手に漁をしていた。

網を引き揚げては一喜一憂する声が、白い息と一緒に空へ消えていく。

その中を、小柄な少年が小走りで現れる。

背丈は同年代よりわずかに低く、肩も薄い。

袖口は擦り切れ、髪は雪で跳ねていた。

少年は小さな網を引き揚げ、中身を確かめる。

「……これだけ取れれば上出来だな」

満足そうに呟き、袖で額の汗を拭った。

冷たい風が川面を撫で、アランの頬を刺す。

彼は一度だけ周囲を見渡し、静かに息を吐いた。

そのとき、雪の向こうで微かな声が滲んだ。

アランは反射的にそちらへ身を寄せる。

そっと覗くと、少し離れた場所で二人の若者がひそひそと話していた。

彼らの網には、雑誌が一冊ひっかかっている。

「面倒ごとは御免だ」

「報告してもどうせ燃やされるだけだ」

そんな声が聞こえてきた。

そのとき、背中を叩かれた。

アランは小さく肩を跳ねさせ、振り返る。

「よ! アラン!」

小太りの若者が笑いながら声をかけてきた。

「タケル……」

アランは少し驚き、肩をすくめる。

「……驚かすなよ」

煙たそうに呟き、頭を軽く掻いた。


漁を終え、村に戻るアラン。

村は漁地よりも山奥に位置し、常に雪が積もっている。

村に入ると、村人たちが不安そうに話をしていた。

「雪の日が減って、暖かくなってきてるとは思ってたが……」

「ここまで雪が溶けるとはな」

「ショクブツが近くに来るのも、時間の問題かもしれん」

アランは黙ってその声を聞き流し、

タケルと共に食堂へ向かう。


木造の食堂に入り、魚料理を食べるアランとタケル。

アランはタケルにショクブツについて尋ねる。

「そんなことも知らないのかよ」

タケルは半笑いで言う。

「悪かったな」

アランは少し不機嫌そうに返す。

「ショクブツってのは、動物を喰らう化け物で、

群れを成して動き回るらしいぜ。

寒さに弱いから、村の周りには来ないんだってよ」

「ふーん」

アランはタケルの話を聞きながら、

どこか引っかかるような表情を見せる。


昼食を終えたタケル達は、各々の家族が待つ家に帰っていく。

アランは冷えた指先をこすりながら、坂道を登った。

ドアを開け「ただいま」とつぶやくアラン。

返事は聞こえてこない。

それが彼の日常である。

アランは洞窟に簡素なドアと小窓を付けた家に一人で住んでいる。

外から見ると家には見えづらいが、内装は質素な書斎といった感じである。

アランは家に入るや否や、ベッドにバッグを投げ置き、

ロウソクに火をつけ、床下を探りはじめた。

床下から、本や図面を取り出し、机に向かう。


 

ある日の朝、

地響きが走り、アランの体はベッドから滑り落ちた。

「地震か……」

胸の鼓動を抑えながら外へ飛び出すと、村人たちが慌てふためいている。

幸い、大きな被害はないようだった。

安堵しつつ家へ戻る。

「最近もらった、食器……大丈夫かな」

アランは室内を見回す。

すると木目の壁が歪みんでいることに気づいた。

一本の裂け目が走っている。

修理を覚悟して落ち込み、頭をかきながら俯く。

だが次の瞬間、アランは違和感に気づき、

裂け目をもう一度見つめた。

裂け目の向こうが、異様に黒くなっていた。

アランは裂け目を指でこじ開け、そっと手を差し入れる。

「……壁が無くなっている」

落ち着いた声で呟いたものの、驚きで体が固まっていた。

本来なら木材の壁の向こうには、

冷たく無機質な洞窟の壁があるはずだ。

だがそこには、人がギリギリ通れるほどの岩の割れ目が続き、

その先に十二畳ほどの空間が広がっていた。

アランは吸い寄せられるように足を踏み入れた。


息を殺し、暗がりの奥へと進んでいく。

途中、硬く冷たいものにつまずき、前のめりに倒れ込んでしまう。

「痛っ……」

そう言いながら、膝を祓い立ち上がるアラン。

ゆっくりと顔を上げ、部屋の奥へと視線を移す。

「これは……」

思わず声を漏らすアラン。

その視線の先には、

大きな鉄の塊が静かに佇んでいた。

「……機関車だ」

アランは息を呑み、周囲を見渡す。

空間には機関車のほか、本棚、机、散らばった設計図が置かれている。

アランは迷いなく手を伸ばし、資料を漁り始めた。

「電池……? 設計図もある。あれが先頭車両なら……」

アランは円筒状の透明な容器を握り、資料をかき集める。


地震の後、

アランは夜に、裂け目の奥でこっそりと作業をするようになっていた。

旧時代のモノや知識が禁忌であることは薄々感じていたが、

それでも好奇心が勝ていた。



アランはいつものように、漁へ行く準備をしていた。

すると突然、外から騒ぎ声が響いた。

何事かと、アランとタケルは外へ飛び出す。

騒ぎの中心では、村人たちが雪の溶けた茶色い地面を見つめていた。

アランは人混みを押しのけ、地面に駆け寄る。

そこには光沢のある、倒れた梯子のようなものが露出していた。

「……線路」

アランが呟いた瞬間、周囲の大人たちの顔が強張った。

大人たちの視線が、一斉にアランへ向いた。

六十代ほどの男がアランに詰め寄ってくる。

(しまった・・・・)

アランは額に汗を滲ませ、詰め寄る男たちを睨みつける。

男たちはアランの襟を掴みあげた。

「おい、アラン!」

タケルは心配そうにその様子を見つめていた。

寂れた石造りの部屋に連れてこられたアランは、

年長の村人数人に囲まれた。

「どこで知った」

「誰に聞いた」

矢継ぎ早に問い詰められる。

アランは「なんのことですか」としらを切った。

「……仕方ない」

年長の男が呟くと、アランは抵抗むなしく足枷をつけられ、

簡素な牢屋に放り込まれてしまう。



その日の夜。

アランは夕飯として与えられた粗末なパンを噛みちぎりながら、

自室を探られ、裂け目が見つかることを恐れていた。

そのとき、牢屋の静けさを破るように、小さな声が響いた。

「おーい!」

アランは驚いて顔を上げる。

「こっちこっち!」

少し甲高く、どこか腑抜けた声。

声のする方へ視線を向けると、

鉄格子を挟んだ斜め向かいの牢から、金髪の男が嬉しそうにこちらを見ていた。

村では見たことのない服を着ている。

「……コート?」

アランが思わず漏らすと、

金髪の男は目を輝かせ、鉄格子に体を押しつけてきた。

「ここに捉えられて三日間、この服の良さが分かる人がいなかったんだ!」

アランは困惑した。


「なんで、旧時代の服を……」

アランは驚き、思わず声を漏らした。

そんなアランをよそに、金髪の男は勝手に自己紹介を始める。

「俺の名はカート! よろしくな!」

明るく言い放つカート。

「遭難してるところを、この村の人に助けてもらったんだけどさ。

なぜだか、すぐここに入れられちゃってね」

「……あんた、この村の生まれじゃないのか!?」

アランは、カートの言っていることが信じられなかった。

「ほぉ。もしやこの村の人間は、自分たちが最後の生き残りだとでも思ってるのかい?」

カートがそう言うと、

アランは険しい顔をし、もう一度カートの服装に目を向けた。

胸元のペンダントが深く沈んだ色をしている。

「なぜ、俺が旧時代の服を着ているか。気になるか?」

アランの疑いを察したように、カートは静かに語りかけてきた。

今までの砕けた口調とは違い、その声には重みがあった。

アランは思わず唾を飲み込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。