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Oblivion

日差しが降りそそぎ、水面が眩しく揺れる湖畔。

その上には、一機の飛行機が悠々と浮かんでいた。

「目的地が見えてるっちゅーのに、厄介やな」

男は地図を見ながら、機体の上で寝そべっている。

「もっと、いっぺんにギョーさん燃料があればなぁ」

そうぼやきながら、遠くの塔を見つめた。

ふと岸辺に目をやると、ショクブツがうじゃうじゃと蠢きながら移動している。

「ほな、燃料取りに行きまっか」

男は軽く伸びをし、飛行機のエンジンをかけた。

水上を滑るように加速し、そのままショクブツの群れへ突っ込む。

機体の先端から弾丸が放たれ、ショクブツたちを次々と吹き飛ばしていく。

「よっっしゃー!」

男はガッツポーズを決め、その勢いのまま機体を空へと引き上げた。

飛行機は空中で一回転し、そのまま地上へ着地。

ブレーキをかけて機体を止めると、男は勢いよく地面に飛び降りた。

「貰うもんもらって、さっさとずらからんとな」

そう呟き、寂れた風車小屋へ足を踏み入れる。

「電池はどこや……」

小屋の扉を開け、中を覗き込む。

その瞬間、

「随分遅かったな!」

背後から声が飛んだ。

男は慌てて振り向く。

そこには銃を構えたカートが立っていた。

「あんたさん。誰や?」

寂れた小屋に、緊迫した空気が満ちていく。




汽車から降りて、大河にいるタケル達。

岩礁の上でしゃがみ込み、水中を見つめるアル。

「タケル達、大丈夫かな」と心配そうに呟く。

「安心してください。あの潜水服は何度か使っていますから」

ハンナが明るく答える。

「本当に? あんなちんちくりんな服で……にわかには信じられないね」

マコは背伸びをし、軽くあくびをした。

大河は重たくうねり、深いところの色が沈んでいた。

太陽が雲に見え隠れする。


大河の下で、水に身を委ねているタケルとシモンズ。

「まさか、こんなところに……」

シモンズは水中の建造物を見つめる。

「なんなんだよ、あれは」

タケルが息を呑む。

水の冷たさが全身にまとわりつく。

呼吸音だけが潜水服の内側で小さく響く。

シモンズは周囲を回り込むようにして近づいた。

「おい! まてよ!」

タケルが追いかける。


「ガラス張りか……」

シモンズは手持ちのライトを、建造物に向ける。

ライトの光が壁面を滑り、内部の影がぼんやり浮かぶ。

タケルは建造物の壁面に近づき壁に手を伸ばす。

「なんだろ……」四角い窪みに気づいたタケル。

指が触れた瞬間、鈍い機械音が水中に響いた。

建造物の照明が順に点灯し、暗闇の奥が形を持ちはじめる。

「っ……!」

タケルが固まる。

そこには、冷たく無機質な巨体があった。

「なんだ、これは……」シモンズが呟く。

黒く無骨で、角張った外装。

アランを攫った甲冑と同じ五メートルほどの大きさだが、

それは“甲冑”というより、ただの巨大な機械の塊だった。

動きを止めた二人と対照的に、

細かな気泡が、揺れながら上へ向かって消えていく。


シモンズは我に返り、腕の時計を見る。

「残り時間が少ない」

タケルの肩を叩き、上へ戻るよう合図する。

二人はゆっくりと水面へ向う。

水が重く、上昇するたびに光が近づいてくる。

「どうなってるんだよ……」

岩礁の上では、アルたちが囲むように地面を見つめていた。

マコは落ち着かず、空に向かって叫ぶ。

「早く戻ってきてくれよ! 気味が悪い!」

「二人とも大丈夫でしょうか……」

ハンナも少し不安げに呟く。

そんな三人の様子から目を離し、

ハンナはふと水面に視線を移した。

水中から、ブクブクと泡が浮き上がってくる。

「ん?」

マコも気づき、水際へ近づく。

次の瞬間、水面を切るように、勢いよく二人が浮き上がってきた。

「大丈夫ですか?!」

ハンナが身を乗り出し、二人の腕をつかんで引き上げる。


岩礁に上がった二人は、

水中で見たものを四人に話した。

「にわかには信じられないね」

マコはつんとした表情で言う。

「だとしたら、あの階段は……」

アルが呟く。

「階段?」

シモンズがハンナに尋ねる。

ハンナは二人を穴の前まで案内した。

マコが興奮気味に指差す。

「見ろよ」

地面は円を描くように割れ、

その中心に螺旋階段が現れていた。

ゆっくりと地中へ続いている。

「あんたらが潜ってしばらくしてから、急に地面がスライドするみたいに綺麗に割れて……」

アルは言いながら、自分でも信じきれていない様子だった。

シモンズは穴の奥を見つめ、

静かに呟いた。

「やはり……」

「シモンズ、知っていたの?」

ハンナが尋ねる。

「いえ。似たような施設について、書物で読んだことがありまして」

そう答えるシモンズの声は、

どこか確信めいていた。


「おそらく、この階段は、水中の施設に続いているかと」そうシモンズが呟くと

「まさか、降りるなんていうんじゃないでしょうね」とマコが尋ねる。

「なんだ、お前怖いのか?」とタケルが揶揄うように言う。

「お前らなぁ」

アルは小さくため息をついた。


螺旋階段を下るタケル達。

岩肌に沿って沈むように続く階段が、

薄い光の中でゆっくりと消えていく。

壁には金属の梁が埋め込まれ、

ところどころに取り付けられた照明が

琥珀色の光を落としていた。

螺旋階段を下り切ると、

半円の天井を持つ通路が伸びていた。

通路の先には、重い扉があった。

岩壁に埋め込まれたように立っており、

その隣には小さな操作盤が取り付けられている。

シモンズが近づき、

指先でボタンを押した。

すると、低い駆動音が通路に広がり、

扉がゆっくりと左右に開いていく。

タケルがシモンズに尋ねる。

「おそらく……エレベーターです」

ハンナ以外はキョトンとしていた。

「ねえ、あんた達、知ってる?」

マコが小声で聞く。

「旧時代のことは、タツに任せっきりだったからなー」

アルが抑揚のない声で答える。

「俺も……カートとアランなら知ってるかも」

タケルも肩をすくめた。

「とりあえず乗ってください」

シモンズが先にエレベーターへ入る。

タケル達も恐る恐る後に続いた。

扉が閉まり、

エレベータは静かに動き始める。


わずかな揺れとともに、エレベーターが止まった。

短く金属的な響きと共に、再び扉が開く。

すると薄く青い光が静かに流れ込んできた。

目の前には広い空間があり、

中央に一本の大きな樹が立っていた。

天井は半球状のガラスで覆われ、

その向こうから淡い光が降りている。

樹の根元には、

円形に沿って棚のような構造物が並んでいた。

どれも古く、表面に薄い埃が積もっている。

空気は冷たく、

どこか水の底にいるような静けさがあった。

タケル達はしばらく言葉を失い、

ただその光景を見つめていた。

静けさの中で、

シモンズがゆっくりと一歩踏み出した。


シモンズは本棚に手を伸ばし、

一冊を抜き取って読み始めた。

「どうやら、ここには研究データが保管されているようです」

そう言うと、次々と本を開いていく。

ページをめくる音だけが、静かな空間に響いた。

「これは……ここにいた人の日誌のようですね」

シモンズは一冊を開き、淡々と読み上げる。

「アトランティス計画――

気候変動により不安定となった地上を捨て、

我々人類は海底へと生活圏を移すべきだ。

そのためには海中に巨大な人工居住地を作る必要がある。

その挑戦の第一歩として、この大河の底に私の別荘を作ってみた。

住み心地はまずまずだ」


タケルも別の本を手に取る。

古い紙の匂いがわずかに立ちのぼった。

「非検体 b-3――

ノックオフ計画の非検体の一人。

リプロダクションの一人ニックスの暴走、

およびノックオフ非検体 a-2 を主犯とした大量逃亡事件を受け、

無期限の冷凍処置」

読み終えた瞬間、

本の間から一枚の写真がひらりと落ちた。

b-3 と書かれたその写真には、

幼い子供が写っていた。

その顔に、タケルは見覚えがあった。

タケルはゆっくりとそれを拾い上げる。

「……おい、これって」

写真に映っているのは、幼きネモの姿であった。

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