交わる
暗闇の中、アランは一人で立ち尽くしていた。
呆然と周囲を見渡した瞬間、砂嵐が襲いかかる。
思わず腕で顔を覆い、恐る恐る目を開けると、
砂嵐はいつの間にか雪嵐へと変わり、あたり一面が銀世界になっていた。
困惑するアランの周囲に、ぽつぽつと温かな光が灯る。
その光に安堵したのも束の間、光は急速に膨れ上がり、熱を帯びていく。
気づけばアランは、燃え盛る村の中にいた。
四方から阿鼻叫喚が響き、アランは恐怖に後退る。
背中に何かが触れた。
振り返ると、長い髪を揺らす青年が、無表情で立っていた。
青年は紫色の瞳をしており、手には猟銃を握っている。
猟銃の木肌には細かな彫りが刻まれており、古い金装飾が輝いていた。
銃口がアランに向けられる。
次の瞬間、ベックが被弾して倒れる。
アランは必死に逃げ、深い森へと飛び込む。
息を整えたのも束の間、周囲の植物がショクブツへと変貌し、アランに襲いかかる。
ツタに絡まれ、もがくアラン。
そんなアランの前にセレーナが現れる。
アランは必死に手を伸ばす。
ようやく触れたセレーナの身体は植物でできており、驚愕するアラン。
反射的にセレーナを刺すと、背後から憎悪に満ちた雄叫びを上げてタケルが迫る。
狼狽えるアラン。
気づけば目の前のセレーナはカートに変わっており、
カートは血を吐いて崩れ落ちた。
地面に広がる血は沼のように波打ち、
そこから無数の血まみれの手が伸び、アランを引きずり込もうとする。
ふと上を見上げるアラン。
空中では無数の鎧が争い合っていた。
そのうちの一機が撃墜され、炎をまとってアランの方へ落ちてくる。
アランは息を荒げたまま、闇の中で身を起こした。
汗に濡れ、荒い息を吐きながら周囲を見渡す。
白い壁と小さな窓だけがある、静かな部屋だった。
薄いカーテン越しに差し込む光はやわらかいのに、どこか冷たさを含んでいる。
ベッドも机も簡素だが、手入れの行き届いた高級感がほのかに漂っていた。
冷たい空気の中で、コツコツと足音が近づく。
静かに扉が開き、優しそうな青年が部屋に入ってくる。
「調子はどうだい?」
柔らかい声でそう尋ねる青年。
アランは反射的に身構えた。
青年はその様子に気づき、少し困ったように微笑む。
「……あぁ、すまない。私の名前はリエム。リエム・エレンだ。よろしく」
そう言って、ためらいなく手を差し出した。
アランが拐われて数日が経った頃。
ベックとタツは車の修理に取りかかっていた。
「やっと動きそうだ」
車の下からタツが這い出てくる。
「ワリーな」
地図を眺めていたベックが声をかける。
ベックのコートを羽織り、タツは車に飛び乗った。
「カートの野郎、どこに行きやがった」
ベックはエンジンをかけながら吐き捨てる。
「アランのやつ……大丈夫っすかね」
タツが不安げに呟く。
ベックは軽く頭をかき、深いため息をついた。
「アル達に追いつくぞ」
そう言って、車は荒野へと走り出した。そう言って、車は荒野へと走り出した。
同じ頃、汽車は広大な荒野を走り抜けていた。
行き先には、巨大で奇妙な形の塔がそびえ立っている。
タケルは神妙な面持ちで操縦桿を握っていた。
「……あの二人なら大丈夫だよ」
セレーナが淡々と声をかける。
「二人一緒ならな……」
タケルは顔をしかめる。
セレーナは言葉を失い、追い詰められたように視線を落とした。
タケルの横で、ただ静かに佇んでいる。
少し離れた位置から、マコが二人を心配そうに見つめていた。
「タケル!ショクブツの群れが!」
アルの叫び声でタケルはハッとする。
前方では、ショクブツ達が河岸で何かを襲っていた。
目を凝らすと、ボートを走らせるシモンズの姿があった。
迫り来るショクブツを機関銃で蹴散らすハンナ。
ショクブツ達は集まり、大蛇のような形になって立ち塞がる。
すかさず機関銃で攻撃するも、ショクブツは止まらず突っ込んでくる。
シモンズ舵を切り、間一髪でショクブツの突撃を回避する。
一安心したのも束の間、空の上からショクブツの群れが襲いかかる。
「弾切れ!?」
狼狽えるハンナ。
シモンズは腰の銃を構え、操縦室から出る。
ショクブツに向けて発砲するも、数が多くて手こずってしまう。
そこへ、刀を持ったタケルがショクブツめがけて飛び込んできた。
「タケルさん!」
ハンナが少し嬉しそうに声を上げる。
「今のうちに弾を!」とハンナに叫びながら満身創痍のシモンズが顔を出す。
「兄様、危ない!」シモンズの真後ろに植物のツタが迫っていた。
シモンズの真後ろに植物のツタが迫っていた。
シモンズは慌てて振り返るが、間に合わない。
ツタの先端が肩に触れかけた時、突然横から光線が走り、ツタを弾いた。
その光の飛んできた方には、汽車の上で銃を構えるアルの姿があった。
ショクブツとの戦いを終えたシモンズとタケル達。
「そんなことが……」と、これまでの経緯を聞いて驚くシモンズ。
「あいつはおそらく、あそこに……」
そう言って、大きく聳え立つ塔を指差す。
「あんたらのルートだと、あとどれくらいで塔に着く?」そう言いながら地図を見るタケル。
「電池の補給も終えていますので、二週間もしないで着くでしょう」
シモンズが答える。
「俺たちと同じくらいだな」と言うタケル。
タケルを見つめるシモンズ。
「実は塔に行く前に、確認したいことがありまして」
そう言って、シモンズは一枚の紙を取り出した。
「塔への地図か?」とタケル。
「塔への地図か?」とタケル。
「あなた達と別れた後、電池を取りに寄った廃村で見つけたものです」
とシモンズが答える。
「私も初めは、塔への地図かと思いました」
そう言って地図を広げた。
地図の上には、ひとつだけ印が付けられている。
シモンズはその場所を指差した。
大河の合流地点に、大きく書かれた印。
「これって……」とアルが呟く。
「今いるこの場所だよね」
マコが割って入る。
一同は、大河の中央にぽつりと浮かぶ小さな岩礁に目を向けた。
岩礁に足を踏み入れる一同。
「セレーナさんは大丈夫でしょうか?」とハンナ。
「最近体調崩し気味でさ。まぁ、少し横になってれば大丈夫でしょ」とマコ。
「ショクブツとの戦闘が起きると、いつもあんな感じなんですよ。疲れが出ているのか……」とアル。
それぞれが岩礁を観察し、何かないかと探り始める。
岩肌は風雨に削られ、ところどころ黒く光っていた。
近づくと、岩の中央に不自然な円形の金属板が埋め込まれていた。
自然の造形とは明らかに違う滑らかな円に、シモンズは興味を示す。
「足元以外は特に変わった所はねーな」
タケルはあたりを見渡す。
困惑して地図を広げるタケル達。
「何かがあるはずだ・・・」そう言って地面を調べるシモンズ。
「場所は合ってるよなー」そう言って地図を見つめるアル。
周りを見渡しても特に変わったものはない。
アルが地図を覗き込みながら呟く。
周りを見渡しても、特に変わったものは見当たらない。
「水中とか? そんなわけないか」
マコの言葉に、
「それだ!」
一同が一斉に食いついた。
盛り上がったのも束の間、
「わかったところで、どうやって行くんだよ」
アルが冷静に突っ込む。
「そうだよなー……」
タケルが腕を組んで考え込む。
「それなら問題ありません」
シモンズが静かに言った。
その言葉と同時に、ハンナがボートから潜水服を引っ張り出す。
「この船に備え付けでありましたから……」
とシモンズが続けた。
タケルとシモンズが潜水服を身に着ける。
「ほんとに大丈夫なんだろうな……」
タケルは自分の潜水服を見下ろし、不安げに呟いた。
「私が先導しますので……」
シモンズはそう言ってヘルメットを被る。
「兄様気をつけて」とシモンズに声をかけるハンナ。
シモンズは、岩礁の縁から水の中へ飛び込む。
タケルも慌ててその後を追った。
水面から落ちる光が、揺れながら深みに吸い込まれていく。
「深いな……」
タケルは驚きつつ、周囲を見渡す。
二人の横を魚の群れがすり抜けていった。
川底の石と岩は青い影に沈み、静けさだけが広がっている。
やがて二人はゆっくりと着地した。
タケルが水中での感覚に戸惑っていると、
シモンズが前方を見て急に動きを止める。
タケルもつられて視線を向けた。
視線の先には、巨大な影が広がっていた。
それは自然の岩ではない。
円形の建造物が、川底に静かに横たわっていた。
青緑色の金属面が広がり、縁には赤茶の錆がにじんでいる。
周囲には小さな装置や低い施設がいくつも並び、
配管や支柱が短い間隔で組まれていた。
ーーー第1章 完ーーー




