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14/33

Artificial

鉄骨の残骸が空へ向かって歪む街並み。

そこに突如黒い雨が降りしきる。最初の一滴が落ち、

黒い染みがアスファルトに広がる。

倒壊したビルの外壁が、

雨に触れた部分から溶け落ちていく。

「2240年。

地球は、数十年以内に“人類の居住に適さない環境”へと変わると予測された。」

「原因は、長い年月をかけて積み重なった人間活動。

極端な気温変化、酸性雨、砂漠化、

それらは世界各地で深刻化していた。」

「この異常気象を前に、

地球環境を改善しようとする研究が進められている。」

映像が切り替わり、

白衣の研究者たちが映し出される。

インタビューに応じる学者が口を開いた。

「私たちは“植物”を用いて地球を浄化しようとしています。

そのためには、どんな環境でも繁殖し続ける、

強い植物を作り出す必要があるのです」

学者の言葉を最後に、

映像はノイズを残したまま、ゆっくりと消えていった。


「ショクブツは……人間が作り出したのか」

アランは驚きに声を漏らす。

「本意じゃない。事故だったんだよ」

リエムが静かに答えた。

柔らかな光が二人に降り注いでいる。

その光は自然光のようでいて、どこか人工的な均一さがあった。

無機質で、不気味な清潔感が漂う部屋。

その中心には、半円の机があった。

リエムが机の上に手を伸ばし、

無音のままタイピングを始める。

指先が触れた瞬間、

先ほど映像を映していた青白いホログラムが

ふっと消えた。

「この塔では、終末を直前にあらゆる研究がなされていてね」

「どれも、人類の生存を賭けたものだった」

リエムは机の上に置かれた電池を手に取り、

光に透かすように眺める。

「この塔は、人類の希望になるはずだった」

少し悲しそうに呟いた。

「今は違うっていうのか」

アランが低く言う。

「研究の産物は残っている。だが……この地球を、人類を救うことはできない」

「恐怖や焦りからか、それとも魅了されたのか。人という生き物は哀れなものだよ」

そうリエムが答えると、アランは眉を寄せた。

短い沈黙が起き、空気がわずかに止まった。

「なぜ俺をここに連れてきた?」

沈黙を破るようにアランが口を開く。


「・・・どこから説明しようか」

リエムは頬に手を添え、わずかに視線を落とした後、

タイピングをしながら話し始める。

「この世には、この世界の理に収まらない力を秘めた覚醒者が存在する」

そう言ってホログラムの画面を出現させた。

リエムはreproductionと書かれたファイルにアクセスする。

「いつからか語り継がれてきた伝説を、終末の人々はなぜか信じたのさ」

ファイルを開くと

3人の人物画像が表示される。

「……?!」

アランは目を見開く。

「なんでカートが」

青白く光るホログラムの画面には、カートの顔が表示されていた。


「reproduction計画とは、人工的に覚醒者を生み出すこと」

動揺するアランをよそに、リエムが解説をする。

「なんだと、、、」

アランは声を漏らす。

「計画は成功し、三人の覚醒者が生まれた。だが──暴走と逃亡で、人類救済には繋がらなかった」

そうリエムが語ると、アランは戸惑った。

「色々追いつかないが……俺はカートを誘き出す餌ってわけか」

アランがそう言うと

「そうじゃない」

リエムは静かに首を振る。

「君は、この世界の理に収まらない力を秘めている。伝説そのものだ。」

まるで演説でもしているかのような口ぶりのリエム。

アランはわずかに視線をそらし、

「馬鹿馬鹿しい」と吐き捨てる。

リエムはゆっくりとアランに顔を近づけた。

「思い当たる節があるだろう。カートと君だけの、特別な力が」

どこか優しい口調で語りかけるリアム。

アランは黙り込んだ。

「本当は、自力で来てほしかったんだけどね」

そう言うとリエムは窓の外へ視線を向ける。

遠くの空で、黒い雲が発達していた。



雷雨が轟く、厚い雨雲の中。

激しい光が断続的に点滅していた。

何かが高速で動いている。

スコールの中で、羽を広げたネモが空を駆けていた。

背後では無数の根が、高速でしつこく追尾してくる。

ネモは急な方向転換を繰り返し、それらをかわしていた。

方向を変える一瞬の隙に、

腕のアーマーからエネルギー弾を連射する。

弾はすべて命中し、ショクブツの数が減っていく。

「キリがないな」

そう言って、唾を吐き捨てるネモ。

やがて根が絡み合い、

巨大なツタとなって迫ってきた。

ネモは急に減速し、空中にとどまる。

「これは、初めてだな」

そう呟くと、アーマーにデンチを装着する。

光の刃がアーマーから伸び、

ネモは迫り来るツタへ迷いなく突っ込んでいった。

ツタがぶつかる瞬間、

ネモは余裕の表情で身をひねり、

ツタの表面を滑るように移動する。

そのまま地上へ着地し、

エネルギーでできた翼を収束させる。

背後では、巨大なツタが半分に裂け、

静かに崩れ落ちていった。



アランは、目の前にいるリエムの話をどこまで信用していいか、

答えを出せないまま、ほんのわずかに身じろぎした。

その動きに合わせて、左腕に鈍い痛みが走る。

手で押さえると、ガーゼが巻かれており、

かすかに血が滲んでいた。

「すまないね。手荒な真似をして」

どこか軽やかな声のリエム。

「ノックオフの中には、自分の細胞を他者に与えることで

能力をコピーさせるものがあるとか……」

リエムは部屋の隅にある試験管を取り出す。

アランは無意識に身構える。

「そういった研究データを見たが、

君の細胞にそのような効果はなかった」

話しながら、慣れた手つきで試験管を箱の中へと移す。

アランの胸に、静かな警戒が広がる。

「安心したまえ。ここにいる間は、君の身の安全は保証しよう」

そう言って、リエムはアランへと一歩近づいた。


「君の存在が必要なんだ」

リエムはアランの前で静かに頭を下げた。

「君に、生き残っている人類の主導者となってもらいたい」

室内の光が、リエムの横顔を淡く照らしていた。

「どういうことだ?」

意味が掴めず、アランは思わず問い返した。

「彼らの希望の象徴となり、文明の復活を後押ししてもらいたい」

そうリエムが言うと、短い沈黙が落ちた。

「そもそも多くの人々は旧世界の文明を嫌っているんだ」

アランが口を開くと

「そうだったね」

とリエムは小さく息をついた。

「そんなスケールの小さな話ではないよ」

リエムは話しながら、世界地図を表示する。

それはアランたちが知る地図とはまるで違っていた。

リエムが一つの島を拡大する。

「これなら見覚えがあるかい?」

アランは目を細める。

「まさか……」

「そう。君たちが旅してきた“世界”は、この地球の三分の一にも満たない。」

「この大陸は、昔から異常気象が比較的少なく、人類が住みやすい地域でね、

人類最後の砦として、色々努力していたんだよ」

部屋の空気はどこか冷たく、機械の微かな駆動音だけが響いていた。


「……すこし話がずれたね。実は、外の世界にも人々はいるんだ」

リエムがキーボード叩くと、部屋の奥の壁が静かに開き、

白い煙とともに二メートルほどのカプセルが現れた。

煙が薄く漂う中、

金属と透明な素材で構成された無機質なカプセルが姿を見せる。

内部には、赤毛の女性が静かに横たわっていた。

髪は水の中で揺れるように広がり、

淡い光に照らされている。

目は閉じられ、呼吸の気配もほとんどない。

リエムはカプセルを見つめたまま言う。

「この地球の各地で、彼女のように人類は眠っているんだよ」

アランはカプセルを見つめ、言葉を失った。


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