勿怪
「アニキ〜!」
泣きじゃくりながらベックに駆け寄るマコ。
「ちょ、ちょっと待って……息ができない……!」
ベックは引っ付いてくるマコを相手にしながら、苦しそうにしている。
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて」
タツが宥めると、ようやくマコは手を離した。
ベックは大きく息を吸い込み、アランに向き直る。
「久しぶりだな!」
明るく言い放つベック。
「あぁ、久しぶりだな」
アランも笑みを返す。
「いい顔つきになったじゃねぇか」
ベックがニヤつく。
「だろ?」
カートがアランの肩を叩きながら現れた。
「二人ともな。」
ベックはそう言い、今度はタケルの方へ視線を向けた。
タケルはセレーネと共に、泣きじゃくるマコとアルを宥めていた。
すると突然、アランが険しい顔する。
「ショクブツだ」
アランはは瞬時に銃を取り、客車を飛び出した。
「ここら辺きショクブツは出ないと思っていたが、」
そう言い、電池を装着するベック。
刀に青白い電気が纏う。
その横にカートが並んだ。
「数は少ないが、あのタイプは厄介だな」
そう言って、武器を握りしめる。
汽車の屋根上では、アランとタケルがすでに戦闘体勢に入っていた。
「3時の方向に2体いる」
アランは銃に電池を込めながら、タケルに指示を出す。
「何秒だ?」
タケルが短く問う。
「20秒」
アランは即答した。
その瞬間、ベックの刀から発せられた光が洞窟内を一気に照らし出す。
馬のような姿をしたショクブツが2体、姿を表した。
どちらも二メートルを超える巨体で、額にはツルと枝で形成された螺旋状のツノが生えている。
アランは右膝を突き、片手で銃を構え、植物に狙いを定めた。
後ろからタケルが飛び出し、ショクブツに切り掛かる。
「左に跳ぶ。顔を狙え!」
アランが叫ぶ。
ベックはその掛け声に瞬時に反応し、ショクブツの顔へ刀を突き刺した。
ショクブツは一瞬怯むが、ツノを突き出しタケルに突っ込んでくる。
タケルはすかさずかわすが、ショクブツは止まらない。
突進の先にはアランがいた。
アランは迫る巨体を前にしても冷静に引き金を引いた。
激しい光と共に、ショクブツは消えた。
「大丈夫か?」
アランへの元へとら駆けつけるタケル。
「何回やっても、高出力の反動には慣れないな」
笑いながら立ち上がるアラン。
「もう一体は?」
「もう片付いてると思うよ」
膝を払いながら答えるアラン。
汽車の屋根上から下を見ると、
既にベックとカートがショクブツを倒していた。
その直後、上から鈍く重い音が聞こえた。
「なんだ、洞窟の外か?」
タケルとベックが刀を構え直す。
「どうしたんだ?」
汽車からアルが出てくる。
「バカ! 出てくるな」
ベックが言い終えるや否や、洞窟の天井が割れ、巨大な鎧が落ちてきた。
「タツ! 車にエンジンかけとけ!」
ベックが叫ぶ。
カートは急いでボイラー室へ駆け込む。
鎧は怪しく光りながら、じっとベックを見つめていた。
ベックは睨みを効かせ、刀を構える。
鎧から声が響く。
「何も、君たちとやり合おうってわけじゃない。
君が目指している塔に連れていってあげようと思ってね」
巨大な手を差し伸べる鎧。
「どういうことだ?」
警戒しながら尋ねるベック。
「できれば自力で来てもらいたかったが、色々と事情があってね。悪いが拒否権はないよ。」
アルは頭を抱えた。
「あーあ、あんな言い方しちゃったら……」
ベックは舌打ちし、刀に電池を込め始める。
「気に入らねーな。てめーの事情なんて糞食らえだ。」
「冷静になれ!」
アランが叫ぶが、ベックには届かない。
ベックは鎧に切り掛かる。
鎧はため息をつくように「やれやれ」と呟き、照準を合わせた。
その瞬間、ベックは隠し持っていた小袋を高く投げ上げ、刀から電気を放つ。
小袋が爆散し、黒い煙が洞窟に広がる。
「ずらかるぞ!」
ベックは急いで車に飛び乗る。
アランたちも汽車に乗り込み、一同は洞窟を抜けようと走り出した。
「もー、ヒヤヒヤさせないでくれよ!」
マコが喚く。
「全く、肝が冷えたぜ……」
タケルは汗を拭いながら腰を下ろす。
しかし、次の瞬間、煙幕を破るように正面に鎧が現れた。
カートはやむをえずブレーキをかける。
ベックは勢いよくハンドルを切り、車は岩壁に衝突した。
よろめきながら車から出てきたベック。
そのベックに向けて、鎧が光線を放つ。
光線はベックの頬をかすめた。
圧倒的な力の差を感じ、ベックは冷や汗をかく。
「まだ覚醒していないのか? それとも……」
鎧の声が響く。
皆が安堵したのも束の間、車が爆発し、爆風がベックを巻き込んだ。
「兄貴!」
アルとマコの叫びが響く。
しかしセレーネは落ち着いた表情でジッと一点を見つめている。
「大丈夫」
静かにそう答え、鎧の背後を指差すセレーネ。
嫌な予感を覚えたように、鎧がゆっくり後ろを向いた。
そこには、アランの姿があった。
「速すぎる……能力を完全に使いこなしているのか? 既にそこまで……」
興奮とも動揺ともつかない声が鎧から響く。
汽車の上に、ベックの姿はもうなかった。
空中でタツを抱え、銃を構えているアラン。
アランは落下の勢いのまま、引き金を引く。
最大出力の光線が鎧を貫き、巨体が沈む。
「……あのバカ、あの高さから落ちたら……」
タケルが焦る。
だが二人の姿は一瞬で消え、気がつくと汽車の上に立っていた。
アランは息を整え、タツは気を失っていた。
下では、皆が言葉を失って二人を見上げていた。
あっけに取られているのも束の間、煙を掻き分けながら鎧が再び動き出した。
「飛行ユニットにダメージか……」
鎧は高速で地面を滑り、巨大な手でアランを掴んだ。
「まぁいい、目的は達成できた」
鎧はアランを攫って、その場を離れていった。




