夜明け前
カート達が乗ったボートが到着すると「兄貴!」と叫びながらユースとアルはボートへ駆けて行った。ベックの傷に気がついたユースは、すぐにベックをテントに連れ込み、手当てを始めた。ベックは手当をされながら、ユースとアルに対し、村で遭遇した出来事について語った。ユースとアルは半ば信じられないといった表情をしたが、カートやシモンズらの様子、何よりベックの表情から信じざるを得なかった。「そういや、そこで寝ているガキはなんなんだ?」とテントの隅で眠りについている子供を指差した。「俺らと同じ、生贄にされた子供です。」とアルが重苦しく答える。しばらくの間沈黙し、「よく生きていたな、、」と子供を見つめて呟くベック。「生贄ってどういうこと?」と淡々と尋ねるセレーナ。ベックは頭を掻きむしりながら、少しムッとした表情をする。「あー、あんまり話したくないんだけどよ、、」と喋りかけるベック。「俺と兄貴は村にとって都合の悪い連中ってことで、ショクブツの囮にされたことがあるんですよ。」とベックの話を遮るように語り始めるアル。「僕も、そうだった、、」と呟くユース。「俺とユースは兄見に救われたんです。」そう、アルが言うと、「てめーらが勝手についてきただけだろ」と呟くベック。「ふーん」と言いながら寝ている子供を見つめるセレーナ。
一方、テントの外では、「アランはどうしたんだよ、、」とタケルがカートに詰め寄っていた。「まだ、村にいるよ。」と伝えるカート。アランの無事を確認し、安堵するタケル。「あいつなりに、色々考えたいんだと思う、、」とカートが続けて語りかける。「何があったんだ?」と問うタケルに対し、カートは村で起こったことをタケルに話した。「貯蔵されていた食料がまだ残っていたので、食べるものには困らないでしょう」とシモンズがタケルに話しかける。「あいつの気が済むまで、待ってやりますかね」と少し笑いながら伸びをするタケル。「我々もここにしばらく残ります。少々気になることが増えましたので、、」と話すシモンズ。「ベックも傷が癒えるまでここにいるだろうし、、賑やかになるな」とカートが微笑む。
再会を終え、皆が寝静まったころ、ハンナは水を飲むために起き、何気なくボートから汽車を見つめていた。すると汽車からセーレーナが出て来てベック達のテントへと入って行くのが見えた。「こんな時間帯に、少女が男だらけのテントに入って行くなんて、、」と心配になったハンナはこっそりとテントを覗きに行く。テントの中ではセレーナがしゃがみながら何か話している。何を言っているのか気になったハンナは耳を澄ませる。すると、「いつから起きていたの?さっきの話、聞いてたんでしょ?」とハンナの声が聞こえた。「すいません!ハンナさん、盗み聞きする気はなかったんです、さっきの話とやらも聞いていないので、、、」と慌てふためくセレーナ。「え?」と静かに驚くハンナ。すると、「あーあ、うるさいったらありゃしない!」と子供があくびをしながら起き上がる。「あんた、私の狸寝入りを見破るとは大したものだね!」と話す子供。「どうオタしまして。」と淡々としているハンナ。「えーっと、」と少し戸惑っているセレーナ。「あんた、セレーナだっけ?」と問いかける子供。「どうして私の名前を?」と問い返すセレーナ。「ハー。あんた鈍いね、狸寝入りしてたって言ったろ。会話全部聞いてたんだよ。」と力強く話す子供。「あなた、名前は?」ハンナが落ち着いた口調で問う。「あんたは覇気がないね、感情が無さすぎるというか、、」とハンナの顔を覗き込みながら呟く子供。「ちょっと、失礼ですよ。」と言うセレーナを無視し、「私の名前はマコ、よろしくな。」とハンナに手を出す。ハンナは首を傾げ不思議そうな顔をする。「不思議なのはこっちの方だよ、握手も知らないのかい?」と真子が言うと、ハンナはハッとした表情をし、マコの手を握る。