はじめての仕事4
レッドコウモリの数は異常に増えていたものの、一匹一匹は弱い雑魚モンスター。アリーシャの広範囲魔法と三人の連携であっという間に蹴散らし、浅い層は難なく突破した。
そして──ここからは、アリーシャも足を踏み入れたことがない『未開のエリア』へと突入する。
……のだが。
「……ねえ、アリーシャ。さっきから進むスピードが劇的に落ちてるんだけど」
アカツキがジト目で振り返る。
アリーシャの背中には、自分の背丈ほどもある超巨大なリュックが背負われていた。あまりの重さに、足取りはフラフラ、全身から汗が噴き出している。
『はぁ……はぁ……だって、道中に……大量の『鉄鉱石』が落ちてたんだもん……! 拾えば……お金になるのに……見過ごせるわけないよ……!』
「いや重すぎるだろうがッ!?」
ジェイ・ジェイがリュックを少し持ち上げようとして、そのズッシリとした異常な重さに目を見張った。
「おいアリーシャ! お前、こんな重さ担いでよく歩けてたな!? 筋力どうなってんだ! だがな、未開の地に突入する前に体力を使い果してどうする! 頼むからその鉄鉱石は置いていってくれ!」
『えぇ〜……! もったいないよぉ……』
「最深部にはこれの何倍も高い『ハードメタル』があるんだぞ! 途中でバテたら元も子もないッ!」
『……うっ、確かに……! 分かった、置いていく……!』
名残惜しそうに鉄鉱石をゴロゴロと足元に置くアリーシャ。
お金への執着から必死に鉄鉱石を守ろうとするアリーシャと、汗だくで必死に説得するジェイ・ジェイのやり取りを見て、アカツキの肩がピクッと揺れた。
「……くすっ」
「っ!?」
小さな含み笑い。
クールで隙を見せなかったアカツキが、初めて見せた笑顔だった。
その一瞬の表情の華やかさに、ジェイ・ジェイは思わず心臓がハネ上がり、ドッキリと胸を突かれる。
(な、なんだ今の笑顔は……!? いつもツンツンしてるくせに、不意打ちすぎるだろ……ッ!)
「……何よ、人の顔じろじろ見て」
「な、なんでもないわッ! ほら、行くぞッ!」
ジェイ・ジェイは顔を赤くしながら誤魔化すように先頭へと躍り出た。
中層部は、浅層とは比べものにならないほど空間が広がり、空気の重みも変わっていた。
現れるモンスターも徐々に大型化していく。
フシューッ!! ククククーッ!!
不気味な鳴き声と共に暗がりから現れたのは、体長2メートルを超える巨大な鳥型モンスター──フクロフクロウだ。そのお腹にある大きな袋からは、小さな子供のフクロウが顔を覗かせ、親子で威嚇してきている。
「ふん、ここからは俺の出番だな! アリーシャ、アカツキ、後ろで見ていろッ!」
ジェイ・ジェイがニッと不敵に笑い、拳を構えて飛び出した。
「おい、待ちなさい脳筋! 親子で連携してくるタイプよ、様子を見──」
アカツキの制止も聞かず、ジェイ・ジェイは一気に間合いを詰める。だが──。
キーーーーンッ!!!!
フクロフクロウの親が口を大きく開けた瞬間、洞窟内に超高音の音波が響き渡った! さらに間髪入れず、お腹の袋から顔を出した子供が逆位相の音波を放つ!
「ぐあッ……!? あ、頭が……ッ!?」
親子による見事な連携音波攻撃が、ダイレクトにジェイ・ジェイの脳を揺らす。視界がグニャリと歪み、瞬時に方向感覚と平衡感覚を完全に奪われてしまった。
千鳥足になるジェイ・ジェイへ、フクロフクロウがすかさず急降下! 鋭い爪が肉を切り裂き、鮮血が舞う。
「ジェイ・ジェイッ! カウンターが入るわ、下がりなさい!」
「くそッ……! 身体が……動かない……ッ!」
全身に大量の傷を負い、片膝をつくジェイ・ジェイ。絶体絶命のピンチ──。
(俺が……見せ場だって息巻いておいて、こんなところで無様に倒れるのか……!?)
自分への激しい不甲斐なさと悔しさが、ジェイ・ジェイの中で爆発した。
「ふざけるなあああぁぁぁッッ!!!」
咆哮と共に、ありったけの魔力を込めた右拳を**ドゴォォォンッ!!**と床の石畳へ思い切り叩きつけた!
衝撃波が洞窟の天井まで届き──グラグラグラッ!!
「クキュッ!?」
天井から削り取られた巨大な岩石の塊が崩落!
なんと、ジェイ・ジェイの真上に覆いかぶさろうとしていたフクロフクロウの親子の頭上にドカンとダイレクトヒット!
哀れフクロフクロウ親子は、下敷きになって目を回して撃沈したのだった。
「……はぁ……はぁ……」
たまたま落ちてきた岩による、絵に描いたようなラッキーパンチ。
しかし、立ち上がったジェイ・ジェイは血まみれのまま、フッと不敵な笑みを浮かべて首を鳴らした。
「……ふっ、見たか! 天井の構造を瞬時に計算し、衝撃波で落盤を起こして押し潰す……! これぞ俺の精密な頭脳プレーだッ!」
「「……(絶対たまたまでしょ……!!)」」
傷だらけのまま調子に乗るジェイ・ジェイに、アリーシャとアカツキは同時に呆れ顔で突っ込む。
だが、アカツキは気を取り直したように倒れたフクロフクロウへ歩み寄ると、そのお腹をまじまじと観察し始めた。
「……まあ、倒せたなら何でもいいわ。それよりこのフクロフクロウ、お腹の袋を剥ぎ取って加工すれば、軽くて丈夫な良いリュックになるのよね」
ポンポンと袋を叩きながら、アカツキは冷静に付け加えた。
「素材としての入手難度はFといったところかしら。見習いの初手取りとしては悪くない収穫ね」
『えっ! リュックになるの!? すごーい! 剥ぎ取り手伝うよ!』
「おいッ!? カッコよく決めた俺への労いはナシかよッ!?」
血まみれで叫ぶジェイ・ジェイをよそに、女子二人は嬉々として素材の採取を始めるのだった。




