はじめての仕事3
夕闇はあっという間に山肌を呑み込み、『はじまりの洞窟』の入口にたどり着いた頃には、あたりはすっかり漆黒の夜に包まれていた。
ぽっかりと口を開けた洞窟の奥からは、不気味な冷気がヒュゥゥと吹き出してくる。
「よしッ! ようやく着いたな! このまま一気に突入し、最深部のハードメタルを喰らい尽くしてやるぞッ!」
ジェイ・ジェイが拳を握りしめて前に出ようとすると、アカツキがその首ぐさをグイッと引っ張って引き戻した。
「バカ言わないで。すっかり日が暮れてるじゃない。長旅の疲労を残したまま、夜間に未知のダンジョンへ突入するなんて自殺行為よ。今夜はここで野営して、明日の朝からアタックするわ」
「なにぃッ!? 目の前に宝が眠っているというのに、朝までお預けだとッ!? 男なら突撃一択だろうがッ!」
「男とか関係ないでしょ。トレジャーハンターなら生存率を一番に考えなさい!」
「命を惜しんで宝が得られるかッ!」
「無謀と勇気を履き違えるんじゃないわよ、この脳筋ッ!」
一歩も引かずにバチバチと火花を散らし始める二人。
『まあまあ二人とも、落ち着いて!』
アリーシャが慌てて割って入り、苦笑いを浮かべながら言った。
『アカツキちゃんの言う通り、しっかり休んで体力を戻してからの方がいいよ。暗いと探知魔法の精度も落ちちゃうし……それに、お母さんが持たせてくれた美味しいお弁当もあるから、みんなで食べて明日頑張ろうよ!』
「「……」」
「……ふぅ。アリーシャがそう言うなら、分かったわ」
「むむ……弁当とアリーシャの頼みとあっては仕方ないなッ! 腹が減ってはなんとやらだ!」
アリーシャの完璧な仲裁(とお弁当の魅力)により場は治まり、三人は入口近くで安全を確保して野営をとることとなった。
翌朝。万全のコンディションを整えた三人は、ついに『はじまりの洞窟』へと足を踏み入れ……そして、即座に異変に見舞われた。
キーキーキーキィィィッ!!!
「っ!? 上から来るぞッ!」
洞窟の天井一面から、不気味な赤い翼を広げたレッドコウモリの大群が、嵐のような羽音を立てて襲いかかってきたのだ! その数は優に数千匹を超えている。
『ええっ!? なにこれ、前来たときより明らかに数が多いよ!?』
アリーシャは叫びながら、襲い来るコウモリの群れへ向けて右手をかざした。
特に長い呪文を唱えることもなく、アリーシャがパチンと指を鳴らした瞬間──。
ゴーッ!!!!
手のひらから解き放たれた火属性の下位魔法が、巨大な炎の壁となって通路を覆い尽くした。一瞬にして群れの大半が焼き払われ、残ったコウモリたちが悲鳴を上げて散り散りに逃げ去っていく。
『ふぅ……なんとか払えたけど……おかしいな。9年前に来た時は、こんなに大量発生してなかったのに……』
胸を撫で下ろしながら首を傾げるアリーシャ。
だが──背後にいる2人は、驚きつつも即座に張り合い始めていた。
「……おいおい、今のは下位の《ファイア》だろ? あの威力を広範囲に叩き出すうえに、無詠唱とはな……! だが、前衛の突破力なら俺の拳だって負けちゃいないぞ! 俺の肉体ならどんな敵だって粉砕してみせるッ!」
「はいはい。アリーシャの本当に恐ろしいところは、あの規模を放っておいて息一つ乱れていないその『底なしの魔力量』よ。あんたの単純な打撃と一緒にしないで」
「なんだとッ!? 張り合うなら俺の実力を見てから言えッ!」
「ふん、言われなくても見てあげるわよ。ただの脳筋じゃないってところを見せられるならね。……まあ、近接で忍び寄る敵をさばくスピードなら、絶対に私の方が上だけど」
「くッ……! 見てろよアカツキ、俺の凄さをすぐに思い知らせてやるッ!」
「返り討ちにしてあげるわ」
『あはは……二人とも、ケンカはそこそこにしてね……?』
お互いの実力はまだ未知数だからこそ、プライドを懸けてバチバチと対立する二人。アリーシャは苦笑しつつも、そんな頼もしい(?)二人をなだめる。
そして、再び表情を引き締めると、洞窟の奥へと視線を向けた。
『……でも、やっぱりヘンだよ。どうしてこんなにコウモリが増えてるんだろう?』
初仕事の舞台である『はじまりの洞窟』は、アリーシャの記憶とは明らかに違う「異常事態」に包まれ始めていた。




