はじめての自己紹介
トレジャーギルドのライセンスを手にした3人は、ギルドの片隅にある円卓を囲んでいた。
今日から『仲間』としてパーティを組むことになったわけだが、空気は恐ろしいほど重い。
『ええと……これから一緒に頑張る仲間だし、まずは自己紹介からにしない?』
アリーシャが場を和ませようと苦笑いで提案すると、向かいに座る黒フードの少女が腕を組んだまま冷ややかに口を開いた。
「……いいわよ。私から行くわ」
少女はフードの隙間から鋭い黒目をチラリと覗かせた。
「……アカツキ。シーフよ。武器はショートソード。ダンジョンでの罠解除と開錠、近接の隠密戦闘なら任せて」
『アカツキちゃんね! 格好いい名前! シーフがいるのはトレジャーハンターとして心強すぎるよ!』
「ちゃん付けはやめて。……慣れ合いに来たわけじゃない。私の目的は稼ぐこと。特定の激レアなお宝を探しているけれど、効率よくお金になるなら何でもいい」
アリーシャが(あ、アカツキちゃんとはお金の価値観が合いそう……!)と密かに喜んでいると、突如──ガタァンッ! と音を立てて円卓が揺れた。
「次は俺の番だなッ!」
声と共に立ち上がったのは、晒しを巻いた無駄にいい体を持つ筋肉男だ。分厚い胸板をドスドスと叩き、堂々とした声で宣言する。
「俺の名はッ! ジェイ・ジェイ・クロー!! 人は俺を『不沈の鉄拳』と呼ぶッ! 職業はモンク! 武器はこの鍛え上げられた拳と脚のみッ!」
『ジェ、ジェイ・ジェイ・クローさん……!』
「ジェイ・ジェイと呼んでくれッ! 俺の目的は秘境に眠る強者や魔物と拳を交え、己の肉体を極限まで高めることだッ! アカツキ! アリーシャ! 俺たちの魂の拳を合わせ、未開の地を踏破しようではないかッ!」
「……声が大きい。あと息苦しいから近くに寄らないで。脳筋が真っ先にトラップにかかって死ぬのが目に見えてるわ」
「なにぃッ!? 俺の肉体はトラップなど跳ね返すッ!」
バチバチと火花を散らす二人を宥めながら、アリーシャは(熱血脳筋のジェイ・ジェイに、毒舌クールのタフなアカツキちゃんかぁ……)と息を吐く。
「……で? 最後に残ったあんたは何ができるの、アリーシャ?」
アカツキが肘をつきながら、試すような視線をアリーシャに向けた。ジェイ・ジェイも腕を組み、興味深そうに視線を向ける。
『私? 私はね──』
アリーシャは苦笑いを浮かべながら、申し訳なさそうに答え始めた。
『武器は弓で、魔法は風魔法を応用した音波系と探知魔法……あとは一応、水、火、土、雷、風の全属性魔法が中位までと、回復魔法が少々使えるくらいかな。どれも中位止まりだから、ぶっちゃけ器用貧乏──』
『貧乏!!? 貧乏と言ったか今ぁぁぁッ!!!』
バンッ! と爆音を立てて奥の執務室から飛び出してきたのは、大量の書類の山を抱え、目の下に濃いクマを浮かべた痩せ型の男であった。
[誰が貧乏だッ! 誰がッ! 我がトレジャーギルドは決して貧乏などではないッ! ただ……ただ少しばかり資金繰りが苦しく、冒険者ギルドに予算を奪われ、ギルド員の数が減り、建物の修繕費が払えていないだけだぁぁぁッ!]
『え、ええぇぇぇッ!?』
あまりの猛烈な勢いに圧倒され、アリーシャは口をぐうの音も出せなくされる。
【これこれ! 落ち着けシェルウェイ!】
ドスドスと重い足音と共に現れたギルド長スタントンが、暴走する男の首ねっこをヒョイと掴んで引っ張り戻した。
【すまんな新人ども。こいつは我がギルドの副ギルド長、シェルウェイだ。最近ウチの財政難のせいで少々心が病んでいてな。『貧乏』という言葉に過剰反応してしまうんだよ】
「……ギルド長、誰もギルドの話なんてしてないわよ。彼女が『器用貧乏』って言っただけ」
アカツキが心底呆れたように冷ややかな視線を送ると、シェルウェイはハッと我に返り、ズレた眼鏡をクッと指で押し上げた。
[……コホン。な、なんだ、個人の自己評価か……。紛らわしいことを言うんじゃない。……って、全属性の中位魔法に回復!? なんだその優秀な人材は! 冒険者ギルドに奪われる前に早く初ミッションへ! 稼いできてください!!]
【ガハハハハ! 相変わらず現金な奴だ! だがシェルウェイの言う通りだ、お前ら新人三人組の初仕事を用意してあるぞ!】
「初仕事ッ! 燃えてきたぞッ!」
テンション高く叫ぶジェイ・ジェイと、ガハハと豪快に笑うスタントンを見比べていたアリーシャは、ふと疑問に思ったことを口にした。
『ねえ……ずっと気になってたんだけど、ギルド長とジェイ・ジェイって、声のデカさといい脳筋なノリといい……完全にキャラ被りしてない?』
「……確かに。うっとうしい声のボリュームも瓜二つね」
アカツキも同意するように頷く。すると、スタントンとジェイ・ジェイは顔を見合わせ、同時にドカンと自分の胸を叩いた。
【ガハハハ! 気づいたか! 当たり前だ、こいつは俺の息子だからなッ!!】
「そうだッ! 俺はスタントンの実の息子、ジェイ・ジェイ・クロー・スタントンだッ!」
『えぇぇぇッ!? 息子!?』
まさかの血縁関係の発覚に、アリーシャは目を丸くして驚愕した。
[ふん、親バカなギルド長が実の息子に厳しく接するフリをして、密かに見習いライセンスをねじ込んだ……というワケではないのが救いだがな。なんせ受験生が三人しかいなかったのだから]
副ギルド長シェルウェイの悲痛な補足が入る中、アリーシャは(このギルド、色んな意味で大丈夫かな……)と一抹の不安を覚えるのであった。




