はじめての仲間!?
ルーンバリー城下町の一角にそびえ立つ、重厚な石造りの建物──トレジャーギルド本部。
『ふぅー……吸ってぇ、吐いてぇ……』
アリーシャは胸の前で両手をギュッと握り締め、何度も深呼吸を繰り返していた。
今日はついに迎えた、15歳以上が受けられるトレジャーハンター選抜試験の日。
身なりを整え、愛用の弓と皮の胸当てを装着したアリーシャの心臓は、破裂しそうなほど早鐘を打っていた。
『絶対合格して、いっぱい換金するんだから……!』
父ブラッドの「行ってらっしゃい」という言葉を胸に、意を決して大扉を押し開ける。
ギィィィ……と重い音を立てて開いたのは、数百人は余裕で収容できそうな広大なホール。
緊張のあまり固まりながら中へ一歩踏み出したアリーシャだったが──
『……え?』
ホールの中央にポツンと置かれた長机。
そこに座っていたのは、たったのふたり。
ひとり目は、はちきれんばかりの上半身に晒しを巻き、巨大な丸太のような腕を組んで目を閉じているゴリゴリマッチョのモンク系熱血漢。
もうひとり目は、黒いフードを深めにかぶり、ショートソードの柄に手をかけたまま鋭い眼光で静かに気配を消している盗賊風のクール系美少女。
そして、後から入ってきたアリーシャ。
……以上。
『え……? 受験生……これだけ……!?』
あまりの静けさと人口密度の低さに、アリーシャは拍子抜けしてポカンと口を開けてしまった。
【ガハハハハ! おいおい、今年もまた一段と寂しい人数だな!!】
ホール奥の扉からドタバタと大きな足音を立てて現れたのは、あの髭モジャのギルドの主・スタントンだった。相変わらずの爆音ボイスが空々しくホールに響き渡る。
「おい、オヤジぃぃぃッ!」
静寂を破り、モンク系の熱血男がドカンと机を叩いて立ち上がった。分厚い大胸筋がプルンと揺れる。
「どういうことだッ! 国一番の狭き門と聞いて、俺は滝に打たれ熊と拳を交えてトレーニングしてきたんだぞッ! なぜ受験生がたったの3人しかいないんだッ! 熱さが足りんぞッ!!」
「……うるさい。声が大きい」
熱血男の隣で、フードをかぶったショートソードの少女がボソッと冷ややかに呟いた。
「トレジャーギルドは危険の割に不人気……受検者が少ないのは最初から分かっていたこと。……だから私はここを選んだの」
アリーシャが尋ねると、スタントンは苦笑いを浮かべながら説明した。
【昔はな、一獲千金を狙う命知らずがゴロゴロ集まってきたもんだ。だが今じゃあサッパリだ。なんせ今は……『冒険者ギルド』と『商人ギルド』の天下だからな】
【冒険者ギルドに行けば魔物退治の安定した『固定給』と『保険』が出る。商人ギルドに入れば命を危険に晒さなくても『確実な儲け』が出る。翻って我がトレジャーギルドは、未開の地で命を張り、苦労して宝を持ち帰っても……宝が見つからなきゃ報酬ゼロ! 今時の若い奴らが選ぶわけねぇだろ!】
『え……じゃあ、試験は……?』
アリーシャが尋ねると、スタントンは豪快に自分の頭をバシバシ叩きながら言った。
【まあ! そういうわけでだ! 本来ならここからガッツリ振り落とす予定だったんだが……今年度の選抜試験は、全員『フリーパス(無条件合格)』とする!!】
『……え???』
[な……なんだとおぉぉぉぉッ!? フリーパスだぁぁぁッ!?]
熱血モンクが頭を抱えて絶叫する。
[ふざけるなッ! 俺の血と汗と涙の拳の修行はどうなるッ! 試験で己の限界を試したかったのだぞッ!!]
「……ふん。無駄な体力を使わずに済んで好都合」
盗賊風の美少女は冷ややかにショートソードの柄から手を離すと、フッと鼻で笑った。
「落ちようがない試験なら、これ以上ここにいる意味もない。ライセンスをくれればすぐにでも稼ぎに行く」
『あ、あの……私、15歳になるまでずっと修行してきたから、ちょっと拍子抜けかも……』
熱血男は憤慨し、クール少女はクールに受け入れ、アリーシャはガックリ肩を落とす。見事にバラバラな3人の反応。
“まったく……情けない話だね”
奥から現れたペンネが呆れ顔で投げやりな拍手を送る。
“まあ、試験をやるだけ時間と予算の無駄さ。あんたたち3人は今日からめでたく『トレジャーハンターの見習い』だよ。おめでとう”
スタントンから投げ渡されたのは、3人分の『見習いハンター証』。
【試験はフリーパスだがな……トレジャーハンターの現場は甘くねぇぞ? 宝が取れなきゃメシも食えねぇ、正真正銘の自己責任の世界だ。覚悟して現場へ飛び込みな!】
熱血拳闘士、冷徹な盗賊、そしてちゃっかり弓使い(アリーシャ)。
性格も戦い方も全く噛み合わない異色すぎる新人3人パーティの、理不尽で過酷な「トレジャーハンター生活」が、こうしてあっけなく幕を開けるのであった──。




