はじめての仕事7
静寂を取り戻した洞窟の最下層。
巨大な壁にめり込み、完全に目を回して倒れるグラスラバットを見届け、ジェイ・ジェイはその場にドサリと膝をついた。
「はぁ……はぁ……! やって、やったぜ……ッ!」
「ジェイ・ジェイッ! あんた、なんで急に動けたのよ!? 骨が砕けて起き上がるのも無理だったはずでしょ!?」
身体を引きずるように歩み寄ってきたアカツキが、信じられないといった様子で叫ぶ。
すると、ジェイ・ジェイはニッと口角を上げて、隣にいるアリーシャを指さした。
「ハッ、種明かしをすれば簡単な話さ! アリーシャの奴、空中で攻撃を受ける直前に、親父さんからもらった回復薬を《バブルウォーター》の泡の中にそっと混ぜておいたんだよ!」
「……えっ!? 泡の中に回復薬を……!?」
「おうよ! 敵の足元を水で滑らせると同時に、破裂した泡の薬成分を俺に浴びせて、一瞬で動けるように治してくれたってワケだ! だから俺も土壇場で動けたんだ!」
『ふふん、ジェイ・ジェイちゃん大正解! よく気づいてくれたね!』
えっへん!と胸を張るアリーシャと、得意気に笑うジェイ・ジェイ。
二人のやり取りを聞いたアカツキは、息を飲んで言葉を失った。
(攻撃を受けながら、瞬時に自分の水魔法に薬を混ぜて味方を回復させ、さらに敵の足場を奪う伏線まで張るなんて……一瞬でそこまでの戦略を立てるなんて、恐ろしい戦闘勘ね……)
アリーシャの底知れない策士ぶりに、アカツキとジェイ・ジェイは心から感服せざるを得なかった。
だが──アカツキはゆっくりと視線をジェイ・ジェイへと戻す。
「……それにしても、ジェイ・ジェイ。あんたのパワーも本物ね」
「あ……? 急にどうしたんだよ」
「アリーシャの魔法は中位とはいえ、規格外の威力だったわ。それを簡単にバットで打ち払うような化け物を、一撃で粉砕するなんて……認めたくはないけれど、あんたの拳の破壊力は並じゃないわ」
素直に感心して自分の実力を認めてくれたアカツキの言葉に、ジェイ・ジェイは照れくさそうに鼻の下をかいた。
「へっ……当たり前だろ! 俺はいつだって本気なんだよ!」
「ふふ、まあ調子に乗られたら困るから、二度と言ってあげないけどね」
フッと柔らかく笑うアカツキ。そんな二人を見て、アリーシャも嬉しそうにニッコリと微笑んだ。
「さて……この撃破したモンスター、どうするの?」
アカツキが倒れたグラスラバットの巨体を見上げる。
「フクロフクロウと違って、こんなコウモリの異形、見たことも聞いたこともないわね……」
『うん、図鑑にも載ってない新種のモンスターかも! ギルドに持ち帰れば、調査の報酬もたくさんもらえるんじゃないかな!』
「よしッ! ならば俺が担いで持っていってやる! 成果の証明だなッ!」
こうして三人はグラスラバットの亡骸を確保し、崩落した穴をアリーシャの土魔法で足場を作りながら、ゆっくりと地上を目指して洞窟を上っていった。
朝の光が差し込む『はじまりの洞窟』の入口へと辿り着いた時のこと。
『……あっ!?』
アリーシャが突然、絶望したような顔で固まった。
「どうしたの、アリーシャ?」
『ふ、フクロフクロウの袋……! 洞窟の中に置いてきちゃったぁぁぁッ!!』
すっかり忘れていたお宝(兼リュック)の存在を思い出し、頭を抱えて叫ぶアリーシャ。
「……はあ。今からあの崩落した洞窟に戻るなんて無理よ」
呆れ顔でため息をつくアカツキだったが、少し考えるような仕草をした後、アリーシャの頭をポンポンと優しく叩いた。
「まあ……今回の依頼で一番体を張ったのはあんたのおかげだし、あの作戦が見事だったお礼。町に戻ったら、私があの袋より軽くて良いリュックを買ってあげるわ」
『えっ……!? 本当に!? アカツキちゃん大好きーーーっ!』
「ちょっと、抱きつかないでってば!」
「おっ、太っ腹だなアカツキ! なら俺の分も──」
「あんたは自力で買いなさい、脳筋」
「なんでだよッ!?」
笑い合いながら、爽やかな帰路につく三人であった。




