はじめての仕事6
『……おい。お前、何をやっているのだ?』
地べたを這い回り、必死に『フクロフクロウの袋』を探しているアリーシャへ、グラスラバットが困惑気味に声をかけた。
だが──アリーシャには全く届かない。
『あ〜、やっぱりあの落盤の時に落としちゃったのかなぁ……』
『おいッ! 聞いているのか人間ッ!?』
さらにデカい大声で咆哮するグラスラバット。
『ひゃんッ!?』
あまりの音量に肩を跳ね上げ、ようやくパッと振り向くアリーシャ。そこで初めて、血だらけで壁際に倒れているジェイ・ジェイとアカツキの姿が視界に入った。
『えっ……!? ジ、ジェイ・ジェイ!? アカツキちゃん!? なんでそんなボロボロになってるの!?』
「「……(あんたが袋探してる間にやられたんだよ……!!)」」
『……(お前の仲間の危機すら気づかないのかコイツは……)』
思わず心が一つになり、呆れ果てた眼差しを向ける二人と一匹。
だが次の瞬間、アリーシャの雰囲気がガラリと変わった。怒りで眉を釣り上げ、グラスラバットをキッと睨みつける!
『二人をこんな目にあわせるなんて……許さないんだからッ!』
アリーシャが右手を取り回すと、空間に巨大な魔力陣が浮かび上がった。
『土中位魔法──《ストーンボール》ッ!』
ドガガガガガガッ!!!
岩石の砲弾がマシンガンのごとき連射でグラスラバットへ叩き込まれる!
しかし、グラスラバットは『フンッ!』と黒いバットを高速で振り抜き、迫り来る岩石をことごとくジャストミートで粉砕!
『甘い甘い! この程度の遠距離魔法、俺のバットの前には──』
『まだ終わってないよ!』
アリーシャが間髪入れずに指を立てる。
グラスラバットは即座に口を大きく開け、洞窟全体を揺るがす強烈な超音波攻撃を解き放った!
ズワァァァンッッ!!!
だが──アリーシャは焦ることなく、風魔法を口元に収束させ、同じ高周波の音波を解き放つ。
キィィィィィンッ……!!
相反する二つの音波が空中で衝突し、打ち消し合って一瞬で相殺された。
『なにっ……!? 俺の超音波に音波で波長を合わせて打ち消しただと……!?』
グラスラバットは冷や汗を流し、アリーシャの恐ろしいまでの戦闘センスに戦慄した。
『遠距離では拉致が明かん……! ならば近接で決めるッ!』
ドォンッ!と爆音を立てて地を蹴り、グラスラバットが一瞬でアリーシャの死角──背後へと回り込む!
『もらったぞッ!』
振り下ろされるバット!
だが、アリーシャは後ろを振り返りもせず、背後へ絶妙なタイミングで土の壁を出現させた!
バギャァァァンッ!!
『チッ、こんな壁ぇッ!』
構わず土の壁を粉砕するグラスラバット。
しかし──崩れ去る壁の向こうに、アリーシャの姿は無かった。
『何ッ!? どこへ行った──』
『上だよッ!』
アリーシャは咄嗟の判断で、壁を生成した瞬間に上方へ跳躍していたのだ。
『キキャッ! 空中で回避したか! だが……翼を持つ俺に空中戦で挑むとは愚かなッ!』
グラスラバットが翼を羽ばたかせ、跳躍したアリーシャを即座に追撃!
空中では足場がなく、回避行動が取れない。グラスラバットに絶対的なアドバンテージがあった。
迫り来る死神を前に、アリーシャは上空から下方向に向かって魔法を放つ。
『水下位魔法──《バブルウォーター》ッ!』
バシャシャシャッ!
大量の水と泡が勢いよく地面へ射出されるが──グラスラバットは羽ばたき一つで難なく回避。
『無駄だ無駄ぁッ!』
ガキィィィンッッ!!!
『きゃあッ!?』
空中での回避手段を失っていたアリーシャは、グラスラバットの痛烈な一撃をまともに受け、地面へと叩きつけられてしまった。
ドスンと着地し、膝をつくアリーシャ。
追撃のためにゆっくりと舞い降りてくるグラスラバット。
『ハハハ! 終わりだ人間ども!』
万事休す──誰もがそう思った、その時だった。
「おおおぉぉぉぉぉッッ!!!」
地獄の底からのような雄叫びと共に、戦闘不能だったはずのジェイ・ジェイが、ボロボロの身体を奮い立たせて一気に距離を詰めてきたのだ!
『何ッ!? まだ動けるのかッ!?』
グラスラバットは咄嗟に反応し、翼を羽ばたかせてジェイ・ジェイの間合いから逃れようとする。
──だが!
ズルッッ!!!
『なっ……なにぃッ!??』
グラスラバットの足元が、猛烈な勢いで滑った!
先ほどアリーシャが下方向にぶちまけた《バブルウォーター》の水と泡が足場をぬめらせ、地面に降り立ったグラスラバットの足元を完璧に奪ったのだ!
体制を崩し、宙に浮くことも逃げることもできなくなったグラスラバット。
その目の前に、全身の魔力を右拳に極限まで練り上げたジェイ・ジェイが肉薄する!
「アリーシャが作ってくれたこのチャンス……逃すかよッ!」
血まみれの顔でニカッと不敵に笑うジェイ・ジェイ!
砕けた右手など気にも留めず、回転の遠心力と魔力を全て注ぎ込んだ一撃が破裂する!
「──**刃破波拳**ッッ!!!」
ドゴォォォォォォンッッッ!!!
衝撃波が洞窟の天井を突き破らんばかりに炸裂!
直撃を受けたグラスラバットは「グバァァッ!?」と悲鳴を上げ、壁の深くまでめり込み、そのまま目を見開いた状態で白目を剥いて戦闘不能となったのだった。




