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第18回

 少し涼しい風を感じるような…でも、まだ服装は半袖シャツの10月。僕はついに商業簿記と工業簿記のテキストを網羅することが出来た。模擬問題集をいつものように中古で買い、テキストの問題を解いていると違和感があった。

(あれ……この問題どうやって解くのだったっけ……。忘れている。)

気を取り直して、次の問題に取り掛かった。

(おい……この問題も分からない……。終わった。すべて忘れてしまっている。)

そう。工業簿記のテキストを進めているうちに商業簿記の内容が頭から抜けていた。

僕は完全に絶望して涙目になった。


ふと、スマホを取り出し、現実逃避するように開いたのは千歳川36の宮瀬みずきのブログだった。最近はめっきり白石ひなよりも宮瀬みずきに夢中になってしまっていたのである。今年の夏は簿記と宮瀬みずきのことしか考えられないくらい熱中していた。

 (10月14日午後7時に生配信するので見にきてね。)

 という一文にハートマークがついていた。さっきの涙目の挫折は忘れられないけど、ヲタク活動用の手帳に「宮瀬みずき生配信」と書いた。


 10月14日。配信10分前にトイレを済ませ、僕は生配信のために高鳴る鼓動を感じつつ、パソコンを前に待機した。千歳川36は1か月に二度くらいのペースで生配信を運営公式で各メンバー一人ずつ行っている。

 「はい!音声大丈夫ですかー?聞こえているかなー?」

 配信が始まり、宮瀬みずきの甘い声が鼓膜を揺らせる。

 「今日も生配信始めます。千歳川36の宮瀬みずきです!コメント来ているかな…。」

 ついに楽しみにしていた生配信が始まった。僕は一心不乱に応援コメントを送る。

 「はい、くまぱんさん、ありがとうございます。この間、握手会来てくださいましたよね。覚えていますよー。くまのTシャツ可愛かったです。」

 宮瀬みずきはコメントを拾い読み始める。主にファンからのコメントは応援するようなコメントか質問が多い。勿論、配信が進むごとに話題に沿った内容に合ったコメントがコメント欄を埋め尽くすこともある。

 僕もそれぞれの話題に対してコメントをするがなかなか拾われない。

 「はい、くまぱんさん。どんなコスメ使っているのですか?そうですね。…」

 (また、くまぱんかよ……てか、くまぱんって誰だよ。)

 僕のひねくれたブラックな一面が胸をかすめる。

 「くまぱんさん、ギフトありがとうございます!嬉しい!可愛いテディベアのギフトだ!」

 僕は当然、お金がないから無課金でコメントを必死に打つだけだ。

 一時間の配信は終始、“くまぱん”のペースで終わっていった。

 

後で調べるとこういうのを私信というらしい。私信というのは特定のファンに向けて当事者同士にしか分からないメッセージを送ることである。今日の出来事は私信とまでは言えないが贔屓だ…。僕の中のひねくれた感情がヲタクの活動にまで侵食してきている気がした。

 勿論、お金をかけてライブや握手会を追いかけてヲタク活動している人と無課金の在宅でヲタク活動している僕とでは差が出るのは当然と言えば当然だ。こんなところまで資本主義の波は押し寄せているのかと落ち込むばかりであった。

 (そういえば、白石ひなは最近、何をしているのだろう…。)

 白石ひなのSNSは当然、フォローをしているし投稿も流れてくるが、botのように握手会の案内やライブの告知しか流れてこなくなっていた。

 お読みいただきありがとうございます!

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