第19回
私は20期生の中では最年長だ。しかし、初めから最年長だったわけではない。
お披露目の直後、20期生の最年長だったメンバーは突然、活動辞退を発表したのだ。
オーディションからお披露目までのレッスンで一緒に駆け抜け、絆が生まれていた矢先の彼女からの突然の活動辞退の報告には一同、唖然とした。その時ばかりは20期生メンバー、全員で泣いて、泣いて、沢山抱き合って泣いた。
そして、私は繰り上げで最年長メンバーとなった。20期生にリーダーやキャプテンという肩書はないが、不文律の最年長の“長女”として、20期生を時には厳しく叱咤し、落ち込んでいるメンバーには激励した。その上で、決して遊ぶ暇のないキャンパスライフとAYB32での活動、レッスンやライブ、劇場公演、そして、他の子が抜けた穴を埋めるための他ポジションの振り入れも徹底してきたつもりだった。それなのに…。
20期生からの3人選抜入りはそんな妹たちに追い抜かれた気がした。そのくらいのショックを受けた。
その日のレッスンの後、レッスン場から母親に電話をかけた。
「お母さん…今回も選抜に入れなかった。ごめん。」
「ひなが謝ることじゃないのよ。」
母の励ましと声で涙腺が崩壊した。
「ひなが頑張っていることはみんな知っているし、誰よりも私はひなのファンだから。」
「ありがと…。」
父と母は加入当初こそは反対していたが、今ではいちばんのファンだ。
家には溢れるほどの白石ひなグッズがひしめき合っている。
兄は表向き「同期の山村碧推し」と言って、握手会やライブに参加しているが、本当は両親に次いで私を心配し、応援してくれていることを知っている。
そんな家族の期待に応えられなかったことが悔しかった。
電話を切るとある先輩から声をかけられた。
「ひなちゃん、お疲れ様!大丈夫だからね…。」
泣いている私を見かねてぎゅっと抱きしめてくれた。
その先輩は高坂春奈。AYB32の9期生で11年上の大先輩だ。今でこそ選抜常連メンバーだが、加入当初の彼女は今のような華やかさはなかった。同期の中でも立ち位置はいつも左の端。そのポジションから「ヒダリー」なんて皮肉を込めたニックネームを付けられていたほどだ。
そんな彼女を今の選抜メンバーに変えたのは「劇場の女神」と呼ばれる異名だ。それは、AYB32史上最多となる1300回以上の劇場公演に出演し、シングルの選抜よりもファンとの距離が近い劇場でのパフォーマンスを何よりも大切にする姿勢を貫いたからだ。
「ひなちゃん、この後、ご飯行く?美味しい中華料理屋さん見つけて!」
私は高坂春奈のことがAYB32に加入してからもっと好きになったし、尊敬していた。
「行きます…。」
私は涙声で答えた。
中華料理店はレッスン場から少し歩いたが、家の方向だったので苦にならなかった。
それ以上に高坂春奈は明るく、今日の選抜発表の話を一切せずに私生活のことや大学生活の質問をしてくれた。
ほどなく中華料理店でチャーハンとラーメンを頼んだ。
「ひなちゃん、沢山頼むねー!」
笑いながら高坂春奈は答えるとチャーハンと麻婆豆腐を頼んだ。
私は先輩に励まされたり、気を使わせているのではないかと内心びくびくしていたが、彼女からAYB32の活動のことは話題にならなかった。
「沢山食べれた?元気出て良かった。」
私は普段、ダイエットのために節制しているが、今日だけはチートデイだと思い、完食した。
「じゃあ、店出よっか。」
「あ、お会計…割り勘でいいですか?」
私は店員と高坂春奈に伝えた。
「会計はもう頂いておりますので…。」
店員さんの言葉にびっくりした。私がお手洗いに行っている間に、会計を済ませてくれていたのだ。
「春奈さん、ありがとうございます。ご馳走様でした!」
私は深々と頭を下げた。すると、高坂春奈は言った。
「ひなちゃん、ステージとチャンスは、平等だからね。じゃあ、おやすみ。」
私はその言葉の意味をすぐには理解出来なかった。
「……はい!今日はありがとうございました。おやすみなさい。」
そう言って別れ、私は夜風が吹く帰途についた。
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