第4話 水はどれだけある
旅人が来るようになってから、一つ気になっていることがある。
「水、足りるのかな」
今までは、私一人と小さな畑だけだった。それが今は、旅人が飲む。商人が水袋へ詰める。食事を作る量も少し増えた。湧水は今日も変わらず流れている。でも、無限ではない。私は湧き口の近くへしゃがんだ。
「《土地鑑定》」
《地下水脈:あり》
《湧水量:安定》
《現在流量:小》
《過剰取水時低下可能性:あり》
「お」
前より情報が増えている。使い続けているからなのか。それとも、私自身が水量を気にするようになったからなのか。そこは分からない。
「過剰取水時低下可能性……」
やっぱり。取りすぎれば駄目。問題は、どれくらいが取りすぎなのか。
「そこまでは出ないんだ」
《土地鑑定》は便利だ。
でも、全部を教えてくれるわけじゃない。なら、試す。
◇
朝。まず、いつもの大きな水瓶を満たす。畑用。次に、小型の器へ何度か水を汲む。一杯。二杯。三杯。
最近覚えた数字を頭の中で数えながら、湧き口の水面を見る。
「……下がった」
ほんの少し。でも、分かる。そこで汲むのを止めて待つ。時計はないから、岩の影が少し動くまで。もう一度見る。
「戻ってる」
思ったより早い。つまり、ずっと少量ずつ使うなら問題は起きにくい。でも、短時間で大量に取れば、一時的に水位は下がる。
「一気に取らない」
少なくとも。今分かるのはそれ。
◇
次にガランさんが来た時。
「水袋四つ、入れていいか?」
「一気には駄目です」
「何で?」
「湧水、取りすぎると水位下がるので」
「そりゃそうだ」
「知ってた?」
「普通はな」
「私は今知りました」
ガランさんが笑う。
「じゃあ先に二つ。飯食ってる間に戻ったら残り二つ」
「それでお願いします」
こうして使う側も分かっていれば、無理に禁止しなくてもいい。問題は。人が増えるたび、毎回これを説明するのが面倒なこと。
「貯めておけばいいのかな」
湧水から少しずつ汲んでおいて、来客時はそこから使う。そうすれば、一度に湧き口へ負担をかけずに済む。
◇
農業用には古い貯水槽がある。でも、底には土が残っているし、古い石組みだ。飲用には使いたくない。
「飲む水用の水瓶……もう一個」
今ある大きな水瓶は畑の近くに置いたまま。満杯にすると動かせない。なら、来客小屋の近くへ、中型の水瓶を作る。大きすぎないもの。空なら、一人で少し動かせるくらい。
◇
粘土を運び、練る。底を作り、少しずつ壁を立ち上げる。一個目。乾燥途中で、側面へ細いひびが入った。
「……やった」
前なら、そのまま何とか焼こうとしたかもしれない。でも、大きい器でそれをやって、一度失敗している。崩す。粘土へ戻す。
「次」
二個目は厚さをなるべく揃える。急がない。数日かけて乾燥。それから、火の近くで少しずつ温める。いきなり強火へ入れない。
「お願いだから割れないで」
もはや祈り。
◇
翌朝。
「……生きた」
割れていない。水を入れる。しばらく待つ。表面へ、ほんの少し水が滲む。
「いつもの」
低温で焼いた粘土器。完全ではない。でも、使える。来客用水瓶。完成。
◇
使い方も少し決めた。朝、畑を見るついでに半分くらいまで入れる。昼に減っていれば追加する。旅人が来なければ、その水は夕方の調理や畑へ回す。蓋はないから、葉と布で口を覆う。
「木の蓋欲しいな」
また次の不足。でも、以前なら、欲しいものが増えるのは困るだけだった。今は違う。次に買う。そのために何を売るか考える。水瓶一つ増やしただけで。
また次の改善が見える。開拓地は、便利になれば完成する場所じゃない。便利になったからこそ、次の不便が見える場所だった。
◇
新しい水瓶の横には、簡単な札も立てた。
《飲み水》
アルドさんに教わったばかりの文字。最初は少し曲がったが、意味は通じる。旅人が農業用の貯水槽から飲もうとしたら困る。水が二種類になったことで、区別まで必要になった。
「増やすと、説明も増える」
でも、札があれば私が毎回説明しなくていい。水瓶。文字。管理。それぞれ別の改善だったものが、組み合わさる。その日の夕方、初めて来た旅人が札を見て、迷わず水瓶へ向かった。
「お」
ちゃんと伝わってる。私は少し離れた場所から、それを見ていた。自分がいなくても設備が使える。それ。人が来る場所には、かなり大事なのかもしれない。




