第5話 畑を増やす
旅人が来る。食事を出す。商人が来る。食事を出す。そして、当然ながら私も食べる。
「……減るの早くない?」
物置に置いた土芋を見て、少し不安になった。第一畑は一度収穫できた。野豆も少しずつ増えている。それでも、人が来る前より食料の減りが早い。
「畑、増やそう」
今は鉄鍬がある。前より早く作れる。なら、第三畑。
◇
場所は第一畑と第二畑の隣。
「《土地鑑定》」
《植物生育適性:中》
《降雨時浸水危険:低》
《地盤:通常》
大きな問題はなさそう。
「よし」
鉄鍬を振る。ざく。土へ入る。
「やっぱり楽」
何度使っても思う。石の尖った道具で地面を叩いていた頃には戻れない。固いところは無理をしない。石が出たら手で拾う。何度も往復しながら、少しずつ畑の形を作る。
◇
植えるのは、前回の収穫で残しておいた土芋。全部同じ深さにはしない。二つは少し浅め。二つは少し深め。
「比べる」
農業の専門知識はない。なら、条件を少し変えて、結果を見る。今まで何度もやってきた方法だ。野豆は、前回浅く植えたものの方がよく芽を出した。だから今回は浅めを中心にする。ただし、一部だけは少し深く。
「何が正解かは、まだ分からないし」
前回と今で天気も違う。全部を一つの答えに賭けるのは怖い。
◇
畑が増えれば、水路も必要になる。第三畑まで浅い溝を延ばす。全部へ石を敷くのは無理。だから、水が染み込みやすい場所だけ平たい石と粘土で補強する。
「畑一枚増やすだけじゃ終わらないんだよね」
畑。水路。柵。草取り。仕事がまとめて増える。便利になれば楽になる。それは本当。
でも、豊かになれば管理するものも増える。
◇
数日後。第三畑が形になった。第一。第二。第三。三枚並ぶ。少し離れて見ると、前より明らかに緑が増えている。
「荒野じゃないみたい」
いや。周りは完全に荒野だけど。ここだけ。少し違う。
◇
畑が増えたことで、朝の見回りにも順番を作った。最初に水路。次に土芋。野豆。新しい畑。最後に柵。
「一、二、三」
最近覚えた数字まで使う。小さな板切れへ数字を書き、畑の隅へ立ててみた。
「第一畑、第二畑……」
畑の字。知らない。
「次にアルドさん来たら聞こう」
管理するものが増えると、文字を覚える理由まで増える。水路と畑と看板。全部別のことに見えて、生活の中では繋がっている。
◇
夕方。道標を見て来た旅人二人へ、土芋と野豆の煮込みを出した。
「これ、ここで作ってる?」
「はい」
「荒野で?」
「はい」
相変わらず驚かれる。でも、以前より少し誇らしい。自分が食べるために始めた畑。今では知らない人の腹も満たしている。
「もっと増やそう」
ただし。無理はしない。鉄鍬で楽になった分、つい作業を続けすぎて腕が重くなっている。
「休むのも仕事」
水を飲み、家の壁の日陰へ座る。倒れたら全部止まる。水。食料。薪。時間。体力。
どれも使い切らない。少しずつ安定させる。それも開拓だった。
◇
第三畑を作ってから、食料の使い方も少し変えた。来客へ出す量。自分が食べる量。種として残す量。今までは「ある分を食べる」が基本だった。でも、それでは増えない。
「ここは食べる分。こっちは植える分」
物置の籠を二つに分ける。間違えて全部食べたら笑えない。さらに、少し形の悪い土芋も別にした。
「これは先に食べる」
保存状態の悪そうなものから使う。正しいかは分からない。でも、傷んでから捨てるよりはいい。畑が増えると。収穫だけではなく。保管。種。
消費。全部を考えなければいけない。
「農業、思ったより仕事多い」
ただ土へ植えれば終わり。ではなかった。それでも、畑へ並ぶ緑を見ると。増やしてよかったと思える。今日の食事だけではなく。何日も先の食事が、地面の中で育っている。
その安心感は、野生の食料を探していた頃にはなかった。




