エピローグ 道ができる場所
夕方。
荒野は静かだった。
アルドさんとガランさんが出発してから半日。
来客小屋は空。
寝台二つ。
昨日までは人が使っていた。
「……静か」
前なら、これが普通だった。
今は少しだけ静かすぎる。
でも。
また来る。
それを知っている。
◇
物置へ入る。
毛皮。
角。
土芋。
塩。
糸。
布。
町から来たものと。
ここで作ったもの。
一緒に並んでいる。
「混ざってる」
面白い。
最初。
荒野。
ここにあるもの。
だけ。
全部。
それ。
今。
ベルクの物。
ある。
外から。
持ち込まれた。
生活。
少し。
広がった。
◇
畑。
鉄鍬を持つ。
ざくっ。
「楽」
未だに毎回思う。
最初は尖った石だった。
今は、外の世界から来た鉄の道具がある。
でも、ただもらったわけじゃない。
自分で捕った。
育てた。
売った。
買った。
水路の横を歩く。
その先。
荒野へ残る轍。
私はしゃがみ、指で土を触った。
「私が歩いた跡じゃない」
誰かが。
ここへ来るために通った跡。
◇
転移した日のことを思い出す。
家もない。
水も見えない。
食べ物もない。
まず水を探した。
そこから。
火。
食料。
畑。
家。
水路。
貯水槽。
一つずつ。
自分が生きるために増やした。
そこへ人が来た。
町を知った。
お金を知った。
売ることを知った。
買うことを知った。
場所に名前がついた。
「変わったなあ」
家。
物置。
来客小屋。
三つ。
住人はまだ私一人。
「まだ、ね」
言ってから止まる。
まだ。
ということは。
いつか増えると思っているみたいだ。
「どうだろ」
笑う。
分からない。
でも。
人が泊まる場所はある。
水もある。
食べ物も少しある。
道しるべもある。
ここへ来る理由が生まれた。
◇
風が吹く。
遠くの目印に結んだ布が揺れる。
道は、最初からあるものじゃない。
誰かが何度も同じ場所を通る。
土が固まる。
跡が残る。
やがて道になる。
たぶん。
この開拓地も同じだ。
私一人から始まった。
一人来た。
また一人来た。
「次は誰だろう」
商人。
旅人。
それとも。
もっと別の誰か。
「……楽しみ」
少し怖い。
でも、楽しみ。
明日も畑を見る。
水路を直す。
罠を確認する。
いつもの生活は続く。
でも。
その向こうには、もう外の世界がある。
泉の開拓地から外へ。
外から泉の開拓地へ。
まだ名前もない道が。
少しずつ。
生まれ始めていた。
◇
日が沈む前。
私は。
街道側の一番近い道標まで歩いた。
布。
風。
揺れる。
石積み。
立ってる。
向こう。
まだ見えない。
ベルク。
「遠い」
でも。
知ってる。
そこにある。
前。
世界。
どこまで。
ある。
分からなかった。
今。
少なくとも。
この道の先。
町。
ある。
知ってる人。
いる。
戻る。
家。
方向。
分かる。
「両方、知ってる」
それ。
大きい。
荒野。
一人。
閉じた。
場所。
じゃない。
外。
道。
ある。
まだ。
轍。
だけ。
でも。
繋がってる。
私は。
道標の布を。
少し結び直し。
泉の開拓地へ。
ゆっくり歩いて戻った。
◇
家へ戻る前。
私は。
来客小屋の前へ。
石を一つ。
置いた。
意味。
ない。
ただ。
最初。
自分の探索。
目印。
石。
だった。
今。
人。
来る場所。
目印。
増えた。
「ここから」
また。
何か。
増える。
たぶん。
家。
かもしれない。
畑。
かもしれない。
人。
かもしれない。
分からない。
でも。
何もなかった。
から。
何か。
ある。
へ。
進む。
それ。
この場所。
ずっと。
同じ。
私は。
新しく置いた石を見て。
少しだけ笑った。




