第24話 泉の開拓地
朝。
家を出る。
畑。
水路。
水瓶。
物置。
来客小屋。
少し離れた貯水槽。
「……増えたなあ」
最初は、本当に何もなかった。
今は建物が三つ。
「おはよう」
来客小屋からアルドさん。
「おはようございます」
続いてガランさん。
「水もらうぞ」
「どうぞ」
当たり前みたいに。
人が私の見つけた湧水を使う。
顔を洗う。
飲む。
「……不思議」
「何が?」
「私以外の人が使ってる」
「水場だろ」
「そうなんですけど」
◇
朝食。
三人。
土芋。
野豆。
角兎肉。
塩。
「前より料理らしい」
「最初は味なかったからな」
「言わないでください」
「でも食ったぞ」
「命かかってましたもんね」
笑い声。
荒野の中。
自分の独り言じゃない声。
「そろそろ戻る」
ガランさん。
「次、いつ来ます?」
「売るものあるか?」
「毛皮」
「なら来る」
「布、多めに」
「金があればな」
「頑張ります」
「乱獲するなよ」
「分かってます」
アルドさんも。
「次、字を少し教える」
「本当?」
「ああ」
「約束ですよ」
「簡単なのだけな」
「十分です」
◇
荷車へ水と食料を積む。
ガランさん。
湧水。
見る。
「ここ、もっと知られたら人来るぞ」
「そんなに?」
「水あるからな」
「でも何もないですよ」
「何もなくはない」
家。
畑。
食料。
泊まる場所。
「前は何もなかったんです」
「なら、もう違う」
その言葉。
少し。
胸に残る。
「じゃあな」
「気をつけて」
ごと。
ごとごと。
荷車が遠ざかる。
「また来る!」
「はい!」
見えなくなるまで手を振った。
◇
静かになる。
でも。
地面には轍が残っている。
一度。
二度。
三度。
同じ場所を通った跡。
「道……」
まだ道と呼ぶほどではない。
でも、線は前よりはっきりしている。
「泉の開拓地」
口にする。
役所で必要だからつけた名前。
今は少し似合っている気がした。
住人は私一人。
まだ村じゃない。
それでも。
人が来る。
物が来る。
情報が来る。
そしてまた帰っていく。
「次は誰が来るんだろう」
少し怖い。
でも。
それ以上に、少し楽しみだった。
何もない場所。
だった。
今は。
少なくとも。
誰かが目指して来る場所になった。
◇
二人が去ったあと。
私は。
朝。
使った器。
洗う。
寝台。
整える。
来客小屋。
空。
「また使う」
自然。
そう思う。
以前。
人。
来る。
想像。
してない。
今。
次の来客。
前提。
片付け。
してる。
「変わった」
家。
物置。
来客小屋。
役割。
違う。
畑。
水。
水路。
貯水槽。
道標。
全部。
繋がる。
生活。
だけ。
じゃない。
人。
受け入れる。
場所。
「泉の開拓地」
もう。
名前。
仮。
だけ。
じゃない。
自分。
少し。
そう思う。
次。
商人。
来る。
旅人。
来る。
分からない。
でも。
準備。
少し。
できた。
私は。
来客小屋の扉を閉め。
いつもの畑仕事へ戻った。
◇
夕方。
畑側から。
拠点。
見る。
三つ。
屋根。
水路。
細い。
線。
柵。
畑。
人。
いない。
でも。
「集落っぽい」
言う。
少し。
恥ずかしい。
一人。
しか。
住んでない。
でも。
見た目。
前。
と。
全然。
違う。
「ここまで来た」
終わり。
じゃない。
むしろ。
外。
繋がった。
から。
これから。
増える。
課題。
ある。
でも。
今日。
少しだけ。
今。
できたもの。
眺めても。
いい。
私は。
しばらく。
畑の端へ立ち。
泉の開拓地を。
眺めていた。
まだ胸を張って村とは呼べない。それでも、ここには水があり、食べ物があり、泊まる場所があり、外へ続く目印がある。最初の日の私が今の景色を見たら、たぶん信じない。そんなことを考えると、少し笑えてきた。




