第21話 道しるべ
「一つ問題がある」
朝。
ガランさんが言った。
「何です?」
「ここ、分からん」
「ありますけど」
「場所の話だ」
「あ」
「アルドがいなかったら辿り着けなかった」
確かに。
街道から泉の開拓地までは、道らしい道がない。
「目印がいるな」
「街道作ります?」
「無理」
「ですよね」
思い出したのは、探索を始めた頃。
迷わないよう石を積んだ。
「同じことすればいい」
街道まで全部きれいな道を作るのは無理。
でも、方向が分かればいい。
◇
大きめの石を集め、数個ずつ積む。
「これなら遠くから見える」
一ヶ所目。
二ヶ所目。
さらに。
枝を立て、その先へ布の切れ端を結ぶ。
「布もったいない……」
「使うために買ったんだろ」
「そうですけど」
風に揺れる。
「見える」
何日かかけ、街道側へ目印を増やす。
途中。
石積みが崩れた。
「あ」
「土台が小さい」
ガランさん。
「下を広く」
「こう?」
「そう」
組み直す。
「旅で目印作るんです?」
「荷車の道外れる時はな」
「なるほど」
また。
知らない方法。
増える。
◇
最後。
街道近く。
「板あるぞ」
ガランさんの荷から、小さな板。
「何書く?」
「泉」
「私、読めない」
「知ってる」
アルドさんが炭で文字を書く。
「これが泉?」
「そう」
形を覚える。
「曲がってる」
「俺の字に文句言うな」
「ごめんなさい」
看板を立てる。
ここから先に水場がある。
そう知らせる目印。
「これ、知らない人も来ますよね」
「そうなるな」
少し。
不安。
「嫌なら外せる」
「……置きます」
人が来る。
怖い。
でも。
外と繋がる。
そう決めた。
◇
帰り道。
荷車の轍を見る。
何度か同じ場所を通ったことで、薄い線が残っている。
「これ、道になる?」
「人が通ればな」
まだ道じゃない。
でも。
誰かが来るたび、少しずつ跡が残る。
自分で掘った水路とは違う。
人が通ることで生まれる道。
「面白い」
「何が?」
「私、作ってないのにできる」
「道はそういうもんだ」
自分一人で全部作る。
そう思っていた。
でも。
人が来るだけで。
場所は変わる。
その始まりを見ている気がした。
◇
道しるべを作った翌日。
風。
強い。
「……あ」
布。
一ヶ所。
取れてる。
「早い」
修理。
結び方。
弱い。
ガランさん。
教わった。
結び。
使う。
「これ」
今度。
取れにくい。
石積み。
別。
崩れ。
「道標も維持」
水路。
柵。
家。
全部。
作る。
終わり。
じゃない。
直す。
必要。
「増やすほど仕事増える」
でも。
減らしたい。
便利。
増やしたい。
「難しい」
私は。
布。
結び直す。
遠く。
見る。
一つ。
次。
また一つ。
街道。
まで。
目印。
続く。
「これなら」
初めて。
来る人。
迷いにくい。
自分以外。
使う。
設備。
初めて。
かもしれない。
少し。
誇らしい。
少し。
責任。
感じる。
泉の開拓地。
名前。
だけじゃなく。
本当に。
誰かの目的地。
なり始めていた。
◇
道標。
全部。
数えてみる。
一。
二。
三。
街道まで。
いくつ。
必要。
「思ったより多い」
距離。
ある。
一人。
来た時。
感じなかった。
毎日。
暮らす。
範囲。
小さい。
外と繋ぐ。
すると。
急に距離が見える。
「町、遠いんだな」
今さら。
実感。
でも。
目印。
一つずつ。
置けば。
遠い。
道。
繋がる。
それも。
開拓。
なのかもしれない。
目印が完成すると、街道から自分の家までが一本の流れとして頭の中に繋がった。今までは『遠くに町がある』だけだった。でも今は、町からここへ来る方法がある。その違いは、思っていたよりずっと大きかった。




