第20話 最初のお客さん
「毛皮は?」
「二枚」
「角は?」
「三本」
「土芋」
「少しあります」
物置の前。
ガランさんへ、売れそうなものを並べる。
妙に緊張する。
アルドさんとは取引した。
でも、知らない商人に自分の物を見てもらうのは初めてだ。
「こっちの毛皮、傷あり」
「はい」
「こっちは悪くない」
「やった」
「角も普通」
「普通」
「悪くないってことだ」
「なるほど」
値段の話。
町へ行ったおかげで、銅貨何枚という説明が少し分かるようになった。
「これで布と塩……」
「そのくらいなら」
取引を進めていると、ガランさんが言った。
「あと、水」
「はい?」
「飲ませてもらえるか」
「どうぞ」
「ただで?」
「え?」
「荒野だぞ」
私は湧水を見る。
「でも、ここだと普通にあります」
「ここにしかないから価値がある」
アルドさんも似たことを言っていた。
水そのものを売る。
少し違和感がある。
「飲む分はいいです」
「商売人には向かんな」
「よく言われます」
「誰に?」
「アルドさん」
「俺はそこまで言ってない」
◇
ガランさんがさらに聞く。
「飯は?」
「食事?」
「頼めるなら。払う」
「私の料理?」
「他に誰が作る」
急に不安になる。
「おいしくないかも」
「食えるならいい」
「塩あります」
「なら十分」
土芋。
野豆。
少しの角兎肉。
三人分。
煮込み。
塩。
「お待たせしました」
器が足りない。
アルドさんの持参した器も借りる。
「食器も増やさないとな……」
ガランさんが一口。
「悪くない」
「本当?」
「ああ」
「塩のおかげです」
「素材も悪くない」
嬉しい。
自分で育てた土芋。
捕った角兎。
見つけた水。
それを他人が食べて、お金を払う。
「店みたい」
「店じゃないのか?」
「違います!」
「今売ってるぞ」
「……」
確かに。
◇
取引が終わる。
貨幣。
布。
追加の塩。
小さな金属の留め具。
「家にいたまま買えた」
「商人が来たからな」
外の世界が。
今度は向こうから。
泉の開拓地へ来た。
「これ、次も?」
「売る物があるならな」
「じゃあ、毛皮と土芋増やします」
「無理に増やすな」
「はい」
アルドさん。
「まず食う分」
「分かってます」
何度も言われる。
でも。
たぶん。
大事。
◇
夕方。
ガランさんが荷車を整理する。
その横で私は、今日もらった布を触った。
「柔らかい」
「服にするならもっと要るぞ」
「ですよね」
「でも補修には使える」
少し。
少しずつ。
今までなかった物が増える。
その代わり。
自分の作ったものが外へ出ていく。
何もない場所で一人。
だった。
今。
小さな交換が始まった。
その変化が。
思っていたより嬉しかった。
◇
食事のあと。
器を洗う。
ガランさん。
言う。
「次来るなら、何用意しとけばいい?」
「私が?」
「お前が欲しい物」
「あ」
布。
塩。
針。
糸。
金属。
「多いです」
「優先順位」
また。
「布」
今度。
決める。
「着替え?」
「補修と、他にも使えそう」
「大きさ」
「分からない」
「なら金額決めろ」
「難しい」
「商売だからな」
アルドさん。
同じ。
言う。
「じゃあ」
私。
考える。
「今回の毛皮二枚くらいで買える量」
「それなら分かる」
「お願いします」
予約。
みたい。
「次」
ある。
前提。
話。
してる。
それ。
少し。
嬉しい。
「私も売るもの準備」
「無理するな」
「食べる分先」
「覚えてるならいい」
この日。
取引。
一回。
じゃない。
続く。
かもしれない。
そう。
初めて。
具体的に。
思えた。
◇
ガランさんたちが食べ終えたあと。
鍋。
ほとんど空。
「足りました?」
「十分」
「次、もっと作った方がいい?」
「人数次第」
そう。
今日。
三人。
次。
何人。
来る。
分からない。
食料。
増やす。
必要。
でも。
余らせる。
駄目。
「難しい」
「だから商売は見ながらやる」
ガランさん。
「最初から完璧に量決める奴はいない」
その言葉。
少し安心。
開拓と同じ。
やる。
失敗。
直す。
商売も。
そう。
思えば。
少し怖くなくなった。




