第19話 知らない荷車
畑で水の流れを見ていた時だった。
ごと。
ごとごと。
「……何?」
聞き慣れない音。
家の前へ出る。
南東。
一台の荷車。
人が二人。
「アルドさん?」
近づいてくる。
「アルドさん!」
「おう」
本当にアルドさん。
もう一人は知らない男の人。
「本当にあった……」
その人は、家、畑、水路を順番に見ながら言った。
「何がです?」
「荒野の開拓地」
「あります」
「悪い。話半分だった」
「だから言っただろ」
アルドさんが呆れる。
「紹介する。ガラン。同じ商人だ」
「どうも」
「こんにちは」
緊張する。
アルドさん以外の人が、自分の場所へ来たのは初めてだ。
「水、もらえるか?」
「あ、はい!」
湧水へ案内する。
ガランさんが飲む。
「……本当に湧いてる」
「だから言っただろ」
「ルグラの奥だぞ。普通は信じん」
「私も最初びっくりしました」
「見つけた本人が?」
「あ」
余計なことを言った。
「たまたまです」
「たまたまで湧水見つけるか?」
「詮索するな」
アルドさんが止める。
「秘密らしい」
「なるほど」
ガランさんは、それ以上聞かなかった。
◇
荷車を見る。
袋。
布。
金物。
乾燥食料。
「すごい」
「売り物だ。触るなよ」
「触りません」
「今日は取引しに来た」
「私と?」
「ああ」
驚く。
「アルドから聞いた。水、食料、毛皮」
「まだ少ししかないです」
「見て決める」
アルドさん以外の人が。
偶然ではなく。
私の場所を目指して来た。
「商人が来た……」
「見れば分かる」
「わざわざ」
「商売になるなら、どこでも行く」
その言葉。
胸が少し熱い。
◇
ガランさんは、取引の前に周囲を見たいと言った。
「家」
「はい」
「自作?」
「はい」
「物置」
「はい」
「畑」
「はい」
「水路」
「はい」
「貯水槽?」
「昔のものを直しました」
「……」
止まる。
「何?」
「お前、本当に一人で?」
「はい」
「変だな」
「また言われた」
最近、本当に多い。
「アルド」
「言っただろ」
ガランさんは貯水槽へ近づこうとする。
「中は入らないでください」
「何で?」
「構造が弱いです」
「分かるのか?」
「……見れば」
「今、怪しかったな」
「秘密です」
「またか」
笑う。
◇
「ここなら」
ガランさん。
水路。
見る。
「使えるかもな」
「何に?」
「商売」
またその言葉。
「何を売ればいいです?」
「まず」
ガランさん。
笑う。
「見せてもらおうか」
泉の開拓地。
初めて。
商人。
二人。
迎えた。
家を作った時とは違う。
自分の場所が、誰かにとって意味のある場所になり始めた。
そのことを。
この時。
ようやく少し実感した。
◇
ガランさん。
荷車。
止める。
車輪。
跡。
深い。
「これ」
私は。
地面。
見る。
「何?」
「道になりそう」
「一回じゃ無理だ」
「でも跡」
「次も同じところ通ればな」
なるほど。
人。
来る。
それだけ。
地面。
変わる。
「荷車、大丈夫だったんです?」
「ここまで?」
「荒野」
「悪い」
ガランさん。
車輪。
見る。
「石多いし、道ない」
「すみません」
「お前が謝ることじゃない」
「でも来るなら」
道。
欲しい。
看板。
欲しい。
泊まる場所。
必要。
また。
不便。
見つかる。
人。
来た。
から。
見えた。
「一人だと気づかなかった」
「何が?」
「来る人の不便」
ガランさん。
笑う。
「商売ならそこ考えろ」
「はい」
外部。
繋がる。
ということ。
自分。
便利。
だけ。
じゃない。
来る側。
使いやすい。
必要。
私は。
轍。
見ながら。
次の改善。
少しずつ。
考え始めていた。
◇
ガランさんは、荷車を止める場所まで気にした。
「ここ、少し傾いてるな」
「駄目です?」
「荷を下ろすなら平らな方がいい」
私は地面を見る。
《傾斜:微》
「……本当だ」
「分かるのか?」
「なんとなく」
危ない。
でも。
次から。
荷車。
止める場所。
考える。
人が来ると。
今まで必要なかったこと。
次々。
出る。
「開拓って終わらない」
「終わったら開拓じゃないだろ」
アルドさん。
言う。
確かに。
私は少し笑った。




