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技能《土地鑑定》で異世界開拓! ~剣も魔法も選ばず、何もない荒野に一から住処を作ります~  作者: 深夜のトースト
何もない荒野に、暮らしを

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第5話 雨上がりの贈り物

 目を覚ました時、雨は止んでいた。


「……朝?」


 ゆっくり身体を起こす。


 身体が痛い。


 背中も。


 肩も。


 腰も。


「草を敷いただけじゃ、そりゃ痛いよね……」


 昨夜作った寝床を見る。


 乾いた草を重ねただけ。


 しかも雨漏りしたせいで、端の方はまだ湿っている。


 よくこんな場所で眠れたものだ。


 それでも。


 私は上を見る。


 草を重ねて作った屋根は、ちゃんと残っていた。


「壊れてない」


 少しだけ嬉しくなる。


 風も吹いた。


 雨もかなり強かった。


 それなのに、自分が適当に組んだ屋根は朝まで耐えてくれた。


「……頑張ったね」


 屋根に向かって言ってから、自分で何をしているんだろうと思った。


 でも。


 この世界に来てから、初めて一晩を越した。


 それだけで少し気分がいい。


 私は岩の隙間から外へ出る。


「わあ……」


 昨日とは景色が違った。


 地面の色が濃くなっている。


 あちこちに水たまりができ、乾いていた土がまだ湿っている。


 そして。


 何より。


「草、増えてない?」


 もちろん一晩で大量に生えたわけではない。


 でも、昨日まで目立たなかった小さな草が、雨に濡れたことで鮮やかになっていた。


 茶色しかなかった荒野に、ところどころ緑が混ざっている。


「雨が降るだけでこんなに変わるんだ」


 私は近くの地面へ手をつく。


「《土地鑑定》」


《半乾燥地》


《表土水分:中》


《植物生育適性:低》


《地下水脈:近》


《降雨による保水状態:良》


「昨日より水分が増えてる」


 当然と言えば当然だけど。


 土地鑑定で数字のように変化が分かるのは面白い。


 少しだけ場所を変えて、もう一度使う。


「《土地鑑定》」


《表土水分:多》


《粘土質土壌:あり》


「……粘土?」


 昨日考えていた言葉が出てきた。


「あるの?」


 思わず周囲を見る。


 でも、どこにあるのかまでは分からない。


 私は《粘土質土壌》へ意識を向けてみる。


 すると。


 なんとなく。


 少し先。


 水場の近く。


 そちらが気になった。


「もしかして……」


 私は歩き出した。


     ◇


 湧き水の近くまで来る。


「……すご」


 昨日、自分で少し掘った穴。


 そこに澄んだ水がいっぱい溜まっていた。


 雨のおかげなのか、湧き出す水の量まで少し増えている気がする。


「昨日掘っておいてよかった」


 私は両手で水をすくい、顔を洗った。


 冷たい。


 一気に目が覚める。


 そのまま何口か飲む。


「はあ……」


 水がある。


 それだけで本当に安心する。


 昨日、ここを見つけていなかったら。


 たぶん今頃、かなり危なかった。


「土地鑑定、やっぱり当たりだったかも」


 戦えるわけではない。


 何かを作ってくれるわけでもない。


 でも。


 今の私にとっては、十分すぎるくらい役に立っている。


 私は水場の周囲を歩く。


 昨日より地面が柔らかい。


 靴の裏に泥がつく。


 そして、一ヶ所だけ妙にぬるっとした場所があった。


「ここ?」


 しゃがんで触れる。


「《土地鑑定》」


《粘土質土壌》


《粘土含有率:高》


《加工適性:良》


「加工適性……!」


 私は目を輝かせた。


 指で土をすくう。


 茶色がかった灰色。


 手の中で押すと、ぐにっと形が変わる。


「本当に粘土だ」


 昔、学校の授業で触った粘土とは少し違うけど。


 近い。


 かなり近い。


「これなら……器、作れる?」


 水を入れる容器。


 昨日からずっと欲しかったものだ。


 手ですくうだけでは、水場から離れられない。


 器があれば水を持って帰れる。


 それだけじゃない。


 食べ物が手に入れば保存もできる。


 煮炊きだって、もしかしたら。


「作ろう」


 私はその場で粘土を掘り始めた。


 昨日作った尖った石を使う。


 柔らかくなっているから、石でも十分掘れる。


 土を削る。


 粘土の部分だけ集める。


 石を取り除く。


「思ったより大変……」


 当然ながら、掘れば全部が綺麗な粘土というわけではない。


 小石も。


 砂も。


 細い根のようなものも混ざっている。


 それを少しずつ取り除いていく。


 しばらくして、両手いっぱいくらいの粘土が集まった。


「これくらいあれば、一個作れるかな」


 水場の近くに座り込む。


 まず丸める。


 真ん中を指で押す。


 少しずつ広げていく。


「……あ」


 割れた。


「難しい」


 やり直す。


 今度は少し水を混ぜる。


 こねる。


 丸める。


 真ん中を押す。


 指で少しずつ薄くする。


「お……」


 なんとなく。


 器っぽくなってきた。


 形は悪い。


 左右の高さも違う。


 口の部分なんて歪んでいる。


 それでも。


「器だ」


 どこからどう見ても上手ではない。


 でも、器には見える。


「できた……!」


 嬉しくなって持ち上げる。


 ぐにゃ。


「うわっ!」


 形が崩れた。


「まだ柔らかいのか……」


 当たり前だった。


 作ったばかりの粘土が、そのまま使えるわけがない。


「乾かす?」


 たしか陶器って焼くんだよね。


 でも。


 火がない。


「結局、火が必要じゃん」


 私は作りかけの器を見下ろした。


 昨日から何度もこれだ。


 一つ欲しいものができる。


 それを作ろうとすると、別のものが必要になる。


 屋根を作ろうとしたら棒が必要。


 棒を切るには道具が必要。


 器を作るには火が必要。


「生活って、全部つながってるんだなあ……」


 元の世界では考えたこともなかった。


 水が欲しければ蛇口をひねる。


 器が欲しければ買う。


 火が欲しければスイッチを押す。


 それが当たり前だった。


「便利すぎたな、あっち」


 今になって痛感する。


 でも。


 不思議と嫌ではなかった。


「じゃあ、次は火かな」


 私は粘土の器を日当たりのいい岩の上へ置いた。


 ひとまず乾かしてみる。


 焼く方法は、その後考えよう。


     ◇


 火。


 問題はどうやって起こすか。


「木がないんだよね……」


 昨日見つけた葦のような植物はある。


 乾いた草もある。


 燃えるもの自体はありそうだ。


 でも、火をつける手段がない。


「石をぶつけて火花……とか?」


 漫画や映画では見たことがある。


 石同士を打ちつける。


 火花が飛ぶ。


 枯れ草に燃え移る。


 簡単そうに見える。


「やってみよう」


 昨日集めた石の中から、硬そうなものを二つ選ぶ。


 枯れ草を細かくちぎって一ヶ所にまとめる。


「これで……」


 カンッ。


 石を打ちつける。


 カンッ。


 もう一度。


「……」


 何も出ない。


 角度を変える。


 カンッ。


「全然駄目」


 十回。


 二十回。


 何度やっても火花なんて出なかった。


「映画の嘘つき……」


 たぶん、石の種類が違うのだろう。


 何でもいいわけではない。


 だったら。


「土地鑑定で、火花が出る石が分かったり……」


 そこまで便利じゃないか。


 そう思いつつ、地面に手をつく。


「《土地鑑定》」


《地盤:安定》


《岩石含有:中》


《主な岩石:砂岩、硬質岩》


 少し考える。


「鉱物とかは?」


 意識を集中する。


 表示が変わった。


《微量鉱物:鉄分を含む》


「鉄……?」


 鉄があれば火が起こせる?


 分からない。


「知識がない……!」


 能力があっても、私が使い方を知らなければ意味がない。


 少し悔しくなる。


「なら、別の方法」


 棒を擦る。


 たしか昔の人はそうしていた。


 木の板に棒を押しつけて回す。


 摩擦で火を起こす。


「棒ならある」


 昨日使った、葦に似た植物。


 でも。


 触ってみると中が少し空洞になっている。


「これじゃ無理かな」


 やってみるだけやってみよう。


 乾燥した茎を一本取る。


 石で削って先を少し丸くする。


 別の太い茎を地面に置いて、上から擦る。


「っ……」


 両手で回す。


 速く。


 もっと速く。


「きつっ……!」


 すぐに手が痛くなった。


 止める。


「これは……」


 かなり大変だ。


 しかも煙すら出ない。


「火ってこんなに難しいの?」


 昨日、雨の中で焚き火が欲しいなんて簡単に思っていた自分を殴りたい。


 火は後回しにするしかない。


「もっといい材料を探そう」


 木があれば違うかもしれない。


 昨日の土地鑑定では北西方向に植生が増えていると出た。


 もう少し先まで行けば、低木くらいある可能性もある。


「でも、その前に……」


 ぐううう。


 お腹が鳴った。


「……食べ物」


 昨日から何も食べていない。


 さすがにそろそろ何か見つけないとまずい。


 私は水を飲んで空腹をごまかす。


「植物は勝手に食べられないし……」


 動物を探す?


 捕まえられる自信はない。


 虫?


「……最終手段かな」


 できればまだ考えたくない。


 私は立ち上がった。


 今日は昨日より少し遠くまで探索してみよう。


 水場の位置が分からなくならないよう、石を積んで目印を作る。


 三つ。


 四つ。


 少し高めに積む。


「これなら見えるよね」


 振り返りながら歩く。


 しばらく進む。


 まだ見える。


「よし」


 私は北西へ向かった。


     ◇


 昨日、葦のような植物を見つけた場所を越える。


 そこから先はまだ行ったことがない。


 少しずつ草の量が増えている。


「本当だったんだ」


 土地鑑定の情報どおりだ。


 さらに進むと、足首ほどの高さの植物がちらほら現れ始める。


 見たことのないものばかり。


 丸い葉。


 赤みがかった茎。


 小さな黄色い花。


「食べられるのが一個くらいあればいいのに」


 でも鑑定できない。


 下手に食べるのは怖い。


 私はさらに進んだ。


 すると。


「……ん?」


 足元に、変な跡がある。


 しゃがみ込む。


 湿った土の上。


 何かの足跡。


「これ……」


 手のひらより少し小さい。


 先端に爪のような跡がある。


 一つだけじゃない。


 いくつも続いている。


「動物?」


 いや。


 この世界なら魔物かもしれない。


 一気に警戒心が強くなる。


 私は石のナイフを握った。


 これで戦えるとは思わない。


 でも、何もないよりはマシだ。


 足跡を見る。


 進んでいる方向は。


「……私の水場と逆」


 少し安心する。


 だけど。


 同時に別のことを思った。


「生き物がいる」


 ということは。


 食べ物がある。


 少なくとも、この辺りには生き物が生きられる環境があるということだ。


 私は足跡を追うか迷った。


「いや……」


 危険すぎる。


 相手がウサギみたいな動物とは限らない。


 むしろ爪跡を見る限り、あまり可愛くない気がする。


「今日はやめよう」


 私は立ち上がる。


 その時。


 少し離れた場所から。


 ガサッ。


「っ!」


 身体が固まった。


 草が揺れる。


 何かいる。


 私は石のナイフを両手で握る。


「……」


 ガサ。


 ガサガサ。


 近づいてくる。


「ちょっと待って……」


 逃げる?


 でも背を向けていいのか分からない。


 足音らしい音がする。


 そして。


 草の間から、小さな頭が出た。


「……え?」


 長い耳。


 丸い目。


 茶色い毛。


 見た目だけなら。


「ウサギ?」


 ただし。


 普通のウサギとの違いが一つあった。


 額から。


 短い角が一本、生えている。


「……異世界だ」


 今さらながら、そんな感想が出た。


 角の生えたウサギは、私を見る。


 私もウサギを見る。


「……」


「……」


 数秒。


 お互い動かなかった。


 そして。


 ぐううう。


 私のお腹が盛大に鳴った。


 ウサギの耳がぴくっと動く。


「あ」


 次の瞬間。


 ウサギは走り出した。


「待って!」


 思わず追いかける。


「いや、なんで待ってって言ってるの私!」


 もちろん待ってくれない。


 速い。


 ものすごく速い。


 あっという間に草の向こうへ消えてしまった。


「……無理だ」


 立ち止まり、膝に手をつく。


「狩りとか絶対無理……」


 でも。


 私はウサギが消えた方向を見る。


 生き物を見つけた。


 それだけでも大きな収穫だ。


「何食べてたんだろう」


 ウサギがいたということは、植物を食べているはず。


 もしかしたら、人間も食べられるものが近くにあるかもしれない。


「次はそこを探してみよう」


 火も。


 食べ物も。


 ちゃんとした器も。


 まだ手に入っていない。


 それでも。


 昨日より確実に、この土地のことが分かってきた。


 私は来た道を振り返る。


 遠くに。


 自分で積んだ石の目印が、小さく見えている。


 その向こうには水場がある。


 さらにその近くには、雨をしのげる寝床がある。


 昨日までなら、ただの荒野だった場所。


 でも今は。


「あそこに帰ろう」


 自然と、そんな言葉が出た。


 帰る。


 その言葉が妙に嬉しかった。


 まだ家と呼べるようなものではない。


 それでも。


 この世界に。


 私が帰る場所が、一つできていた。


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