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技能《土地鑑定》で異世界開拓! ~剣も魔法も選ばず、何もない荒野に一から住処を作ります~  作者: 深夜のトースト
何もない荒野に、暮らしを

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第4話 雨をしのぐ屋根

 雨。


 その一文字を見た瞬間、急に焦りが込み上げてきた。


 私は空を見上げる。


 さっきまで青かったはずの空。その端から、灰色の雲がゆっくりと広がっている。


 まだ雨は降っていない。


 けれど、あまり時間はなさそうだった。


「屋根……屋根を作らないと」


 今夜の寝床として選んだのは、大きな岩が二つ並んだ場所。


 左右と後ろからの風は多少防げる。


 けれど上は完全に空いている。


 このまま雨が降れば、せっかく集めた草も私も全部びしょ濡れだ。


「屋根って言っても……」


 周囲を見る。


 木はない。


 板もない。


 布なんて当然ない。


 あるのは石と草だけ。


「草で作るしかないよね」


 私は石のナイフを握り、再び草を集め始めた。


 さっき寝床に敷いた時よりも、今度は長くて丈夫そうなものを選ぶ。


 根元から切る。


 集める。


 運ぶ。


 また切る。


「足りない……」


 一抱え集めても、屋根を覆うには全然足りない。


 汗が額から流れる。


 空を見れば、雲はさっきより近づいていた。


「急がないと」


 私は黙々と草を刈った。


     ◇


 問題は、草を集めた後だった。


「これ……どうやって屋根にするの?」


 岩と岩の間に草を置いただけでは、当然落ちる。


 何か支えが必要だ。


 棒。


 できれば長い棒が何本か。


 しかし、この周辺には木がない。


「うーん……」


 私は草の束を置いて周囲を歩く。


 何か使えるものがないか。


 細長い石?


 無理。


 草を束ねて太い紐のようにする?


 それだけでは屋根にならない。


「土地鑑定で木がある場所とか分からないかな」


 ふと思いついて地面に手をつく。


「《土地鑑定》」


《半乾燥地》


《地下水脈:近》


《植物生育適性:やや低》


 いつもの情報が浮かぶ。


「植物……」


 そこへ意識を集中する。


 この周辺で。


 もう少し大きな植物が育っている場所。


 そんなことまで分かるだろうか。


 しばらく何も起きなかった。


 諦めかけた、その時。


《周辺植生:北西方向に増加》


「……出た」


 私は立ち上がった。


「北西」


 たぶん、あっち。


 水場から離れすぎるのは怖い。


 でも、このままでは屋根が作れない。


 私は石のナイフを持って歩き始めた。


 それほど遠くへ行くつもりはない。


 何か見つからなければ、すぐに戻る。


 そう決めていた。


 五分ほど歩く。


 景色はほとんど変わらない。


 少し不安になる。


「本当にこっち?」


 さらに進む。


 すると。


「あ」


 遠くに何かが見えた。


 背の高い草。


 いや、草というより――。


「葦……みたいな?」


 私の腰より少し高い植物が、まとまって生えていた。


 水辺に生える葦によく似ている。


 近づいて一本触ってみる。


 茎は細いけれど、思ったより硬い。


 曲げても簡単には折れない。


「これなら使えるかも」


 根元に石のナイフを当てる。


 何度も擦る。


 ギコギコ。


「かたっ……」


 草とは全然違う。


 それでも何度か続けると。


 パキッ。


 一本切れた。


「よし」


 長さも十分。


 これなら屋根の骨組みにできるかもしれない。


 私は次々に切っていく。


 三本。


 五本。


 八本。


「……手が痛い」


 石を握っている指が赤くなってきた。


 でも、止められない。


 空は確実に暗くなっている。


 十本ほど集めたところで、一度持ち上げてみる。


「これくらいでいいかな」


 腕いっぱいに抱えて寝床へ戻る。


 途中で何度も落とした。


 そのたびに拾う。


「持ちにくい……!」


 紐が欲しい。


 籠も欲しい。


 背負えるものだって欲しい。


 欲しいものばかり増えていく。


 それでも。


「持って帰れた」


 私は葦のような植物を岩の前へ下ろした。


 次は組み立てだ。


     ◇


 岩と岩の間に、長い茎を一本渡してみる。


「……いける」


 少しだけ届いた。


 でも、そのままでは転がって落ちる。


 岩のくぼみに引っかけて、上から小さな石を乗せる。


 もう一本。


 その隣にも。


 三本。


 四本。


 少しずつ間隔を空けながら並べていく。


 遠目から見れば、格子のようになった。


「屋根っぽくなってきた」


 次はその上に草を載せる。


 一束。


 二束。


「……落ちるなあ」


 風が吹くと、すぐにずれる。


 どうにか固定しないといけない。


「紐……」


 私は刈った草を見る。


 一本では細い。


 なら。


 三本ほどまとめて、ねじる。


 さらにもう一本絡ませる。


「こういう感じ?」


 正しい作り方なんて知らない。


 でも、引っ張ってみる。


 ぷつん。


「切れた」


 もう一度。


 今度は草を少し多くする。


 ねじる。


 重ねる。


 またねじる。


 引っ張る。


「……今度は大丈夫」


 綺麗な縄とは言えない。


 ただの草をねじったものだ。


 それでも、軽いものを縛るくらいなら使えそうだった。


 私はそれで屋根の骨組みと草を結んでいく。


 一ヶ所。


 二ヶ所。


 途中で切れる。


「もう!」


 作り直す。


 また縛る。


 そんなことを繰り返しているうちに。


 ポツッ。


「え?」


 頬に冷たいものが当たった。


 空を見る。


 ポツ。


 ポツッ。


「降ってきた!」


 まずい。


 まだ屋根の半分しか覆えていない。


 私は急いで残りの草を載せる。


「これで……!」


 細かく整えている時間はない。


 とにかく厚くする。


 草。


 草。


 さらに草。


 最後に、上から何本か長い茎を載せる。


 小さな石を端に置いて重しにする。


「お願い、持って……!」


 ザアッ。


 一気に雨が強くなった。


「うわっ!」


 私は慌てて岩の間へ潜り込んだ。


     ◇


 雨の音が響く。


 ザアアアア――。


 思っていたより強い。


 屋根の上に雨粒が当たり、草が震えている。


 私はその下で膝を抱えた。


「……」


 頭には雨が当たっていない。


「おお……」


 感動したのも束の間。


 ポタッ。


「冷たっ」


 肩に水が落ちた。


 見ると、草の隙間から雨漏りしている。


 ポタ。


 ポタッ。


「あー……」


 完全には防げていない。


 それどころか、風向きが変わると横から細かい雨が入ってくる。


 足元にも少しずつ水が流れてきた。


「失敗……かな」


 せっかく作った草の寝床も、端の方が濡れ始めている。


 私は壁代わりの岩に身体を寄せた。


 でも。


 ふと外を見る。


 岩の外では、雨が地面を強く叩いている。


 何もない場所に立っていたら、今頃全身びしょ濡れだったはずだ。


 それに比べれば。


「……全然違う」


 完璧じゃない。


 雨漏りもする。


 狭い。


 暗い。


 見た目だってひどい。


 でも、私が座っている場所には、ほとんど雨が当たっていない。


 自分で作った屋根が。


 ちゃんと私を雨から守っている。


「できたんだ」


 思わず上を見る。


 草と茎を組み合わせただけの粗末な屋根。


 だけど。


 それが急に立派なものに思えた。


「家……」


 いや。


 さすがにまだ家ではない。


 岩の隙間に屋根をつけただけだ。


「小屋?」


 それも言いすぎかもしれない。


 私は少し考えて。


「……雨宿り小屋」


 これくらいなら許されるだろう。


 ちょっとだけ嬉しくなる。


     ◇


 雨はしばらく降り続いた。


 私は屋根の下から外を眺めていた。


 雨が降るにつれて、地面の色が変わっていく。


 乾いた薄茶色から、濃い茶色へ。


 そして。


「……あれ?」


 水場の方を見る。


 雨水が地面を流れ、一部が小さな窪みに集まっていた。


 私は思わず身を乗り出す。


 さっきまで何もなかった場所に、水たまりができている。


「雨の水……」


 飲めるかどうかはともかく。


 これを貯められれば。


 毎回湧き水まで行かなくても、水を使えるようになるかもしれない。


「貯水……」


 水を貯める場所。


 穴を掘るだけでは土に染み込む。


 何か敷けばいい?


 石?


 粘土?


「粘土……あるかな」


 私は地面を見る。


 今は雨の中へ出られない。


 でも。


 雨が止んだら調べてみよう。


 粘土が手に入るなら、器だって作れるかもしれない。


 器があれば、水を運べる。


 食べ物を保存できる。


 火があれば料理もできる。


「……やりたいこと、また増えた」


 笑ってしまう。


 今朝まで。


 何もなかった。


 水さえなかった。


 それが今は。


 水場がある。


 石の道具がある。


 寝床がある。


 そして。


 雨を防ぐ屋根まである。


 ほんの少しずつだけど。


 確実に増えている。


 私は屋根の下で横になった。


 草の寝床は少し湿っている。


 それでも、地面に直接寝るよりはずっといい。


「明日は……」


 水を入れる物が欲しい。


 それから火。


 できれば食べ物も見つけたい。


 目を閉じる。


 屋根の上を叩く雨音が、不思議と心地よかった。


 今日作ったばかりの。


 世界で一番粗末な、私だけの屋根。


 その下で私は、異世界に来て初めて。


 少しだけ安心して息を吐いた。


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