第15話 帰ろう
ベルク。
宿。
寝台。
「……柔らかい」
少し沈む。
藁と布。
それだけ。
自分の枝と葦と草の寝台とは全然違う。
「天国」
「大げさ」
「アルドさんはこれが普通?」
「宿なら」
「ずるい」
「何が」
でも。
夜。
ちゃんと眠れた。
そして朝。
目を覚まして最初に出た言葉。
「畑」
「何だ?」
「大丈夫かな」
水路。
詰まってない。
風。
強くない。
柵。
壊れてない。
家。
動物。
入ってない。
「もう帰りたいのか?」
「町も面白いですけど」
「けど?」
「畑」
「好きだな」
「好きっていうか心配」
自分で作った。
初めて何日も放置している。
落ち着かない。
「買い物終わったし、帰るか」
「はい」
◇
町を出る。
門を振り返る。
昨日。
あれだけ圧倒された。
今は。
少し名残惜しい。
「また来ますよね」
「売る物があればな」
「頑張ります」
街道。
戻る。
荷物。
増えた。
水袋。
塩。
糸。
鍬頭。
そして。
小さな紙。
私は読めない。
でも。
泉の開拓地。
その記録の控え。
「本当に名前ついたんだ」
「仮だけどな」
「十分です」
◇
二日目。
野営。
火を起こす。
前より。
少し上手い。
「一回で煙出た」
「成長してるな」
「そこ?」
「大事だろ」
確かに。
生活。
一個ずつ。
そうやって。
上手くなった。
◇
三日目。
昼。
遠く。
屋根。
「あ!」
歩く速度が上がる。
「家!」
「走るな」
「大丈夫!」
「荷物あるだろ!」
畑。
柵。
立っている。
「よかった……」
水路。
流れてる。
少し土が崩れている。
でも。
水。
届いている。
土芋。
葉。
野豆。
芽。
「《土地鑑定》」
《表土水分:中》
《植物生育状態:良》
「生きてる!」
「当たり前みたいに言うな」
「だって」
嬉しい。
◇
家。
枝を外す。
扉を開く。
乾いた草。
土。
自分の家の匂い。
「ただいま」
「誰もいないぞ」
「いいんです」
荷物を置く。
寝台へ座る。
「……帰ってきた」
町には。
たくさんの家があった。
立派な道具。
店。
食べ物。
人。
なのに。
自分の家へ戻った時。
一番ほっとした。
「ここが家なんだなあ」
改めてそう思う。
外を知ったから。
帰る場所も、前よりはっきり見えた。
◇
帰宅した夕方。
荷物を全部家の中へ入れる。
鍬頭。
水袋。
塩。
糸。
登録の紙。
「増えた」
町へ行く前。
なかったもの。
並べる。
「これ全部、外から」
不思議。
家。
自分で作った。
畑。
自分。
水路。
自分。
でも。
今。
ここにある道具。
町。
人。
作った。
生活。
自分だけじゃない。
「外と繋がるって」
こういうこと。
かもしれない。
翌朝。
畑。
水路。
少し崩れ。
直す。
家。
屋根。
一ヶ所。
草。
追加。
町へ行く前。
気になっていた。
「帰ったら直すって言った」
ちゃんと。
直す。
外へ行って。
戻る。
戻ったら。
いつもの作業。
でも。
前と同じじゃない。
持っているもの。
知っていること。
少し増えている。
それが。
嬉しかった。
◇
帰宅した日の夜。
久しぶりの自分の寝台へ横になる。
「硬い」
町の宿と比べたら。
すごく硬い。
でも。
落ち着く。
「柔らかくしたいな」
草を増やす。
布が手に入ったら敷く。
いつか。
そんな改善もできる。
町を見たことで。
自分の家の足りないところも分かる。
でも。
嫌になるわけじゃない。
「次、良くすればいい」
そう思える場所だから。
やっぱり。
ここが家だった。
翌朝からまた、いつもの生活が始まる。けれど私はもう、外の町を知っている。知らないまま耐える生活から、必要なものを選んで取りに行ける生活へ。ほんの少しだけ、世界の見え方まで変わった気がした。




