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技能《土地鑑定》で異世界開拓! ~剣も魔法も選ばず、何もない荒野に一から住処を作ります~  作者: 深夜のトースト
外の世界

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第12話 初めてのお金

 アルドさんに連れていかれたのは、市場の端にある素材商だった。


 店の外から、すでに普通じゃない。


 毛皮。


 角。


 牙。


 骨。


 それから、何の動物か分からない大きな爪。


「……すごい」


 壁には、私の身体より長い角まで掛かっている。


「怖いか?」


「ちょっと」


「商売するなら見ろ」


「慣れたくないものもある気がします」


「アルド」


 店の奥から、腕の太い男の人が声をかけてきた。


「生きてたのか」


「今日はそればっかりだ」


「当たり前だろ。荷車だけ戻らないし、連絡もない」


「悪かった」


「で?」


 店主らしい男の人が私を見る。


「こいつが例の?」


「俺を拾った」


「拾った?」


「逆だ。こいつが俺を」


「ああ、そういうことか」


 妙に納得される。


「毛皮あるんだろ?」


「はい」


 私は籠から毛皮を出す。


 傷のある一枚。


 比較的きれいな一枚。


 角も二本。


「見てもらえます?」


「おう」


 一枚目。


「ここ、切れてるな」


「はい」


「処理も少し甘い」


「……はい」


 二枚目。


「こっちは悪くない」


「ほんとですか?」


「素人にしては」


 また。


 最近、褒め言葉の後ろに必ず何かつく。


「値段は?」


 アルドさんが聞く。


「本人に言え」


「あ」


 店主が私を見る。


「こっちが銅貨三。傷がある方は二。角が一本一枚」


「……合計七?」


「そう」


 指を使って数える。


 七。


 手のひらへ、小さな銅色の硬貨が落ちる。


 ちゃり。


「……お金」


「初めて見るのか?」


「持つのは初めてです」


「どこから来たんだ、本当に」


「遠いところです」


 アルドさんが横から言う。


「事情ありだ。そこは聞くな」


「分かった」


 助かる。


 私は銅貨を一枚つまむ。


 軽すぎず。


 重すぎず。


 ちゃんと金属。


「これが、毛皮」


「売ったら金になる。それだけだ」


「私にはそれだけじゃないんです」


 捕まえた。


 仕留めた。


 解体した。


 皮を張った。


 失敗して。


 またやった。


 それが。


 今。


 お金。


「仕事した感じ」


「それが仕事だ」


「あ」


 そうか。


 これ。


 仕事。


     ◇


「他に売るものは?」


「これ」


 土芋。


 少し。


 自生地から持ってきたもの。


「普通の土芋だな」


「ですよね」


「値段も普通」


「はい」


「ただ」


 店主が持ち上げる。


「ルグラ荒野から?」


「はい」


「育ててるって聞いたが」


「まだ試してる途中です」


「水は?」


「あります」


「……アルド」


「本当だ」


 店主が、また私を見る。


「ルグラの奥で、畑?」


「小さいですけど」


「何でそんなところに」


「そこに転移……」


 止める。


「事情がありまして」


「危なかった」


「何が?」


「なんでもないです」


 土芋自体は高くない。


 でも。


「荒野で作れるなら、旅人には価値があるかもな」


「やっぱり?」


「水もあるんだろ?」


「あります」


「量が安定してるなら、補給場所になる」


 また。


 同じ話。


 アルドさんだけじゃない。


 この人も。


「ただし」


「はい?」


「自分が食う分もないのに売るな」


「分かってます」


「まず自分の食い扶持。その次に余り」


「はい」


 それ。


 私も考えた。


 間違ってなかった。


 少し安心する。


     ◇


 店を出る。


「なくすなよ」


 アルドさんが小さな布をくれた。


 銅貨を包む。


 糸で結ぶ。


「これで」


 腰へ。


「初収入」


「大事に使え」


「はい」


 市場を見る。


 さっきまで。


 ただ欲しい。


 だった。


 今。


 値段。


 気になる。


「急に買い物怖い」


「いいことだ」


「お金、減る」


「使えばな」


「……」


 七枚。


 何になる。


 何を選ぶ。


 町へ来て。


 初めて。


 私は。


 お金で生活を考えるようになった。


◇


 店を出たあと。


 私は銅貨の入った布包みを何度も触った。


「そんなに確認したら落とすぞ」


「だって、なくしたら終わりじゃないですか」


「終わりじゃない。また稼げ」


「簡単に言う」


 でも。


 その言葉。


 少し残る。


 また稼ぐ。


 今まで。


 食料は採る。


 道具は作る。


 それしかなかった。


 お金。


 なくなったら。


 また売る。


 そういう考え。


 新しい。


「これ、一枚で何買えるんです?」


「物による」


「じゃあ塩」


「小袋なら何枚もいらん」


「針」


「安い」


「布」


「質と大きさ次第」


「全部『物による』」


「だから商売はそういうものだ」


 私は少しだけ肩を落とす。


 数字。


 相場。


 品質。


 覚えること。


 また増えた。


「私、町来るたびに勉強増えてない?」


「それが普通だ」


 普通。


 また。


 知らなかった世界の普通。


 私は銅貨の包みを握り直した。


 小さい。


 でも。


 今までの自分の作業が。


 ちゃんと形になったもの。


「大事に使おう」


 そう決めた。

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