第11話 開拓町ベルク
ベルクへ近づくほど、人が増えた。
門。
荷車。
動物。
行き交う人。
「多い……」
「まだ門の外だぞ」
「これで?」
「ベルクは大きい町じゃない」
「嘘」
「本当だ」
門番がいる。
槍。
金属の防具。
私は思わず見る。
「止まるな」
「すみません」
「アルド!」
門番の一人が声を上げた。
「生きてたのか!」
「なんとかな」
「荷車は?」
「なくした」
「……本当に魔獣に?」
「ああ」
門番が私を見る。
「そっちは?」
「命の恩人」
「この嬢ちゃんが?」
「はい」
私は反射的に言った。
「女性です」
「いや、それは見れば分かる」
「あ」
何を言ってるんだろう。
恥ずかしい。
◇
門をくぐる。
「…………」
情報量が多い。
右に店。
左に家。
前に荷車。
後ろから子どもが走る。
焼いた肉の匂い。
パン。
煙。
香辛料。
動物。
人。
「大丈夫か?」
「ちょっと待ってください」
ずっと一人だった。
今、四方八方から声が聞こえる。
「人ってこんなにうるさかったんだ」
「褒めてないな」
「でも、嫌じゃないです」
少し歩くと、串焼きの屋台。
肉の焼ける匂い。
足が止まる。
「食うか?」
「いいんです?」
「まだ借り返してない」
アルドさんが一本買ってくれた。
一口。
「……おいしい」
「そりゃよかった」
「塩」
「そこか?」
「塩すごい」
「知ってる」
肉。
塩。
香辛料。
家の煮込みとは全然違う。
「料理覚えたい」
「まず調味料買え」
「はい」
◇
市場。
布。
色。
「きれい」
赤。
青。
茶。
白。
服。
自分を見る。
転移した時から同じ服。
汚れ。
補修。
「着替え……」
「欲しいか」
「すごく」
「高いぞ」
「…………」
次。
金物。
斧。
鍋。
ナイフ。
鍬。
釘。
「全部欲しい」
「全部は無理」
「分かってます」
店の並び。
食材。
野菜。
果物。
見たことのないもの。
「これ全部食べられる?」
「売ってるんだから、だいたいは」
「だいたい?」
「調理前提もある」
「危ない」
「お前、野生のもの食ってた奴が何言ってる」
「慎重に食べました!」
◇
しばらく歩く。
少し。
町に慣れてくる。
子どもが走る。
洗濯物。
店員と客。
値段交渉。
荷物を運ぶ人。
女の人。
水を汲む。
「……普通」
「何が?」
「暮らしてる」
「当たり前だ」
「そうなんですけど」
この世界。
魔獣。
スキル。
地下遺跡。
変なウサギ。
そういうものばかり目に入った。
でも。
人はご飯を食べて。
服を着て。
働いて。
笑う。
「なんか安心した」
「変な奴」
また言われた。
でも。
私も少し笑った。
異世界。
でも。
人の暮らし。
そこにあった。
◇
市場の端。
私は一度立ち止まった。
「どうした?」
「音」
「音?」
「ずっと鳴ってる」
人の話し声。
金属を叩く音。
荷車の車輪。
動物の鳴き声。
店主の呼び込み。
荒野では。
風と水と火くらい。
だから。
町の音が途切れない。
「疲れたか?」
「ちょっと」
「休むか」
道の端へ寄る。
私は串焼きの残りを少しずつ食べる。
目の前を。
知らない人が何人も通る。
「誰も私のこと気にしない」
「そりゃそうだ」
「なんか変な感じ」
荒野。
人が来れば。
それだけで大事件。
ここ。
私はただの一人。
「町ってすごい」
「そこまでか?」
「はい」
それから。
井戸。
見る。
人が並ぶ。
水桶。
汲む。
「ここも水、大事なんですね」
「当たり前だ」
荒野だけじゃない。
水。
食べ物。
道具。
どこでも必要。
違うのは。
ここには。
それを支える人がたくさんいる。
私は一人で全部やっていた。
「人が多いって、便利」
「さっきうるさいって言ってたぞ」
「両方です」
町の便利さと。
自分の静かな家。
どっちも。
少しずつ。
好きになれそうな気がした。
◇
宿へ向かう途中。
私は何度も後ろを振り返った。
店。
人。
灯り。
夜になっても町は完全には静かにならないらしい。
「荒野と全然違う」
「そりゃそうだ」
「夜も人いる」
「いる」
「火もいっぱい」
「家の中にな」
家の中の火。
それだけでも。
羨ましい。
煙を逃がす仕組み。
暖かい部屋。
「帰ったら、いつか考えたいな」
「何を?」
「家の中で火を使う方法」
「火事になるなよ」
「だから、いつかです」
町を見るだけで。
次の開拓の種まで増えていった。




