第10話 街道
二日目。
朝からずっと歩く。
「……まだ?」
「まだ」
「ベルク遠い」
「だから二日半って言っただろ」
「数字で聞くのと歩くの違いますね」
「当たり前だ」
足が痛い。
それでも探索の時より不安は少ない。
アルドさんが道を知っている。
水もある。
食料もある。
安心感が全然違う。
◇
昼近く。
「見えたぞ」
「何が?」
「道」
「……?」
前を見ても、最初は分からない。
「どこ?」
「あそこ」
近づく。
地面。
少し硬い。
草が少ない。
二本の線。
「轍」
「わだち?」
「荷車の車輪跡」
「あ」
さらに。
足跡。
人。
動物。
何度も通った跡。
「街道だ」
「……」
私は止まる。
「何だ?」
「道」
「そうだ」
「本当に道」
「だからそう言ってる」
今まで。
荒野。
自分が歩いた場所。
目印の石。
それだけ。
人が何度も通る道。
「すごい」
「道で感動する奴、初めて見た」
「私、水路くらいしか」
「比べるものがおかしい」
◇
街道を歩く。
少し先。
人。
二人。
「……人」
「見るな」
「すみません」
でも見てしまう。
荷物。
服。
靴。
普通に歩いている。
すれ違う。
「こんにちは」
つい言う。
「おう」
返事。
それだけ。
「……」
「何だ」
「知らない人と話した」
「挨拶だろ」
「でも」
この世界に人がいるのは知っていた。
アルドさんがいる。
でも。
知らない人が普通に道を歩いている。
「町、もっといるぞ」
「緊張する」
「今からそれか」
◇
さらに進む。
道の横。
壊れた車輪。
少し離れた場所。
石を積んだ目印。
「これ何です?」
「旅人が目印に置くことがある」
「私も似たの作りました」
「どこで?」
「探索の帰り道」
「迷わないためか」
「はい」
自分のやっていたこと。
完全な間違いじゃなかった。
少し嬉しい。
◇
夕方。
少し高い場所。
上る。
「ほら」
アルドさんが前を指す。
「……」
遠く。
壁。
屋根。
煙。
たくさん。
「……あれ?」
「ベルク」
止まる。
家。
一軒じゃない。
十でもない。
もっと。
煙。
何本。
人。
小さく動く。
荷車。
「町……」
「そうだ」
「本当にある」
「疑ってたのか」
「少し」
「失礼だな」
「だって」
私はずっと一人だった。
この世界。
家。
自分で一つ作った。
それだけ。
今。
向こう。
家。
数えられない。
「……すごい」
世界が急に広がる。
この荒野。
私の家。
それだけじゃない。
「行くぞ」
「はい」
一歩。
町へ。
近づく。
胸がどきどきする。
初めて。
異世界に来たんだって。
今さら。
強く思った。
◇
街道へ出てから。
私が一番驚いたのは。
人だけじゃなかった。
「これ、全部車輪の跡?」
「ああ」
何本もの轍。
重なっている。
深いもの。
浅いもの。
「すごい数」
「毎日誰かしら通るからな」
自分の水路。
一本。
自分の足跡。
すぐ消える。
ここは。
人が繰り返し通って。
地面そのものが変わっている。
「道って、人の跡なんですね」
「急に何だ」
「なんとなく」
少し進むと、道端へ石が積んである。
私が探索で作った目印に似ていた。
「これも?」
「旅人が置くことがある」
「私もやりました」
「迷わないため?」
「はい」
「同じだな」
少し嬉しい。
自分が手探りでやったこと。
この世界でも、ちゃんと意味のあるやり方だった。
「私、完全に間違ってたわけじゃないんだ」
「何の話だ?」
「独り言です」
街道を歩く。
人が通る。
荷車が通る。
道が続く。
この先に町がある。
その当たり前が。
まだ私には。
少しだけ奇跡みたいに感じられた。
◇
街道を歩いている間にも、荷車が一台追い越していった。
車輪の音。積まれた木箱。手綱を持つ人。
「荷車って速い」
「道があればな」
「私のところ、無理ですね」
「今はな」
また。
今は。
その言葉。
前より少しだけ現実味がある。
道がなければ作る。
全部を舗装なんてできない。
でも、目印や轍なら。
いつか。
そんなことを考えながら、私はベルクの壁へ近づいていった。




