第29話 水を入れてみる
貯水槽の補修が一段落した。
「……試すか」
一番怖い瞬間。
水を入れて。
全部漏れたら。
数日分の仕事が無駄。
「いや、無駄じゃない」
失敗した場所が分かる。
そう言い聞かせる。
水路を延ばす。
今ある畑用水路から、さらに分岐。
ただし。
貯水槽へ常時流すつもりはない。
「流しすぎない」
水場が最優先。
入口を小さくする。
水が少しずつ。
石の溝を流れる。
貯水槽へ。
ぽた。
ちょろ。
ちょろちょろ。
「入った」
底に水が溜まり始める。
最初は薄い水たまり。
少しずつ。
広がる。
「……漏れてる」
東側。
壁の一部から湿った跡。
外を見る。
地面が濡れている。
「ここか」
水を止める。
外からさらに掘る。
石の隙間。
粘土が剥がれていた。
「やり直し」
塞ぐ。
乾かす。
次の日。
もう一度。
また別の場所から漏れる。
「もう!」
止める。
直す。
乾かす。
◇
何度目だっただろう。
水を流す。
待つ。
漏れ。
「……ない?」
完全ではない。
壁全体が少し湿っている。
でも。
前みたいに外へ流れ出す場所はない。
水面が。
少しずつ上がっている。
「貯まってる」
私はしゃがみ込んだ。
「貯まってるよ……!」
水瓶何個分なのか分からない。
まだ底が薄く覆われただけ。
それでも。
私が直した場所に。
水が残っている。
「成功……?」
胸の奥が熱くなる。
ただ。
土地鑑定。
《構造安定性:低》
変わらない。
「そうだよね」
修理したのは水漏れ。
建物そのものが安全になったわけではない。
「中には入らない」
それは守る。
使える範囲だけ使う。
昔のものだからこそ。
怖さも忘れない。




