第18話 私の家
「扉ってどう作るんだろう」
家の入口の前で腕を組む。
壁と屋根はできた。
なのに入口だけ完全に開いている。
これでは風も動物も普通に入ってくる。
「板は作れないし」
木を薄く切るなんて、今の道具では無理だ。
だったら。
「また葦かな」
最近、何でも葦で作っている気がする。
◇
細い枝で長方形の枠を作る。
草紐で四隅を縛る。
そこへ葦を並べる。
籠のように細かく編むのは大変なので、縦に並べて横から数本通して固定した。
「扉……には見える」
軽い。
少し曲がっている。
蹴ったら壊れそう。
「でも、風は防げる」
問題は取り付け方。
「蝶番なんてないし」
考えた末。
片側を草紐の輪で柱へつないだ。
きつく縛らず、少し動くようにする。
押す。
ギギッ。
「動いた」
もう一度。
開く。
閉じる。
「扉!」
ちゃんと動く。
感動した。
反対側には短い枝を引っかけられるようにして、簡単な留め具にした。
「これで閉まる」
家の中へ入る。
扉を閉じる。
外の景色がほとんど見えなくなった。
「……おお」
暗い。
でも。
風がかなり弱い。
「すごい」
壁って。
扉って。
こんなに違うんだ。
◇
「あと寝床」
今まで草を地面へ敷いて寝ていた。
でも家を作るなら。
「ちょっとくらい良くしたい」
残った木の枝を使う。
地面へ低い支柱を四本立てる。
その上へ枝を何本も並べる。
紐で固定。
一度座ってみる。
ミシッ。
「…………」
立ち上がる。
「怖い」
枝を二本追加する。
もう一度。
座る。
「大丈夫」
その上へ葦を横に並べる。
さらに乾いた草を厚く敷く。
横になる。
「……!」
地面じゃない。
少しだけ身体が浮いている。
硬い。
痛いところもある。
でも。
「今までより全然いい」
地面の湿気や冷たさも少ない。
私はしばらくそのまま寝転がってしまった。
「ベッド……」
これをベッドと呼んでいいのかは怪しい。
でも私が作った初めての寝台だ。
◇
道具を移す。
小型の器。
籠。
石のナイフ。
掘削用の石。
叩く石。
使っていない材料。
家の壁際へ並べる。
「……物、増えたな」
何も持っていなかった私が。
今では家の中へ運ぶ物がある。
毛皮もあった。
最初に捕まえた角ウサギのもの。
「これ……」
加工方法が分からなくて、そのまま乾かしていた。
かなり硬くなってしまっている。
「失敗してる気がするけど」
捨てるのも惜しい。
寝台の上へ置いてみる。
「……ちょっと柔らかい?」
本当に少しだけ。
使えるなら使おう。
◇
焚き火は家の中へ入れなかった。
「煙で死んだら笑えないし」
元の世界でも、換気の悪い場所で火を使うのが危険だったことくらいは知っている。
だから焚き火は今まで通り外。
ただし入口の近くに、簡単な雨避けを伸ばしておいた。
以前使っていた岩場と簡易屋根は、そのまま作業場所として残す。
火。
粘土。
汚れる作業。
そういうものはあちらでやればいい。
「寝る場所と作業する場所が分かれた」
なんだか急に生活らしくなった。
◇
その日の夕方。
空が暗くなった。
「あ」
風が吹く。
懐かしい。
嫌な感じ。
「雨?」
《土地鑑定》へ意識を向ける。
《降雨可能性:高》
「……今日?」
完成した日に?
嬉しいような。
怖いような。
「試験にはちょうどいい……のかな」
◇
夜。
雨が降り始めた。
ぱらぱら。
やがて。
ざああああっ。
「来た……」
私は家の中で寝台へ座っていた。
扉を閉める。
屋根を打つ雨音。
風の音。
以前なら。
雨が横から入ってこないように身体を縮めていた。
屋根から落ちる水を避けて、寝る場所を変えていた。
今日は。
「……濡れてない」
手を伸ばす。
床。
乾いている。
壁の一部は少し湿っている。
一ヶ所。
屋根から。
ぽた。
「あ」
一滴落ちた。
「完璧じゃないか」
でも。
次は落ちてこない。
雨は降り続いている。
それでも私は濡れていない。
風もほとんど入らない。
「……すごい」
寝台へ横になる。
屋根の向こうで雨が鳴っている。
怖くない。
少し。
安心する。
「家だ」
口にしてから。
胸の奥が熱くなった。
「これ、私の家なんだ」
誰にもらったわけでもない。
転移した時からあったわけでもない。
木を探した。
石の斧を作った。
何度も木を切った。
運んだ。
穴を掘った。
柱を立てた。
ぐらぐらして。
直した。
葦を編んだ。
土を塗った。
屋根を作った。
雨漏りを直した。
扉も作った。
寝る場所も作った。
全部。
私が。
「……できた」
暗い家の中で笑う。
何もない荒野へ放り出された時。
地面へ手をついて、水があることを知った。
あの日。
私はただ、生きるために水を探した。
それから。
火ができた。
食べ物を見つけた。
器を作った。
畑を作った。
柵を作った。
籠を作った。
水瓶を作った。
そして。
家ができた。
「住める場所になってきたなあ」
まだ足りないものはいくらでもある。
食料は安定していない。
服は一着しかない。
鍋もない。
まともな刃物もない。
家だって、強い嵐が来たらどうなるか分からない。
それでも。
今日から。
私は荒野で寝るんじゃない。
家へ帰って。
家で眠れる。
「おやすみ」
誰もいない家へ言う。
雨音を聞きながら。
私は初めて。
自分で作った家の中で目を閉じた。




