第15話 石の斧
「斧が欲しい」
翌朝。
起きて最初に出た言葉がそれだった。
今まで何度も欲しいと思っていた。
枝を切る時。
薪を集める時。
柵を作った時。
でも、石のナイフでも時間をかければなんとかなったから、後回しにしていた。
「家は無理」
さすがに木を何本も石のナイフで削り続けるのは厳しい。
金属はない。
鉄分のある土地は見つけているけれど、私は鉄の作り方なんて知らない。
「だったら石で作るしかないよね」
斧。
石の斧。
見たことはある。
学校の教科書だったか、博物館だったか。
石を木の棒へ固定して使う。
「……たぶん」
相変わらず、知識がふわっとしている。
◇
以前、石器を作った岩場へ行く。
割れやすく、硬い石。
何個か拾って拠点へ持ち帰った。
叩く石で割る。
カンッ。
一つ目。
「違う」
尖りすぎた。
二つ目。
カンッ。
「あ」
真っ二つになった。
三つ目。
何度か叩く。
「これ……?」
手のひらより少し大きい。
一辺が薄く割れている。
ナイフほど鋭くはないけれど、木へ叩きつけるなら使えそうだ。
「問題は持ち手」
低木から取ってきた、少し太めの枝。
端を石のナイフで削る。
そこへ石を当てて。
草紐でぐるぐる巻きにする。
「……斧?」
かなり怪しい。
それでも形にはなった。
試しに枯れ枝へ振り下ろす。
「えいっ!」
ゴンッ。
石が飛んだ。
「危なっ!」
慌てて頭を抱える。
幸い、誰もいない方向へ飛んだ。
「駄目じゃん!」
拾って戻る。
紐で巻いただけでは、衝撃ですぐ抜ける。
「どうすれば……」
持ち手を見る。
石を見る。
また持ち手。
「挟めないかな」
枝の先を割って、その間に石を入れる。
できれば良さそうだ。
石のナイフで少しずつ切れ目を作り、叩く石を使って枝先を割る。
「割れすぎないで……」
パキッ。
「あ」
半分以上裂けた。
「…………」
失敗。
二本目。
今度は慎重に。
浅く割る。
そこへ石を差し込む。
「入った」
その上から草紐を巻く。
さらに。
「もう少し強い紐が欲しいな」
今の草紐はすぐ切れる。
そこで何本かまとめてねじり、少し太い紐にした。
石と枝を何重にも固定する。
「今度こそ」
枯れ枝へ振り下ろす。
ゴンッ。
石は取れない。
「おっ」
もう一度。
ゴンッ。
木が少し欠けた。
「できた!」
切れ味がいいとは言えない。
それでも石のナイフよりずっと力を伝えられる。
「斧だ……!」
◇
石の斧を持って、樹木のある場所へ向かう。
昨日削った木の前に立つ。
「お願いします」
木へ頭を下げてから、斧を振った。
ゴンッ。
少し削れる。
反対側から。
ゴンッ。
「硬い……!」
十回。
二十回。
休む。
また振る。
腕が痛い。
手のひらも痛い。
しかも途中で紐が緩んできた。
「休憩……」
座り込んで固定し直す。
それを何度も繰り返した。
やがて。
ミシッ。
「え?」
木が傾いた。
「うわっ」
慌てて離れる。
バサッ。
地面へ倒れた。
「……切れた」
たった一本。
それだけなのに。
「やった!」
思わず両手を上げた。
倒した木から枝を落とす。
長い幹だけにする。
「これ、どうやって持って帰るんだろう」
籠には当然入らない。
持ち上げる。
「重っ」
引きずるしかない。
◇
一本運ぶだけで、かなり疲れた。
だから一日に何本も切るのはやめた。
畑。
薪。
食事。
火。
普段の生活もある。
その合間に。
一日一本。
時には一本も切れない日もあった。
斧の紐が切れた日もある。
石が欠けて、作り直した日もある。
それでも少しずつ。
家を建てる予定地の横に、細い丸太が増えていった。
一。
二。
三。
四。
五。
六。
「……こんなに時間かかるんだ」
六本並んだ木を見る。
元の世界なら。
家を建てるなんて、自分で木を切るところから考えたこともなかった。
「でも」
木へ手を置く。
「これ全部、私が切ったんだよね」
ちょっと誇らしかった。




