王国の動揺、サウラの苦悩、魔法の意味への問い
その日を境に、王国の空気は静かに変わっていった。
朝になれば人々は畑へ向かう。
市場には品物が並び、工房からは木槌の音が聞こえる。
見える景色は昨日までと変わらない。
それでも、人々の表情だけは少しずつ変わっていた。
誰もが時折、自分の手を見つめる。
腕を曲げ、足を動かし、胸に触れる。
土でできた身体は今までと何も違わない。
しかし、あの日崩れ去った仲間の姿が頭から離れなかった。
「私も、いつか消える。」
その考えは、風に乗る種のように王国中へ広がっていった。
サウラは毎日のように町を歩いた。
広場へ行き、畑へ行き、工房を訪ねる。
以前なら誰もが笑顔で迎えてくれた。
今も笑顔はある。
けれど、その笑顔はどこか無理に作られているようにも見えた。
「困っていることはない?」
サウラが尋ねると、人々は決まって首を横に振る。
「大丈夫です。」
その返事に嘘はない。
しかし、本当に大丈夫なら、あの沈黙は生まれないはずだった。
夕方、サウラは城の庭へ腰を下ろした。
風が草を揺らしている。
初めてこの世界へ来た日の風によく似ていた。
「私は何を間違えたんだろう。」
その独り言に答える者はいない。
しばらくして足音が聞こえた。
セトだった。
彼はサウラの隣へ静かに座る。
二人はしばらく何も話さなかった。
王国の灯が一つ、また一つと夜の中へ浮かび上がる。
「皆が不安になっている。」
先に口を開いたのはセトだった。
サウラは小さくうなずく。
「分かってる。」
「死を知ってしまった。」
「……うん。」
それだけだった。
その事実だけで十分だった。
サウラは両手を見つめる。
この手は王国を作った。
けれど、人々から死を取り去ることはできない。
「私は魔法を持っているのに。」
その声は震えていた。
「何もできない。」
セトは少し考え、静かに答えた。
「君は世界を作った。」
「でも、命までは作れなかった。」
その言葉は責める響きを持っていなかった。
ただ事実を述べただけだった。
だからこそ、サウラの胸へ深く沈んだ。
翌日、王国では集会が開かれた。
広場には多くの人々が集まる。
以前なら祭りのような賑わいだった場所に、今日は静かな緊張が流れていた。
一人の青年が立ち上がる。
「王様。」
「どうしたの。」
「私たちは、どうすれば死なずに済むのでしょうか。」
広場が静まり返る。
誰もが同じことを知りたかった。
サウラは答えようとして、言葉を失った。
何も知らない。
魔法を授かった理由も。
この世界が何者によって作られたのかも。
死がなぜ存在するのかも。
知っていると思っていた自分は、本当は何も知らなかった。
「……ごめんなさい。」
その一言が精いっぱいだった。
「私には分からない。」
人々は責めなかった。
責めることはできなかった。
サウラもまた、自分たちと同じように苦しんでいることが伝わってきたからだった。
その夜。
サウラは一人、王国を離れた。
草原を歩き続ける。
あの日、最初に風の声を聞いた場所を目指して。
夜空には星が瞬いていた。
風は静かだった。
彼女は木の杖を胸に抱きしめ、空へ向かって語りかける。
「あなたは、誰なの。」
返事はない。
「どうして私に魔法を与えたの。」
沈黙だけが続く。
「この世界は、何のためにあるの。」
風が吹いた。
草が揺れ、長い髪が静かになびく。
サウラは目を閉じた。
初めてこの力を授かった時と同じ風だった。
しかし今、その風は祝福ではなく、答えを待つ静かな沈黙のように感じられた。
彼女はその場にひざまずき、夜が明けるまで動かなかった。




