王国の繁栄と最初の死
やがて季節が幾度も巡り、集落は町となり、町は一つの王国へと姿を変えていった。
初めは数えるほどしかなかった家々も、今では遠くまで続いている。
朝になれば煙突から白い煙が立ち上り、人々はそれぞれの仕事へ向かう。畑では実りが風に揺れ、工房では器や道具が作られ、市場には人々の笑い声が絶えなかった。
サウラは城の高い場所から、その光景を眺めることが好きだった。
城といっても、威厳を誇るための建物ではない。
人々が困った時に集まり、祝い事があれば皆で食卓を囲む、王国で最も大きな家だった。
その広間では今日も子どもたちが走り回り、大人たちは笑いながらその姿を見守っている。
サウラは静かに微笑んだ。
「みんな、元気だね。」
隣に立つセトも頷く。
「皆、幸せそうだ。」
サウラは首を横に振った。
「違うよ。幸せそうじゃなくて、本当に幸せでいてほしい。」
セトはその言葉を胸に留めるように、小さく頷いた。
ある日、人々は葉を編み込み、一つの冠を作ってサウラへ差し出した。
「私たちの王として受け取ってください。」
サウラは驚いた。
「王様なんて大げさだよ。」
「あなたがいなければ、私たちは存在しません。」
「でも、この国はみんなで作ったんでしょう?」
人々は笑顔で答える。
「だからこそ、皆の願いとして受け取ってください。」
サウラは少し迷った末、その葉の冠を頭に載せた。
重さはほとんどない。
けれど、その温もりは何よりも重く感じられた。
その日から、人々は彼女を王と呼ぶようになった。
一方、セトは自然と王国のまとめ役となった。
誰に命じられたわけでもない。
困った者がいれば相談を受け、仕事が偏れば人を集め、争いの芽があれば早いうちに摘み取る。
人々は彼を宰相と呼び始めた。
セトはその呼び名を少し照れくさそうに受け入れていた。
そして時は流れる。
セトネルはさらに仲間を生み出し、その数は百を超えた。
王国は広くなったが、人々の顔はまだ互いに分かるほど近かった。
夕暮れには皆が広場へ集まり、一日の出来事を語り合う。
サウラはその輪に入り、誰かの隣へ腰を下ろす。
王だからといって特別な椅子へ座ることはなかった。
皆と同じ場所で笑い、同じ食事を分け合うことを、彼女は何よりも大切にしていた。
そんな穏やかな日々が、長く続いた。
サウラは、この時間が永遠に続くのではないかと思い始めていた。
だが、ある朝。
広場の方から、今まで聞いたことのない大きな声が響いた。
「お前が悪い!」
怒鳴り声だった。
サウラは思わず立ち上がり、その声のする方へ駆け出した。
そこには多くのセトネルが集まり、互いに激しく言い争っていた。
「違う、お前が間違えたんだ。」
「いや、お前が手伝わなかったからだ。」
輪の中心には、一人のセトネルが立っていた。
他の者よりも少し動きがぎこちなく、言葉もたどたどしい。
周囲の者たちは、その姿を責め立てていた。
サウラは群れの中へ入り、両手を広げた。
「やめて。」
怒声が一瞬だけ止む。
サウラは一人一人の顔を見回した。
「私は、みんなを愛している。」
静かな声だった。
それでも、その場の空気は少し和らいだ。
「一人一人、誰よりも大切なの。」
誰も答えなかった。
サウラは、これで終わると思った。
ほんの少し前まで、そう信じていた。
しかし次の瞬間だった。
一人のセトネルが怒りのまま腕を振るい、目の前の仲間を強く打った。
鈍い音が響く。
打たれたセトネルの身体は大きく揺れ、そのまま形を保てなくなった。
胸が崩れ、腕が崩れ、全身が静かに土へ戻っていく。
それは、誰も見たことのない光景だった。
サウラは息をのみ、悲鳴を上げた。
「やめて!」
しかし、その声はもう誰にも届かなかった。
残されたセトネルたちは後ずさりしながら崩れた土を見つめる。
「僕も、ああなるのか。」
「いつか僕も消えるのか。」
誰かが震える声でそう言うと、その不安はたちまち皆へ広がっていった。
サウラは一人一人へ近づき、必死に微笑もうとした。
「大丈夫。」
その言葉は、自分自身へ言い聞かせるようでもあった。
「きっと、大丈夫だから。」
けれど、その時すでに、王国にはサウラの知らない何かが芽生え始めていた。




