森へ
大事な事なのでもう一度言います。
ネーミングセンスが安直なのは割愛♡
ターザンのように森の木々を飛び移り、ギデオンの追跡を振り切ってから数時間。
太陽がすっかり昇りきった頃、俺はようやく巨大な倒木の洞穴に逃げ込んだ。
「……はぁ、はぁ、死ぬ……いや、溶ける……」
俺はローブと仮面を内側から脱ぎ捨て、本来の「スライム形態」に戻って地面にでろーんと広がった。スライムに疲労の概念があるのかは謎だが、魔力を使いすぎたせいか体がゼリー飲料のように緩くなっている。
『ちょっと、だらしないわよ! 追いつかれたらどうするの!』
(無理、限界。ブラック企業で三日連続徹夜した時よりキツい……。
っていうか、あいつ何なんだよ! お前の元カレか何かか!?)
『なっ……!? ば、馬鹿なこと言わないでよ!』
アイリスが体内で(比喩ではなく物理的に)熱を持ち、俺のお腹のあたりがボコボコと沸騰しそうになる。
『あいつはギデオン。数年前、私の前の持ち主が死んで、折れた私を回収した錬金術師よ。彼は私を「最強の自律型兵器」に改造しようとしたの。でも、私が拒絶して暴走したから、あそこの洞窟に封印したのよ』
(なるほど、未練タラタラのストーカー錬金術師ってわけだ)
厄介すぎる。だが、あの狂気に満ちた目を見る限り、絶対に諦めないだろう。
たとえ酒に酔っていたとしても。
俺たちが生き残るためには、ただ逃げるだけでなく、あいつを返り討ちにできるだけの「力」が必要だった。
「よし、特訓だ。自分のスペックを再確認するぞ」
体力を回復させた俺は、洞穴の裏手でスキル検証を始めた。
単なるスライムの能力と、魔剣アイリスの能力。これらを別々に使うのではなく、掛け合わせることで真価が発揮されるはずだ。
『いい心がけね。私の【氷結】の魔力、使いこなしてみなさい!』
俺たちはいくつかのアプローチを試した。そして完成したのが以下の「オリジナルコンボ技」だ。
【フロスト・ウィップ】
構成: 【粘着糸】+【氷結】
効果: 撃ち出した粘着糸の表面を瞬時に凍らせる。鞭のようにしならせて敵を打ち据えるだけでなく、巻きついた瞬間に相手を凍傷にさせる凶悪仕様。
【徹甲酸弾】
構成: 【酸弾】+【硬質化】+【氷結】
効果: 消化液の弾丸の周りを、カチカチに凍らせた鉄の薄膜でコーティングして撃ち出す。装甲を貫通した直後に、内部で強酸がばらまかれる極悪非道な弾丸。
(……なんか、俺の技って主人公っぽくないというか、エグくないか?)
『勝てば官軍よ! 生き残るためなら手段を選んじゃダメ。さすが私の器ね、いい性格してるわ』
アイリスに褒められているのか貶されているのか分からないが、手応えは十分だった。
これなら、あのゴーレムの群れが来ても一網打尽にできる。
特訓を終え、再び「謎の魔術師ナル」の姿(ローブと仮面着用)に変装して森を歩き出そうとした時のことだ。
「キィェエアアアアアッ!!」
森の奥から、甲高い悲鳴が響き渡った。
見れば、大きな荷車を引いた商人の老人と、その孫らしき少女が、群れをなすフォレスト・ウルフに囲まれている。
(助けるぞ、アイリス!)
『ええ! 私の切れ味、見せてあげる!』
俺は地面を蹴り(※実際にはスライムのバネで跳躍し)、狼の群れのど真ん中に着地した。
「グルルゥッ!」
突然上空から降ってきたローブの男に、狼たちが牙を剥く。
一斉に飛びかかってくる三頭の狼。
だが、俺はローブの下で体を「Yの字」に分裂させ、両袖から一気に【フロスト・ウィップ】を放った。
ピシィィィッ!
凍気を纏った鞭がしなり、狼たちを空中で絡めとる。そのまま遠心力で木々に叩きつけると、狼たちは氷漬けになって気絶した。
「な、なんて魔法だ……無詠唱で、しかもあの動き……!」
「お爺ちゃん、あの人……!」
残りの狼が恐れをなして逃げていくのを見送り、俺はゆっくりと二人の元へ歩み寄った。
仮面の奥から、低く響く声(アイリスの魔力駆動)を出す。
「……怪我は、ないか」
ちらっ。ちらっ。
「は、はい! 助けていただき、本当にありがとうございます! 私は商人のトマス、こちらは孫娘のニーナと申します。魔術師様、お名前は……?」
「……リム。ただの、通りすがりの冒険者だ」
俺がローブを翻して(※風でめくれないように必死に粘着糸で押さえながら)背を向けると、二人は感極まったような目で俺を見送った。
(……よし、決まったな)
『ちょっとナルセ、調子に乗らないの。中身はぷよぷよのくせに』
命を救ったお礼として、トマス爺さんから町までの馬車への同乗を提案された。
歩く(這う)より断然楽なので、俺は「無口でクールな魔術師」の演技を保ちながら荷台に乗り込んだ。
「ナル様は、これからどちらへ?」
「……特に、決めていない」
キリっ。キリっ。
「でしたら、この街道の先にある『迷宮都市エーテル』へ行かれるのはいかがでしょう? 魔石や古代の遺物が集まる巨大な街です。あなたほどの腕前なら、迷宮で一財産築けるはずですよ」
その言葉に、俺の中のアイリスがピクリと反応した。
『ナルセ! エーテルに行くわよ! あの街の地下迷宮から、私と同じ「魔剣の破片」の魔力を微かに感じるわ。私の欠けた破片を見つけて吸収すれば、もっと強くなれる!』
(なるほど。破片を集めてアイリスを完全修復すれば、あのストーカー錬金術師をぶっ飛ばせるってわけか)
『そういうこと!』
異世界での当面の目標が、はっきりと定まった。
それは「魔剣の破片集め」と、「ストーカーからの逃亡」だ。
「……エーテルか。悪くない」
俺が呟くと、馬車はゆっくりと大きな街道へと合流していく。
ただの最弱スライムだった俺の、チート(魔剣)でハード(指名手配)な異世界サバイバル。
のんびり温泉旅行への道のりは、まだまだ遠そうだ。
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