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死神

ギター買おうと思ったけど高けえよ…。

仙人という新たな規格外スタッフを迎え入れたスライム温泉郷は、また一つ次元を超えた癒やしの領域へと足を踏み入れていた。


大浴場の隣に新設された【星巡りの茶室】では、作務衣を着せられた仙人が、渋い顔をしながら急須でお湯を注いでいる。


「……数万年の孤独を愛したこのワシが、なぜ一日五百杯もお茶を淹れねばならんのじゃ……」


ぼやきながらも、彼の淹れるお茶の味は本物だった。一口飲めば宇宙の真理が見え、二口飲めば前世の記憶が蘇り、三口飲めば魂が肉体からふわりと抜け出しそうになるほどの究極のデトックス効果。

そのあまりの心地よさに、茶室の畳の上では、宇宙海賊も、暗黒結社の元構成員たちも、完全に魂を口から半分出した状態で「へらへら」と笑いながら転がっていた。


俺(ギャラクシースライム)は、魂が抜けかけている客たちの口にスライムの触手を突っ込み、ポンッと魂を押し戻すという謎の救命作業に追われていた。


「おい爺さん! お茶の効能が強すぎる! リラックスを通り越して昇天しかけてるぞ!」

「ほっほっほ。ワシの茶は本来、百年かけて一口飲むものじゃからな。それをガブ飲みすればそうなるわい」


そんなドタバタが繰り広げられていた、その日の夕方。

茶室のふすまが、スゥッと音もなく開いた。


そこに立っていたのは、ボロボロの黒いローブを纏い、身の丈を越える巨大な大鎌を持った、文字通りの『死神』だった。顔のあるべき場所には漆黒の闇が広がり、周囲の温度が一気に氷点下まで下がる。


「……数万年、寿命を誤魔化し続けた仙人よ。ついに見つけたぞ。その魂、我が冥界へ……」


死神が恐ろしい宣告を口にしようとした瞬間。


「あ、お客様! 刃物のお持ち込みはご遠慮いただいております! 帳場でお預かりしますね!」


ステラ姫が、死神の大鎌をひったくるように回収してしまった。

「えっ? あ、ちょっと……それ、私の商売道具……」


さらに厨房から魔王が顔を出す。

「おお、随分と骨と皮だけ(物理)の客が来たな! 栄養が足りておらんぞ! 我の『特濃・魔界豚骨ラーメン』を食って肉をつけろ!」

「いや、私スケルトンなんで肉とかつかないんですけど……うわっ、熱っ!? でも美味い!?」


怒涛の接客コンボに、死神の威厳は一瞬で崩れ去った。


俺はぽよんと跳ねて、困惑しながらラーメンをすする死神の前に出た。

「お疲れ様。あんた、冥界の職員さんだろ? 最近、宇宙のあちこちでドンパチが多いから、魂の回収作業で相当ブラックな働き方させられてるんじゃないか?」


死神はラーメンのスープを啜りながら、ポロポロと(目はないが)涙を流し始めた。


「……そうなんですよぉ。過労死した社畜の魂とか、宇宙戦争の犠牲者とか、毎日毎日回収してもキリがなくて……。おまけに上司の閻魔は『ノルマ達成まで帰るな』って言うし……私、もう500年は寝てないんです……」


「500年無休!? それは完全な労働基準法違反だ! 労基に……いや、冥界の労基ってどこだ?」


俺がドン引きしていると、仙人がスッと湯呑みを差し出した。


「まあ、一杯飲むがよい。疲れた骨身に染みるぞ」


死神がその『星巡りの茶』を一口飲んだ瞬間。

カラン……と、死神の骨の手から湯呑みが滑り落ちた。


「あぁぁ……魂の……いや、私の骨の髄まで浄化されていく……。仕事とか、ノルマとか、どうでもいい……。私はただ、この温泉で永遠にふやけていたい……」


死神はそのまま畳の上にコロンと転がり、幸せそうないびき(骨が鳴る音)をかき始めた。


『ちょっとナルセ。この骸骨さん、お茶代も宿泊費も払ってないわよ』


いつの間にか帳簿を持ったアイリスが現れ、冷徹な視線を下ろす。


「まあ待てよ。彼には金じゃ払えない『価値』がある」


俺はニヤリと笑った。

「いいか? 死神がここでサボっているということは、今、この宇宙から『死』という概念が一時的にお留守になっているということだ。つまり、うちの宿でどれだけ魔王の激辛料理を食べても、どれだけ無茶なサウナに入っても、絶対に誰も死なない『超・安全週間』ってことだぞ!」


『……! なるほど! つまり、普段は危険すぎて提供できない【ブラックホール・バンジージャンプ】や【絶対零度・滝行】のアトラクションを、免責事項なしでガンガン回せるってことね!?』


アイリスのオッドアイが、ドルマークに輝いた。


「そういうことだ。死神さんには特別モニターとして無料で滞在してもらおう。彼のサボりが、うちの宿の最大のセキュリティになるんだ」


かくして、冥界の使者すらも常連客(実質的な不老不死の結界装置)として取り込んだスライム温泉郷。もはやファンタジーの女神も、宇宙の法則も、死の概念すらも、俺たちの極上の温泉とカオスなおもてなしの前では平伏すしかない。


俺は骨の髄までリラックスしている死神の隣で、でろーんと体を伸ばした。


「定時退社はできないけど、まあ、誰も死なない平和な職場ってのは、悪くないよな」

骸骨は黙ってろ(炎上)

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