女神、乙
伏黒投資
「……どうする? オーナー」
アーサーが小声で聞いてくる。
俺はため息(空気の泡)を吐き出し、ぽよんとルミナの膝に飛び乗った。
「まあ、あんたが俺をスライムにしてくれたおかげで、今の楽しい生活があるのも事実だからな。クレームは受け付けるけど、その前に……」
俺は、ルミナの凝り固まった肩(神気)を、スライムの触手でポンポンと叩いた。
「とりあえず、風呂に入ってけよ。話はそれからだ」
数十分後。
ワールド・タートルの甲羅の上、特等席のインフィニティ・プール「銀河の湯」に、女神ルミナの姿があった。
「あぁぁぁ……っ」
宇宙の星屑が溶け込んだ源泉と、亀の甲羅から伝わる太古の地球のエネルギー。
相反する二つの極上の魔力が、ルミナの『中間管理職(神)としての疲労』を根こそぎ溶かしていく。
「……世界観とか、設定とか……もうどうでもいいです……。お湯、サイコー……」
頭にタオルを乗せ、完全にふやけきった顔で空を見上げるルミナ。
俺は彼女の背中に張り付き、ギャラクシーボディの弾力を活かして神の肩甲骨をゴリゴリとほぐしていた。
ふっ。堕ちたな。
「だろ? ファンタジーだろうがSFだろうが、疲れたやつはお湯で癒やす。これが俺たちの『世界観』さ」
「……はい……オーナーの言う通りです……。私、もうこの温泉の虜です……。上層部の神々には、『この世界は実験的にマルチジャンル特区に指定しました』って報告書をでっち上げておきます……」
風呂上がり、ルミナは魔王の特製『フルーツ魔力牛乳』を腰に手を当てて一気飲みし、「ぷはぁっ!」とオヤジのような声を出した。
すっかり毒気を抜かれた彼女は、「来週もまた癒やされに来ますからね!」と笑顔で光の柱に乗って天界へと帰っていった。
『……結局、また常連の厄介な客が増えただけじゃない』
アイリスが呆れたように言うが、その顔はどこか満足げだ。
「まあな。でも、これで公的(?)にどんな客が来ても文句を言われなくなったわけだ」
俺はピカピカに磨かれた縁側で、再び体をでろーんと伸ばした。
はいお疲れ~かいさんかいさん




