はじめてのおつかい
ネーミングが安直なのは割愛♡
崖を飛び降り、森を抜けた俺たちは、街道沿いにある小さな宿場町『リリウム』の城門前にいた。
だが、大きな問題が一つ。
(なあアイリス。俺、どう見ても「青くて光る、剣を飲み込んだスライム」だよな? 門番に秒で串刺しにされないか?)
『……安心しなさい。私の魔力をあなたの表面に薄く展開して、「光の屈折」を操作するわ。名付けて【幻影の衣】よ』
(おお、魔法っぽい!)
アイリスが念じると、俺の青い体がじんわりと熱を持ち、周囲の景色に溶け込むように色が薄れていった。
完璧な透明……ではなく、少しだけ空気が歪んでいる程度だが、夜ならバレないはずだ。
潜入、そして盗み聞き
俺は門番の足元を「無音」で通り抜け、町へと潜り込んだ。
石畳の道、軒先に吊るされたカボチャのようなランプ。
中世ヨーロッパを彷彿とさせる光景に、元・日本人の血が騒ぐ。
まずは情報収集だ。
俺は酒場の裏窓の下に張り付き、中の冒険者たちの会話に聞き耳を立てた。
「聞いたか? 近くの『氷結の洞窟』で、新人冒険者が喋る剣を持った化け物スライムに襲われたらしいぜ」
「ああ、そいつのせいで洞窟の奥にあった『聖遺物』が奪われたってギルドが大騒ぎだ。賞金も懸かってるらしい」
(……アイリス、俺たち指名手配されてるぞ)
『失礼ね! 襲ったんじゃないわよ、正当防衛よ。それに「化け物」だなんて……。まあ、私の価値がそれだけ高いって証拠だけど』
アイリスは不満げだが、状況は最悪だ。
俺は「歩く高額賞金首」になってしまった。
まさにウォーキングまにーである。世はまさに、大冒険者時代ッ
うん。
このままではいつか見つかる。
俺には「人間の姿」への擬態が必要だ。だが、今の俺の解析能力では、人間を丸ごとコピーするのは無理がある。
『ねえ、ナルセ。あそこを見て』
アイリスが示したのは、仕立て屋の裏に捨てられていた「古びたローブ」と「革の仮面」だった。
(……なるほど。中身がスライムでも、服を着て形を整えれば……!)
俺は路地裏で、必死に自分の体を縦に伸ばした。
普段の「肉まん型」から、無理やり「細長い棒状」へと変化させる。
その上からローブを羽織り、フードを深く被り、顔の位置に仮面を固定する。
頭部: 粘着糸で仮面を固定。
胴体: 体積を増やしてローブを膨らませる。
足: 二股に分かれて「歩いている風」に波打つ。
(……どうだ?)
『……遠目から見れば、ちょっと猫背で不気味な魔術師に見えなくもないわね』
俺(変装バージョン)は、おぼつかない足取りで冒険者ギルドの扉を叩いた。
目的は一つ。公式な身分を手に入れ、追われる身から「追う側(冒険者)」に回ることだ。
「……あー、登録をお願いしたいんだが」
喉の代わりに、アイリスの魔力を使って空気を振動させる。
低くて、少し響くような、ミステリアスな声が出た。
受付の女性が、怪訝そうな顔で俺(ローブの塊)を見つめる。
「……お名前と、得意な魔法を教えていただけますか? 魔術師様」
俺は仮面の奥で、ぷるぷると震えながら答えた。
「名前は……ナル。得意なのは……『水』と『剣』だ」
こうして、史上初(?)の「スライム冒険者」が誕生した。
だが、この時の俺はまだ知らなかった。
ギルドの奥で、俺の体内に眠る「アイリス」の魔力を敏感に察知し、目を細める男がいることを――。
「……あの魔力の波長、間違いない。私の『最高傑作』が、スライムに喰われているな」
新たな影が、俺たちの背後に忍び寄っていた。
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