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相棒

小説書くなら今だ。そんな気がした。

『ちょっと! 私の体……じゃなくて、剣を飲み込むなんて、なんて非常識なスライムなの!』


脳内に響く声は、さっきまでの儚げな雰囲気から一転、かなり気の強そうな響きに変わっていた。

俺は意識の中で、精一杯の「申し訳なさ」を込めて念じる。


(いや、悪かったって。でも、あのままじゃ冒険者に売り飛ばされるか、溶かされて終わりだっただろ?)


『……それは、まあ、そうかもしれないけど。でも、よりによってスライムに寄生されるなんて……伝説の魔剣としてのプライドが……』


彼女――自称・魔剣の意識は、ぶつぶつと文句を言いながらも、俺の体と馴染んでいく。

不思議なことに、彼女と結合したことで、俺の視界はさらに鮮明になり、周囲の魔力の流れまで見えるようになっていた。


スライム、飛ぶ。

「おい、こっちだ! 突き当たりに隠し部屋があるぞ!」


背後からさっきの冒険者たちの声が聞こえる。しつこい。

俺は逃げ道を求めて、クリスタルが光る小部屋の天井を見上げた。そこには、地上へと続くと思われる細い縦穴が開いている。


『逃げるわよ、ぷよぷよ! 私の魔力の一部を解放してあげるから、しっかりしなさい!』


(ぷよぷよ言うな、俺には成瀬っていう立派な名前が……うおっ!?)


体内の「魔剣の破片」が急激に冷たくなったかと思うと、俺の底面から猛烈な勢いで冷気の噴射が巻き起こった。


「ブーストォォォ!!!」


俺の体はロケットのように縦穴へと打ち上げられた。

壁面にぶつかりそうになるたび、俺は【粘着糸】をスパイダーマンのように飛ばして軌道を修正する。



どれくらい飛んだだろうか。

急に視界が開け、冷たく澄んだ空気が全身を包み込んだ。


着地したのは、洞窟の出口……切り立った崖の上だった。

見上げれば、夜空には巨大な月が二つ。

地上には、見たこともないような極彩色の植物が広がる森が見える。


(……綺麗だな。月下の再誕とか似合いそうだ)


思わず見惚れていると、隣(というか俺の体の中)から、少し落ち着いた彼女の声が聞こえた。


『……ふん、まあまあの景色ね。で、私の名前は「アイリス」。これからは死ぬまで一緒なんだから、精々私のさびにならないように努力しなさいよね』


(成瀬だ。よろしくな、アイリス。……って、死ぬまで一緒って重くない?)


『魔剣は折れても死なないわ。あなたが消滅しない限りね』



崖の下には、街道のような道が見える。

そこを一台の馬車が走っていた。

どうやら、ここが本当の「異世界」の入り口らしい。


異世界に来たんだな。と思う。


とりあえず、この世界で目下の目標を設定しておく。


目標: 人間に擬態できるくらい強くなる。


目標: アイリスを元の姿に修復する。


目標: 今度こそ、定時で帰れる平和な生活を手に入れる。


「よし、行くか」


俺はスライム特有の弾力で、崖を「ぽよん」と跳ねた。

最弱のスライムと、折れた伝説の魔剣。

前代未聞の凸凹コンビによる旅が、今、幕を開ける。

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