逃走、出会い
定期的に更新するゾ
目の前に並ぶのは、筋骨隆々の戦士、軽装の盗賊、そして杖を構えた魔導士の三人組。
松明の炎が、彼らのぎらついた欲望を照らし出している。
「おいおい、あんなにテカテカしたスライム、見たことねえぞ」
「魔法銀の変異種か? だったら一生遊んで暮らせる金になるぞ!」
やばい。
彼らの会話を聞いて、俺の核が冷たく震えた。
こいつら、俺を「生き物」だと思ってない。ただの「歩く金塊」だと思ってやがる。
「やめろ、俺はただの元・サラリーマンだ! 暴力反対!」
叫んだつもりだったが、口から出たのは「プルルッ! ギュルルッ!」という奇怪な湿った音だけ。
それが彼らには「威嚇」に見えたらしい。
「ちっ、生意気な魔物め! 『火炎弾』!」
魔導士が杖を振ると、テニスボール大の火炎が俺に向かって飛んできた。
さっき手に入れた【硬質化】は物理には強いが、熱には弱そうだ。鉄剣も熱せられれば溶ける。
俺はとっさに、体内に蓄えていた「湿った苔」と「ネズミの毛」を、急激な熱で蒸発させた。
ボフンッ!!!
洞窟内に、猛烈な勢いで異臭のする煙が立ち込める。
「うわっ! なんだこの煙は!?」
「くさっ! 目が、目がぁぁ!」
彼らが怯んだ隙に、俺は【粘着糸】を天井に射出した。
スパイダーマンさながらに自分の体を吊り上げ、岩の隙間へと滑り込む。
煙が晴れる前に、俺は洞窟のさらに深部、人間が到底入れないような細い横穴へと逃げ込んだ。
心臓はないが、精神的な動悸が止まらない。
「ふぅ……死ぬかと思った。異世界、世知辛すぎだろ」
少し落ち着こうと周囲を見渡すと、そこはクリスタルが群生する神秘的な小部屋だった。
その中央に、一振りの「折れた剣」が突き刺さっている。
ただの鉄じゃない。透き通るような青い輝きを放つ、美しい剣の残骸だ。
俺が近づくと、頭の中に不思議な響きが届いた。
『……だれ、か……。わたしを……繋いで……』
それは、さっきの冒険者たちの怒声とは違う、鈴を転がすような少女の声だった。
「え、誰? 幽霊?」
返事はない。ただ、その折れた剣から、切実なまでの魔力を感じる。
俺の【解析】スキルが勝手に発動した。
《 対象:聖遺物『蒼氷の魔剣(破損)』を検知 》
《 提案:【擬態:鉄剣】と【結合】させることで、修復およびスキルの継承が可能です 》
合体、しちゃうのか?
しちゃうのか?どうする?
俺は迷った。
これを吸収すれば、確かに強くなれるだろう。
でも、この「声」の主はどうなる?
「……まあ、あいつらに見つかってスクラップにされるよりは、俺と一緒にいた方がマシだよな」
俺は覚悟を決め、ぷるぷるとした体でその青い刃を包み込んだ。
冷たい。氷を飲み込んだような衝撃が全身を突き抜ける。
《 結合を開始します――成功。》
《 固有スキル【氷結】を獲得 》
《 個体名:なし が、意思を持つ魔剣スライムへと変異しました 》
その瞬間、俺の意識の中に、一人の少女の姿がぼんやりと浮かび上がった。
彼女は驚いたように目を見開き、俺を見つめて言った。
『……あなた、ただのぷよぷよじゃないのね?』
どうやら、俺の異世界生活に、初めての「話し相手」ができたらしい。
……ただし、彼女も俺と同じ「中身だけ」の状態みたいだけど。
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