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はじまり

はじめまして。KYOと申します。

この度は手を止めていただきありがとうございます。

ぬるり。

「は?」

目が覚めたとき、最初にしたのは「まばたき」……ではなかった。

そもそも、まぶたがなかった。


意識はある。けれど、手足の感覚が一切ない。代わりに感じたのは、ひんやりとした地面の感触と、自分の体が重力に従って「でろん」と広がっている奇妙な一体感だった。


「……あれ?」


声を出そうとしたが、喉がない。思考はクリアなのに、肺から空気を出す感覚が皆無だ。

俺は焦って体を動かそうとした。すると、視界(といっても、360度なんとなく把握できる不思議な感覚だ)がぶるんと揺れ、体が芋虫のように波打った。


「……スライムじゃん、これ」


ステータス確認:最弱のスタート

かつて読んだラノベの知識が、パニック寸前の脳裏をよぎる。

異世界転生。チート能力。美少女勇者。

だが、今の俺にはどれも縁がなさそうだ。水たまりに色がついて、少し粘り気を持たせただけの存在。それが今の俺、元・しがない会社員の成れの果てだった。

まあ、今はどうだっていいけど。


周囲を見渡すと、そこは薄暗い洞窟のようだった。

湿っぽく、苔が生え、時折天井から水滴が落ちてくる。


ピチャン。


頭(らしき場所)に当たった衝撃で、俺の体は「ぷるん」と小刻みに震えた。

痛くはない。ただ、情けない。


しばらくすると、違和感に気づいた。

いつまでも落ち込んでいても、腹は減るらしい。

正確には、体のエネルギーが枯渇していくような、妙な焦燥感に襲われた。

俺は本能に従い、近くに生えていた発光する苔に向かって、ズルズルと這い寄った。


包囲: 苔を体の一部で覆い隠す。

吸収: じわじわと体内に取り込む。

溶解: 消化液(?)のようなもので分解する。


「お、意外といける……」


苔を食べると、ほんのりと苦い、ハーブのような感覚が全身に広がった。

すると、脳内に無機質な声が響く。


《 経験値を獲得しました。スキル【消化効率・微増】を獲得 》



少しだけ体が大きくなった気がして調子に乗っていたその時、洞窟の奥からカサカサと嫌な音が聞こえてきた。


現れたのは、体長50センチはある巨大なネズミ。

前歯は鋭く、目は赤く光っている。そいつは、明らかに「手頃な餌」を見つけたという顔で、俺を凝視していた。


「……待て。交渉しよう。俺はただの、無害なゼリーだ」


目が光ったままだ。意思に変わりはない、と。

通じない。

ネズミが跳躍する。

俺は必死に体を縮め、反動で横に跳ねた。


ぷよんっ!


地面を叩いたネズミの爪が、岩を削る。

危ねえ。スライムの体は意外と弾力があるらしい。

逃げるか? それとも――。


俺は覚悟を決めた。

どうせ二度目の人生だ。ただ食われるだけのゼリーで終わってやるもんか。

俺はネズミが体勢を立て直す隙を突き、全身の筋肉(?)をバネのようにしならせ、その顔面へと飛び込んだ。


「必殺、窒息フルコース!」


スライムの夜明け

ネズミの悲鳴が、俺の体の中でこもって消えていく。

暴れるネズミを、俺は必死に全身の粘着力で押さえつけた。

数分後、静寂が訪れる。


《 レベルが上昇しました。個体名:なし から【ラージスライム】へ進化可能です 》


洞窟の奥で、俺は静かに決意した。

この「ぬるり」とした体で、いつかはこの世界の頂点……いや、せめて人里離れた温泉地で、のんびり余生を過ごせるくらいには強くなってやる、と。


異世界スライム生活。

どうやら、思っていたよりは「歯ごたえ」がありそうだ。

……俺に、歯はないけれど。

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