星の子
パクり?してないYO?
スライム温泉郷が「ギャラクシー・ダンジョン・スパ」として宇宙全土に名を轟かせるようになってから、さらに数週間。
季節は巡り(宇宙に季節があるのかはさておき)、今日は全宇宙の星々が最も美しい軌道を描く【銀河星降る夜】の日であった。
この日は、流れ星に向かって願い事をすると、宇宙の意志がそれを叶えてくれるというロマンチックな日だ。当然、うちの宿の裏山にある露天風呂「銀河の湯」は、星空を眺めながら願い事をしたいという客で超満員になっていた。
「フハハ! 流れ星よ! 我に究極の幻の食材『スペース・バハムートの霜降り肉』を寄越せ!」
「俺の願いはただ一つ! 薪割りの完全自動化……いや、やっぱり新しい聖剣の鞘が欲しいです!」
「わたくしは、全自動ゴーレムの最新OSアップデート権を!」
従業員たちも、客に混じって夜空に向かって欲望全開の願いを叫んでいる。
俺は、縁側でペラペラになりながら、静かに夜空を見上げていた。
(俺の願いは一つだ。……誰にも邪魔されない、丸三日間の完全なる有給休暇。どうか、星の神様、俺に定時退社と安らかな眠りを……!)
『ちょっとナルセ。有給なんて許可しないわよ。私の願いは、この宿の売上が今の100倍になることなんだから!』
アイリス(アバター姿)が、扇子で俺のゼリー状の体をペシペシと叩く。相変わらずの守銭奴魔剣である。
その時だった。
夜空を流れていた無数の星の一つが、異常な軌道を描いて、俺たちの旅館の方へ真っ直ぐに落ちてきたのだ。
「お、おい! あれ、こっちに向かってきてないか!?」
アーサーが聖剣を構える。
ズドォォォォォンッ!!!
巨大な流れ星は、旅館の裏山、ダンジョンコアのコロンが管理するアトラクションエリアのど真ん中に見事に墜落した。
もう慣れっこになった爆発音と土煙。俺たちはため息をつきながら、墜落現場へと向かった。
クレーターの中心にあったのは、隕石でも宇宙船でもなく、星の光をギュッと丸めたような、手のひらサイズの「光る小石」だった。
いや、よく見ると小石ではない。
「きゅぅ……」
光る小石には、小さな目と口がついていた。
それは、宇宙の願いを運ぶ妖精【星の子】だったのだ。
「……おいおい。願いを叶える流れ星そのものが、うちに落ちてきちゃったぞ」
俺が触手でつつくと、星の子はプルプルと震えながら、か細い念話を送ってきた。
『ごめんなさい……。みんなの願いが重すぎて、魔力オーバーで墜落しちゃったの……。お空に帰らないといけないのに、飛ぶ力が残ってないよぉ……』
どうやら、全宇宙の(そしてうちの強欲な従業員たちの)重すぎる願いを一手に引き受けてしまったせいで、エンストを起こしてしまったらしい。
『あら、じゃあうちの温泉で魔力をチャージしていけばいいじゃない! その代わり、チャージ代として私の願い(売上100倍)を最優先で叶えなさいよね!』
アイリスが星の子を拾い上げ、ずんずんと露天風呂へと連れて行く。
星の子は「銀河の湯」に浸かると、「きゅぅぅ〜!」と心地よさそうな声を上げ、みるみるうちに輝きを取り戻していった。宇宙源泉の星屑魔力と、星の子の相性は抜群だったらしい。
「よし、魔力はフル充電されたみたいだな。でも、どうやって空(宇宙)まで戻すんだ? 宇宙船に乗せるか?」
俺が尋ねると、ダンジョンコアのコロンが念話で答えた。
『それなら、私のアトラクションとオーナーさんの力を使えば、一気に宇宙まで打ち上げられるよ!』
コロンの提案はこうだ。
ダンジョン内に設置した「超・大砲トラップ」の砲身に、魔王の暗黒魔法で火薬(推進力)を詰め、アーサーの聖剣で空気抵抗を切り裂きながら撃ち出す。
そして最大のポイントは、俺が砲身の中で「最強の弾力クッション(バネ)」となり、星の子を優しく、かつ超音速で宇宙の軌道まで押し出すという無茶苦茶な作戦だった。
「いや、俺がクッションって……また俺の体が酷使されるのか!?」
「いくぞスライム! 我の暗黒爆炎、出し惜しみはせんからな!」
「聖剣の軌道計算、完璧です! いつでもいけます!」
従業員たちが、星の子を宇宙へ帰す(そして自分の願いを叶えてもらう)ために、異常なほどの団結力を見せ始める。
俺は、裏山に突き出た巨大な大砲の底で、限界まで体を圧縮させて「バネ」の形になった。
その上に、ポスンと星の子が乗せられる。
『オーナーさん、みんな、ありがとう! お空に帰ったら、みんなの願い事、絶対叶えるからね!』
「よし! 発射ァァァッ!!」
魔王の爆炎が着火し、大砲の内部で凄まじいエネルギーが膨張する。
俺は自身のギャラクシーボディの反発力を、極限の極限まで高め、一気に解放した!
ボヨォォォォォンッ!!!
俺の弾力と魔王の爆炎に乗って、星の子は一筋の光となり、アーサーが切り裂いた無風の真空トンネルを抜けて、あっという間に宇宙の彼方へと飛んでいった。
夜空に、ひときわ眩しい星がピカリと輝き、銀河に溶け込んでいく。
大砲の底でペラペラになった俺を、アイリスが扇子ですくい上げてくれた。
『ふふっ。これで明日には、宿の売上が100倍になってるはずよ!』
「我の幻の肉も届くはずだ!」
「新しい聖剣の鞘!」
みんなが夜空を見上げてワクワクしている中、俺は静かに目を閉じた。
(これで俺も、ついに三日間の完全有給休暇が……!)
翌朝。
俺の願いが叶ったのか、旅館には「臨時休業」の札が掲げられていた。
だが、俺が布団の中で歓喜したのも束の間。
「オーナー! 起きてください! 臨時休業にして、全員で宿の大掃除と設備点検をやろうって女将が言ってます! 売上100倍にするための先行投資ですって!」
「フハハ! スライムよ、幻の肉は届かなかったが、代わりに『超巨大スペース・イノシシ』が裏山に出たぞ! 今日は一日中、狩りと解体だ!」
……どうやら、星の子は「みんなの願いの平均値」をとって叶えてしまったらしい。
休業日(俺の願い)にはなったが、売上アップの準備(アイリスの願い)と、肉の調達(魔王の願い)と、新しい木材の伐採(アーサーの願い)がすべて同時に押し寄せてきたのだ。
「……ふざけんなァァァッ!! 俺の有給を返せェェェ!!」
スライムの悲痛な叫び(空気の泡)が、青空に虚しく響き渡る。
クロタイツ。クロタイツねえ。




