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番組

害悪書くほうがいいか。?

銀河のサウナブームの火付け役となった宇宙暴走族たちを見送った数日後。スライム温泉郷の上空に、またしても見慣れない形状の宇宙船が現れた。

今度のは軍艦でもヤンキー仕様のバイクでもなく、機体の側面にデカデカと「全宇宙放送局ユニバーサル・ブロードキャスティング」のロゴがペイントされた、巨大な中継車型の宇宙船だった。


エントランスに降り立ったのは、ベレー帽を被り、首からメガホンを下げた、いかにも「ギョーカイ人」といった風貌の四つ目の宇宙人ディレクターと、大量の機材を抱えた撮影クルーたちだ。


「はーい、カットカット! もっと自然な感じで温泉の湯気を撮って! そこのスライムオーナー、もうちょっと左に寄ってくれる? 画角的にゼリーのテカリが足りないんだよねー」


四つ目のディレクターは、到着するなり自分の庭のように仕切り始めた。

ギャラクシースライムは、言われるがままにピカピカに磨かれた廊下の上で少し左にズレた。宇宙一の温泉宿の日常に密着するドキュメンタリー番組の撮影オファーを、若女将のアイリスが「莫大な放映権料」と引き換えに二つ返事で受けてしまったからだ。


「あのさ、ディレクターさん。うちはありのままの接客を撮ってもらう約束だろ? あんまり指示を出されると、みんなの自然な動きが死んじゃうんだけど」


俺がぼやくと、ディレクターはメガホンをくるくると回しながら大げさに肩をすくめた。


「オーナー、分かってないねェ。テレビってのは『作られたリアル』こそが一番視聴率を稼げるんだよ。ただ温泉に入って美味い飯を食うだけじゃ、絵面が地味でしょ? だから、ちょっとした『ドラマチックな演出』を入れたいワケ」


そう言うと、ディレクターは分厚い台本を俺たちの前にドサッと置いた。

そこには、信じられないような「ヤラセ」の指示がびっしりと書き込まれていた。


「えーっと、まずは厨房の魔王さん。ちょっとスープを焦がして失敗して、女将に怒られて涙を流すシーンを撮りたいんで、よろしく!」

「……なにおぅ? 貴様、我が『暗黒絶対温度調整』で作る究極のスープを焦がせと申したか? 我の料理人としてのプライドを粉微塵にする気か!!」

魔王の背後に、世界を滅ぼすレベルのどす黒いオーラが立ち上る。


「あー、ストップストップ! 魔王さん、顔がガチで怖すぎるから! 視聴者層はファミリーなんだから、もっとドジっ子っぽく『てへぺろ』って感じで頼むよ!」

「て、てへ……貴様、殺すぞ!!」

魔王が本気で包丁を投げようとするのを、俺が慌てて触手で止めた。


「それから、そこの勇者くん! 薪割りのシーンなんだけど、君の聖剣の軌道が速すぎてカメラに映らないのよ。もっとこう、『ふんぬぅぅ!』って汗水垂らして、一本の薪に苦戦してる感じでよろしく!」

「いや、俺のレベルだと薪に触れる前に空間の断層で切断しちゃうんで、苦戦しろって言われても……。逆にどうやったらゆっくり切れるんですか?」

勇者アーサーが困惑して首を傾げる。


「だーっ! 君たち、全然テレビ分かってないねェ! もっと等身大の、共感できるダメっぽさが欲しいのよ!」


ディレクターが頭を抱える。

無理もない。ここの従業員は、全ステータスがカンストしている異世界のバケモノ揃いなのだ。「普通の失敗」など物理的に不可能なのだ。


「もういい! ならば、とっておきの『演出』を使わせてもらう!」


ディレクターは懐から、カプセル状の魔導具を取り出した。

「これは、番組のロケ用に用意した『凶暴に見えるけど実は安全なCG合成用モンスター』の召喚カプセルだ! こいつが旅館を襲うフリをするから、君たちが協力して撃退する『感動の絆シーン』を撮るぞ!」


彼がカプセルを床に叩きつけると、ドロンッという煙と共に、巨大な三つ首の宇宙ドラゴンが姿を現した。


「ギャオォォォォォッ!!!」


その咆哮は、旅館の窓ガラスをビリビリと震わせ、撮影クルーたちすらも吹き飛ばすほどの凄まじい暴風を巻き起こした。

口からは本物のプラズマ火炎が漏れ出し、ロビーの観葉植物が一瞬で消し炭になる。


「……あれ? ちょっと待って。発注した安全なモンスターと違う……ていうか、こいつ、指名手配されてる本物の『銀河喰らいの暴竜』じゃん! カプセルの業者が間違えたんだ! 逃げろォォォッ!!」


ヤラセのつもりが、ガチの宇宙災害を呼び寄せてしまったディレクターは、真っ先に機材を放り出してロビーの隅に隠れた。

暴竜が三つの首をもたげ、旅館全体をプラズマの業火で焼き尽くそうと息を吸い込む。


だが、俺たちの宿の従業員は、誰一人として動じていなかった。


「おい、トカゲ。我の厨房の前に土足で上がるな。床が汚れるだろうが」

魔王がエプロン姿のまま、ため息をついてお玉を構える。

「ちょうどよかった。女将に『今日の夕食のメインディッシュが足りない』って言われてたんですよね」

アーサーが、ニコニコしながら聖剣のロックを外す。

上空からは、天竜が『我の昼寝の邪魔をするのはどこの田舎者だ?』と巨大な目をギョロリと光らせた。


暴竜は、目の前の「ただの料理人と下働きの青年」から放たれる、宇宙の法則を捻じ曲げるような圧倒的な殺気に気づき、ピタリと動きを止めた。三つの首が同時に「あっ、これアカンやつや」という顔をして、冷や汗を流して後ずさりする。


「まあまあ、二人とも。せっかくテレビのカメラが回ってるんだ。あんまり血生臭い絵面は放送コードに引っかかるぜ」


俺はぽよんと跳ね上がり、暴竜の目の前に着地した。

そして、ギャラクシーボディを限界まで膨張させ、暴竜の巨体をスライムの体で丸ごとすっぽりと包み込んだ。


「【超広域・スライム・ドライクリーニング】!!」


俺の体内で、宇宙源泉とアイリスの冷気、そして魔王の提供した特製洗剤が絶妙にブレンドされ、暴竜のウロコの間に詰まった宇宙の汚れ(と凶暴性)を、超音速の振動で洗い落としていく。


「ギュピィィィィィ……(きもちいいぃぃぃ)……」


数秒後。

俺がスライムの体を解除すると、そこには、プラズマの炎を吐く凶暴な宇宙ドラゴンではなく、ウロコがピカピカに磨き上げられ、完全に毒気を抜かれて「おすわり」をしている、つぶらな瞳の巨大トカゲがいた。


「よし、綺麗になったな。暴れた罰として、今日からお前は大浴場の『サウナストーン温め係』としてバイト採用だ。時給はまかない(魔界の極上肉)付きだぞ」


暴竜は「キャンッ!」と犬のように嬉しそうに吠え、尻尾を振りながらサウナ室へと走っていった。


ロビーは静まり返っていた。

ディレクターと撮影クルーたちは、震える手でカメラを回したまま、口をポカンと開けて固まっている。


『……ちょっと、そこのディレクター』


いつの間にか、帳場で算盤を弾いていたアイリスが、冷ややかな視線で彼らを見下ろしていた。

『今の『感動の絆シーン』、バッチリ撮れたかしら? やらせなんて必要ないのよ。うちの日常が、宇宙で一番のエンターテインメントなんだから。……それと、観葉植物を燃やした損害賠償、放映権料から天引きさせてもらうわよ』


ディレクターは、ガクガクと震えながら「は、はいぃぃぃっ! 最高の絵が撮れましたァァァ!」と土下座した。


後日。

この「ヤラセ一切なしのガチ密着ドキュメンタリー」は全宇宙で放送され、視聴率99.8%という前代未聞の記録を叩き出した。スライム温泉郷の知名度はさらにバグレベルに跳ね上がり、今度は「あの暴竜のサウナストーンでととのいたい」というサウナーたちが、銀河中から押し寄せることになった。


俺は今日も、ピカピカの廊下を這い回りながら、静かに悟りを開いている。

もしもし?

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