爆音
時々差し込んでいく「ぬるり」
宇宙暴走族連合の貸し切り当日。
スライム温泉郷の上空から、爆音のエンジン音(宇宙空間なのにどうやって音を鳴らしているのかは謎だ)を轟かせながら、無数のヤンキー仕様ホバーバイクが降下してきた。
彼らは全身にトゲトゲのついた宇宙服を着込み、モヒカン頭やリーゼント頭(ヘルメットの形状がすでにモヒカンだ)を揺らしながら、肩で風を切ってエントランスに乗り込んできた。
「オラオラァ! ここが心を洗ってくれるって噂の温泉かァ!? 俺たち『銀河死吐羅威苦』の魂、洗えるもんなら洗ってみろヤァ!」
先頭に立つ、ひときわ巨大なリーゼントの宇宙人(族長)が凄む。その後ろで数百人の特攻服(宇宙服)を着たヤンキーたちが「オゥオゥ!」と威嚇の声を上げた。
(……ヤバい。完全に治安が崩壊してる)
俺は、帳場のカウンターの裏でぷるぷると震えていた。
だが、うちの従業員たちはこんなことでは動じない。
「うるさいですね。エントランスにホバーバイクを停めないでください。そこは天竜様の昼寝スペースです」
ステラ姫が、元・銀河帝国皇女の威厳(と冷ややかな目)でピシャリと言い放つ。
「あぁん!? 誰に向かって口きいて……ひぃっ!?」
族長が凄もうとした瞬間、厨房からエプロン姿の魔王がヌッと顔を出した。その手には、巨大な宇宙クラーケンの足をぶつ切りにするための、血塗れの出刃包丁が握られている。
「……おい。我の繊細なスープの仕込み中に、耳障りな排気音を鳴らしたのは貴様らか? 次鳴らしたら、そのリーゼントごと三枚に下ろすぞ」
魔王が放つ、惑星を丸ごと消し飛ばすレベルの殺気。
宇宙の荒くれ者たちは、一瞬で「ヒィィッ!」と直立不動になった。さすがの宇宙暴走族も、ファンタジー世界のガチ魔王の前ではチワワ同然である。
『さあ、静かになったところで。ご予約の暴走族連合御一行様ね。まずは大浴場へ行きなさい。心を洗うんでしょう?』
アイリス(アバター姿)が、扇子をパチンと鳴らして風呂場の方を指差す。
ヤンキーたちはコクコクと頷き、逃げるように大浴場へと向かっていった。
数十分後。
「あちぃぃぃっ! なんだこの熱湯はァァ!?」
「族長! 肌が、肌が溶けちまうッス!」
大浴場から悲鳴が上がった。
俺が様子を見に行くと、ヤンキーたちは魔王好みの超高温設定(マグマ一歩手前)になっている「銀河の湯」の縁で、真っ赤に茹で上がってじたばたしていた。
(あちゃー。あいつら、見た目はイカついのに熱湯には弱いのか。というか、魔王の温度設定がおかしいんだけどな)
俺はポヨンと跳ねて、彼らの前に出た。
「お前ら、温泉の入り方を知らないな? 心を洗いたいなら、ただ熱いお湯に浸かるだけじゃダメだ。俺についてきな」
俺は彼らを、大浴場の奥に新設された【超時空・スライムサウナ】へと案内した。
これは、俺のギャラクシーボディの魔力と、アイリスの炎の魔力を掛け合わせて作った、究極のサウナ室だ。
「まずはここで、限界まで汗を流す。宇宙のしがらみも、暴走族としてのメンツも、全部汗と一緒に流しちまえ」
俺がサウナストーンに宇宙源泉をぶっかけ、極上のロウリュ(蒸気)を発生させる。
ヤンキーたちは「熱ぃぃ!」と悶えながらも、じっと耐え忍んだ。
「よし、次は水風呂だ!」
俺の合図で、彼らはアイリスの絶対零度で作られた【極寒・星屑水風呂】へと飛び込む。
「ヒィィィィッ! 冷てェェェッ!」
急激な温度変化に、彼らの細胞が強制的に引き締められる。
「そして最後は……外の風を浴びて、無になるんだ」
裏山の絶景を望む外気浴スペース。
インフィニティチェア(ドワーフの職人特製)に深く腰掛けた族長とヤンキーたちは、夜空に輝く二つの月と、星間ゲートからこぼれ落ちる星屑をぼんやりと見上げていた。
彼らの体から、フワァァァ……と、長年溜め込んでいた反抗期特有のトゲトゲしいオーラが抜けていく。
宇宙の果てまで走り続けなければならないという焦燥感。誰よりもナメられちゃいけないというプレッシャー。
それらがすべて、宇宙の風に溶けて消えていく。
「……あぁ……」
族長が、恍惚とした表情でポツリと呟いた。
「……ととのったァァァ……」
その瞬間、族長の頭に乗っていた巨大なリーゼントが、パラパラと崩れ落ち、サラサラのストレートヘア(キューティクル全開)へと生まれ変わった。
他のヤンキーたちも同様だ。トゲトゲの宇宙服を脱ぎ捨てた彼らは、完全に「温泉とサウナの魅力に取り憑かれた、ただの健康的な好青年」へとクラスチェンジを果たしていた。
「オーナー……あんた、すげェよ。俺たちの魂、マジでピッカピカになっちまった。俺たち、もう暴走族はやめる。これからは『銀河サウナ普及委員会』として、全宇宙にこの感動を広めていくッス!」
族長が、俺に向かって深々と90度のお辞儀をした。
その後ろで、数百人の元・ヤンキーたちが「あざっしたァァァ!」と一斉に頭を下げる。
俺は、ペタンと床に座り込みながら、小さく息を吐いた。
「……おう。サウナの後は水分補給を忘れるなよ。食堂で魔王が特製の『魔界ポカリ』を作って待ってるから、飲んでいけ」
「うっす!!」
元・ヤンキーたちは、爽やかな笑顔で食堂へと駆けていった。
『ふふっ。また一つ、宇宙の治安が良くなったわね。しかも彼ら、次回から回数券を買って通ってくれるそうよ』
アイリスが、売上帳をパラパラと捲りながらホクホク顔でやってきた。
(治安が良くなるのはいいが、これでまた常連が増えちまったじゃないか。俺の定時退社は……いや、もう言うまい)
俺は、サウナ室の掃除道具(触手)を器用に操りながら、静かに悟りを開きかけていた。
どんな荒くれ者でも、お湯とサウナがあれば丸くなる。はず。
「ぬるり」
たまには休みたいよな。
音楽聞きながら寝そべりてえ。




