プレジデンツ・ビームッ!!!
大統領はなんちゃら
「宇宙大統領ご一行様、100部屋貸し切り」。ステラ姫の悲鳴のような報告から数日、スライム温泉郷はかつてないピリピリとした空気に包まれていた。
いや、正確にはピリピリしているのは俺たち従業員ではなく、大統領の先発隊としてやってきた「銀河シークレットサービス」の黒スーツ集団である。彼らは無表情のままサングラスをかけ、旅館のあちこちで謎の探知機を振り回していた。
「厨房の魔力値、レッドゾーン! あの角の生えた料理人が持つ包丁から、惑星を三つ消し飛ばせる暗黒エネルギーを検知! 即刻、対消滅シールドで隔離せよ!」
「なにおぅ!? 貴様ら、我の神聖なる仕込みを邪魔する気か! この包丁は昨日、勇者の聖剣用の砥石でピカピカに研いだばかりの最高級品だぞ!」
魔王がネギを刻む手を止めてブチギレる。その横では、勇者アーサーがシークレットサービスに羽交い締めにされていた。
「危険人物確保! こちらの金髪の男が所持している武器、伝説級の聖剣と判明! 大統領への暗殺の危険あり!」
「いや、違うんだって! これ、今日はただの薪割り用の斧として使ってるだけで……痛っ、関節キメるな!」
館内の至る所で、異世界最強クラスの従業員たちと、宇宙最高峰のセキュリティ部隊による小競り合いが勃発している。俺は、帳場のカウンターでスライムの体をぺったりと平たくし、現実逃避の昼寝を決め込もうとしていた。
『ちょっとナルセ! 逃げないでなんとかしなさいよ! あいつら、大統領の安全のためとか言って、うちの自慢の宇宙源泉に「完全無菌の防弾用ゲル」を混ぜるとか言い出してるのよ!』
アバター姿のアイリスが、扇子をへし折らんばかりの勢いで怒り狂っている。
さすがに温泉の泉質をいじられるのは、温泉宿のオーナーとして見過ごせない。俺は重い腰を上げ、ぽよんと跳ねてシークレットサービスのリーダー格らしき男の前に出た。
「あのさ。あんたたちが大統領を守りたいのは分かるけど、温泉に防弾ゲルを入れたら、ただの『冷たいスライムのプール』になっちまうだろ。それではうちの宿の癒やしは提供できない」
「喋る軟体生物……貴様がオーナーか。大統領の命に代えられるものなどない。完璧な警護のためには、あらゆるリスクを排除するのが我々の任務だ」
男は冷徹に言い放つ。俺は一つため息(空気の泡)を吐き出すと、自分のギャラクシー柄の体を、ドスゥンと男の目の前で限界まで膨張させた。
「リスクを排除したいなら、俺がこの宿の『絶対防壁』になってやる。防弾ゲルなんかより、よっぽど確実で、しかも肌に良いぞ」
俺は自身の体から、宇宙の星屑魔力と、アイリスから流れ込む【双極領域】の魔力を全開に引き出した。無色透明で、ほんのりと温かいスライムのオーラが、旅館全体をドーム状にすっぽりと覆い尽くす。
名付けて、【超広域スライム・セキュリティ・結界】だ。
「な、なんだこのエネルギーフィールドは!? 外部からのあらゆる物理攻撃、魔法攻撃、さらには次元干渉すらも、致死率0%に変換して弾き返している……!」
シークレットサービスたちが、探知機を見つめて驚愕の声を上げた。
「これなら文句ないだろ。大統領には、最高の風呂と最高の飯を堪能してもらう。お前らも、ピリピリしてないで後で風呂に入っていけ」
俺がスライムのオーラを維持したまま言うと、リーダーの男はサングラスの奥で目を瞬かせ、やがて深く一礼した。
「……信じられん。これほど完璧で、かつ……恐ろしいほどに『肩の力が抜ける』防壁は初めてだ。……了解した、オーナー。警護は貴殿の結界に一任する」
かくして、無駄な警備プロトコルは撤回され、いよいよ宇宙大統領ご一行が到着した。
大統領は、銀河の重圧を背負った気難しそうな老人だったが、俺の結界と温泉、そして魔王の料理を堪能した結果、わずか一泊で「……もう政治は副大統領に任せて、ワシはここで畑でも耕そうかのう」と、完全に毒を抜かれた好々爺と化してしまった。
最近洋楽聴くのはまってる。おすすめのやつおしえてくれ




